第427話 将軍の強さ

「戦いとは言っても、殺したりなどはしません。あなたにはまだ、死んでもらうわけにはいかないので」


「なんか私のこと利用しようとしてる?将軍は表情変わらないから、よくわからないんだけど?」


 翼を生やして、大鎌を構えて将軍は都の外にある広々としたスペースで戦うことを提案した。もちろん、なぜ私がいきなり戦おうと言い出したのかと言うことについてはもちろん理由がある。


 一つ、将軍が友好的である間に自分がどこまで通用するのか知りたいから。


 二つ、どうせ女神に私のことがバレているのであれば何をしようと関係ないと言うこと。


 三つ、将軍が政治に直接関与していなかったこと。


 一つ目はともかくとして、二つ目は女神に選抜者についてバレているのであれば、何をしたところで関係ないのだ。


 最悪の場合、将軍を殺さなくてはいけない時が来るかもしれない。


 予行練習というわけではないが、私には覚悟が必要なのだよ。敵だったとしても、優しいからとか友好的だったからとかの理由で助けてあげていたら私の命はいくらあっても足りない。


 貴族社会で培った人を疑う技術が衰えてしまったようだ。友好的な人には必ず裏があると思えと教わってきたが、今になって役立たせなくてはいけなくなるとは思わなかった。


 将軍をもし殺してしまったら……できるかどうかは別として……私はおそらくものすごい罪悪感に襲われると思う。魔物や盗賊と言ったわかりやすく殺意剥き出しにしてくる奴らならまだしも、将軍は私に敵と言っておきながらも矛盾した行動をとっている。


(どうにかして女神側からこっちに移せないかな?)


 こういうことを考えてしまうから私はまだ甘いのだろう。


 そして、三つ目の意味は実に簡単。


 幕府は都贔屓で地方には目もくれないことが問題の政治を行なっていた。将軍はそれに直接関与していない。


 つまり、政治の実権は別の人が握っているため、私がもしこの場で将軍の不興を買ったとしても、簡単には罪に問われない……はず。そこは将軍の匙加減次第だが、その時は全力で謝罪してなんとかできないものかな?


 その心配は杞憂に終わると思うが。


「では、始めましょう」


「ええ!」


 お互いが歩を進め、徐々に徐々にその距離を詰めていく。歩いてくるだけでも将軍の威圧はどんどんと増していく。


 ユーリと戦った時とは比べ物にならないほど強烈な威圧だ。ユーリ、やっぱり手を抜いていたのか?


 凄まじい圧と精錬された動き。歩くだけでも一切の無駄のない動きをしているような感じがする。


 まるで完璧を追い求めた人形の如木、美しい歩きだ。


 そして、最初に将軍が動いた。鎌が振り下ろされる。


(はやっ……!)


 とてつもない速さの攻撃、目で追うのもギリギリだったその一撃をどうにか自慢の大剣で防ぐ。すかさずくる追撃は、初撃の攻撃よりも速いスピードで襲いかかってくる。


 目ではもはや残像にしか見えないその動きをどうにか予測を立てながら繋ぎ合わせて攻撃をどうにか防いでいく。


 魔法による視力強化、そしてその他身体能力強化系のスキルや魔法を全て使って、私は反撃に出る。大鎌による一撃を今度は避けずに躱し、将軍の懐に潜り込み一撃を放つ。


 下段からの振り上げだ。普通の人だったらこのまま体が綺麗に切断されて真っ二つになっていそうな攻撃だが、将軍は


「素手で……」


「軽かったもので」


 大鎌を持っていない方の手で軽々と止めて見せた。大剣を掴み取られる前に大剣を引いて様子を伺う。


「?」


「やっぱダメか……」


 一応その大剣、毒効果を与える力を持っているはずなんだけど……今のところ役に立ってないぞぉ?


 そして、お返しとばかりに将軍の鎌攻撃がきた。


 大剣とは逆手側に攻撃されたものだから、思わず私も素手で掴もうとした。そして予想外にもそれはうまくいったようだった。


「ほう?」


 私の体が頑丈になっていたおかげか、素手で掴んでも擦り傷ひとつつかずになおかつ、勢いを殺しきれなかったにしても素手の力だけで攻撃を防げた。


「何千年と生きる私に、たった齢十五の少女がよくぞここまで。賞賛に値します」


「それは、嬉しいですこと!」


 大鎌を振り払い、手薄になった胴体に今度は自分の今できる最高速の物理攻撃を叩き込む。


 大剣を全力で投げつけたのだ。単なる直線的な攻撃に過ぎずおそらく簡単に避けられてしまうとは思う。


 それでも、速度だけは馬鹿にはできない。よろめいている将軍には十分当たる距離だ!


 ただ、一つ忘れていたのは将軍には翼がついていることだった。バサッと音を立てて翼が大きく動いた……と思ったら、将軍の体が空中に浮き上がった。


「武器なしで戦いますか?」


「降参しろって?そんな簡単に終わったら、将軍もつまらないでしょ?」


「……そうですね」


 私は砂を一握り拾い上げる。その様子を不思議そうに眺めている将軍。


「『アポート』」


 転移系統の魔法を発動させ、砂と大剣の位置を入れ替えたのだ。手の中にはいつの間にか巨大な大剣が握られており、砂はどこかへと消えた。


「絶対に私が勝つわ」


 私は今まで溜め込んでいたもの全てを吐き出すように、そういった。

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