第430話 修行

 生態系を破壊したことがあるというのは認める……街に住む人々が魔物に困っていたからそれらを全滅させたということはあるが、流石に山の生態系ごと吹き飛ばしてしまったことなんて人生で一度もなかった。


 魔法の力というものは偉大だ。あんなに無残にも私の魔法で吹き飛んだ山もあら不思議。


 崩れた瓦礫が上へと持ち上がり、各々が勝手に元いた場所まで戻っていく。無論それは私の魔法の力だ。


 元通りとはいかずとも少し滑稽な山にまで戻った。イメージというものをするだけで、オリジナル魔法作り放題である。


 中央の中心部分だけ、瓦礫もなこらず吹き飛ばしてしまったからどうにもならないが、崩れにくくなるように補強はしておいた。


 自分で言うのもなんだが遠く離れたところからこんな凄まじい魔法が放てるとは思ってもみなかった。


「いや、これに関しては将軍が異常なんだよな……」


 将軍は私にわざわざイメージによる魔法の強化を教えてくれた。それはもはや敵にすることでは絶対にありえないことだ。


 これでますます敵なのか味方なのかよくわからなくなってきた。立場では敵なんだけどね……紛らわしいったらありゃしない。


 《最後まで気は抜かないでください》


 分かってますともツムちゃん!私の情報源の半分はツムちゃん情報なので、今後ともどんどん頭の中で語りかけてくださいな。


 《わかっているのですか?あなたが死んだら、私も死ぬのですよ》


 え、そうなの?


 《スキルは宿主が死亡すると、その場でエネルギーとして変換されます。これはスキルにおける『死』と言えるでしょう》


 でもこの間私が死んだときは天界までついてきていたじゃん!


 《それは、あなたの体から通常ではありえないエネルギーが放出されていたからです。その原理については私には理解できませんでした》


 それはおそらく私のもう一つの語りかけてくる『何か』のことだろう。ツムちゃんと違って、語りかけてくるもう一人は私をどうしてもダークサイドに堕としたいらしい。


 耳元で邪悪なことをずっと囁いている。ただ、一度死んでからはまだ声を聞いていないから結局あれが何なのかはよくわかっていない。


 邪悪な性格をしているということ、一応交渉と会話は成立するということだけしか今のところわかっていないが、今はツムちゃんがいるから頼ることはそんなに……ないはず。


 通常ではありえない力というくらいなのだから、あの邪悪な何かが特別な存在であることには違いないだろう。


「ふう、修復も終わったことだし、将軍のとこに……って、もういなくなってんじゃん」


 私の強化された視力で将軍がいるであろう方向を見るとそこにはもうすでに人の形は見えなかった。


「なんだ、もう少し魔法について教えてくれてもよかったのに」


 相手が敵だったとしても利用できるものは何でも使わないとね。魔法の威力が爆発的に伸びたことだし、今度は体術のコツでも聞きたかったのだけど……それはまた別の人にでも聞くか。


「ともかく、今は街で大人しくしているしかないよね」


 街から逃げればいなくなったことに気づいた将軍が私のことを追ってくるかもしれない。将軍から逃げ切れる自信はないというのと、お兄様を都に残すのは危険だから、今はこうして修業でもしていよう。


「久しぶりにあれやるかな」


 最近は訓練をする暇が無くなっていたのでやれていなかったのだが、私が力をつけられるようになった理由……元凶?を行う。


 それは魔力を体の外に逃がしながら常に体に負荷を与えることと、ただの筋トレだ。


「いつまでたっても筋肉はつかないけど、これをやった後は魔力が結構増えるんだよね」


 この訓練をするのは二年ぶり以上だが、まだ効果はありそう。だけど、今一つ物足りない。


 私の肉体や魔力が強力になってきて、これだけでは物足りなくなってきたのだ。


「どうしようツムちゃん。もっといい負荷のかけ方ないかな?」


 言っていることが筋トレマニアのそれだが、しょうがないだろう。


 《先に言っておきますが、筋肉をつけることはできません》


「ええー!?なんでだよーーー!?」


 《お忘れかと思いますが、あなたはもう人間とは程遠い存在なので、筋肉をつける必要がないのです》


 なに?筋肉が必要なのは人間とかか弱い生き物だけってか?


 《その通りです》


「ふ、ふん。別に落ち込んでないし……ごつごつの体にならなくてよかったわー」


 《筋肉はつきませんが、魔力操作のトレーニングなら今すぐに行えます》


「ほんと?」


 ツムちゃんから教えられたそのトレーニングとやらはスペースを取ることもないものだった。


 浮遊の魔法を使うことなく、宙に浮き続ける。それだけである。


「って、それ難易度高くない?」


 浮遊の術式なしで浮き続けろということ、それすなわちイメージだけで浮けということだ。今まで術式だよりだった私にはまだ早いことのように感じる。


 《魔力操作で体のバランスを取る能力が必要というのと、先ほど習ったイメージするということ、更に魔力を放出し続けるという三つの要素が満たすことが出来ます。筋トレは正直もう不要です》


 不要認定されちゃったよ!?


「と、とりあえずやるっきゃないね」


 そう思って私は修業を始める。あとでお兄様には魔法で連絡を一本入れておこうかな。

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