第428話 ご指導

 戦ってみてわかったことその一・反射速度がばか早い。


 やばい……正直、話を繋げるために適当に戦おうといったわけだけど、全然攻撃すべてが弾かれる。


 え?


 さっき将軍と戦う理由三つくらい言ってただろって?


 嘘に決まってんだろ。私そんなに頭良くないもん。


 将軍の攻撃は私と違って技術の塊で、私がただ相手の隙を伺って攻勢に出るのに対し将軍はフェイントを交えながら常に攻撃側に回り続けている。


 戦うとは言ってもただの手合わせのようになっているような気がするが、そっちの方が私としてはありがたい。


 大鎌を扱う技術は並のレベルじゃない。そりゃあそうだ、大鎌使ってきてかれこれ数千年という……そこにステータスの暴力が上乗せされていることで、将軍の攻撃一つ一つがありえない程強力だ。


 私の大剣と将軍の大鎌がぶつかり合うたんびに地面が鐘の音が鳴ったように振動する。ユーリの時とはまた違った感覚だ。


 重たい攻撃に耐えながら私は反撃の隙を伺う。


 将軍の重い攻撃を耐えることが出来ているのはひとえに私のステータスのおかげだろう。


 私のステータスはおそらく将軍と同じくらい。そこにスキルと魔法のバフがかかっているのだから、肉体能力で反応できている。


 それにも限度があるわけで、何度かもろに攻撃を喰らってしまったが、かちこちになっている私の体には簡単にはダメージは入らない。それを将軍は不思議そうにしていた。


「あなた人間ですか?」


「私に攻撃してくる人みんなそれ聞いてくる気がする……もちろん人間だよ」


 そういいながら、私は大剣で大鎌を大きく弾き代わりに魔法を叩き込む。


「『煉獄インフェルノ』」


 火魔法……というより獄炎魔法って言ったほうが良さそうなほどの熱気が私の手に集まり、将軍に向かって飛んでいく。至近距離での魔法攻撃を将軍は避けようとも考えていない様子で、それを受け止めた。


「まじ?」


 私の本気の魔力を込めた魔法を体一つに止めにかかる将軍。本来なら追撃すればよかったのだが、私は少しためらった。


 インフェルノに押されつつも、確実に体で抑え込んでいる将軍がついにその魔法を掴んでいた両手で握りつぶした。


「あれー?おかしいな……魔法手で消滅させたかな?」


 ちょっとそれはダメじゃん!?


 そんなの聞いていないです。


 将軍の服はボロボロになっているようだが、将軍自体に傷はなく将軍の余裕の表情は一切崩れていなかった。


「今のはかなり痛かった」


「だったら、もっと痛そうにしてよ!」


「魔法は得意?」


 将軍は大鎌を一度おろしてそう聞いてくる。答えろってこと?


「ええまあ……肉弾戦よりかは」


 そもそも魔法使いじゃないから付け焼刃程度だけど、火力としては十分だろう。


 そう思っていたけど、思わぬところで励ましを貰う。


「センスあるね」


「え、私?」


「あなた、今まで魔法の使い方なあなあだったでしょう?」


「えっと……」


「今まで魔法の術式を形作るだけで魔法を使ってきたのでしょう?」


「うん、まあそうだけど」


 え、何か変なことしてる?


「確かに魔法式を組み立てて魔法を使うのは基礎中の基礎」


「うぐっ……」


「だけど、本来それだけだと魔法は発現しない」


「え?」


 そうなんですか?私、今までそれだけしかやってこなかった気がする。


「多少は出来ているけど、イメージが足りない。魔法は術式よりイメージと込める魔力が重要なのです」


「ほ、ほお……」


「ですから、それを元にもう一度魔法を撃ってみてください」


 もう一度ね。


 イメージはしているつもりだったけど……やっぱり足りなかったのかな?そういえば異世界人は私と真逆のタイプだった気がする。


 異世界からやってきた人たちはほとんどの人が理論より、イメージを重要視する人が多かった。だから、全員魔法の威力がばかだったのか?


 今となっては私の方が魔法の威力は高いがステータスでごり押ししているだけ。だったら、私が異世界人のように魔法をイメージすればもっと威力が上がる。


 単純な好奇心で私は将軍の言うとおりに魔法を発動させようと構える。一応大事を取って遠くにある山に向かって放つことにした。


 どうせ今までの私の魔法なら、山には当たらないだろう。なんせ数百メートル離れているのだからコントロールがとてつもなく避けなければいけない。


 割と近距離で魔法を使うことが多かった私はそこらへん大雑把だったからね。


 思い浮かべるのはまずは術式。理論に基づいてインフェルノのある形をイメージする。術式通りに魔法を発動させれば今まで通りの魔法が放てるが、そこにさらに明確なイメージを上乗せさせる。


 そういえばトーヤ(勇者)に聞いたことがあったな。火は空気中の酸素の力を使ってより燃えやすくなるとか、それも含めて明確なイメージをする。


 急激な酸化による燃焼、オレンジ色の炎の塊、それは山のほうまで飛んで行ってそして……


 明確なイメージがすんだ私は目を開いて驚愕する。


 そこにあったのはさっきと同じインフェルノの魔法の数倍ほどの大きさがある同種の魔法だった。


「ええ!?ちょっとこれ待って!?」


「落ちついて」


「落ち着けっか!ナニコレ!?こんなん食らったら私即死するレベルじゃねえか!?」


 込めた魔力はさっきと変わらない程だったが、明らかに魔法は巨大化して密度をさらに上げていた。感覚で手に伝わってくる、この魔法が周りの空気を吸い込んでいるように徐々に巨大化しつつあることを。


「放ってみなさい」


「ええ、これを?」


「大丈夫、山が一つ消し飛んでも何の影響もありません」


「あとで怒っても知らないからね?」


 そもそもまっすぐ飛ぶかどうかすらわからないんだから。そう思いながら私はえい!とその魔法を目の前の山に向かって放った。


 そして、


「はや……!?」


 空気が振動し、先ほどまでの魔法の何倍もの速度で私の魔法は直進していく。直進していく最中にもどんどん魔法は空気を吸収して巨大化していく。


 遠くに行っているはずなのに、逆に大きく見えている……これかなりまずいんじゃ?


 そう思った束の間、それは山に激突した。


 私のはなった魔法は山の中央部分をえぐり取るように進んでいく。そして、まるで何事もなかったかのように中央部分を貫通してさらにその先へ飛んで行ってしまった。


 ただ、中央にどでかい穴が開いた山は上の重さに耐えきれず上部分が崩壊し、その山は上半分がきれいに消滅したようなものだった。


「あの、ちなみになんだけどあの山標高どれくらい?」


「1500ほどです」


「ご指導ありがとうございましたっ!」


 これは果たして手合わせだったのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る