第426話 戦いましょう
次の日
私は朝早くから帰りの確認を取るために御者のもとへ一人で訪れていた。
将軍の政治に関する情報はゼロに等しく、私も将軍に目をつけられたという最悪……とまではいかないものの、まあ悪い状況にあるのは確かである。そんな中私はまだ都から出れずにいた。
その理由とは、
「禁止令?」
「将軍様が突然都から出ることを禁じられたんだ。だから、今無断で出ると問答無用で斬り伏せられてしまうよ。なんだか急いでいるみたいだけど、もう少し待ったほうがいいんじゃないか?」
そう、御者役をやっていた人に言われた。それを聞いて、私は愕然とする。
「私たちを外に出させないつもりかしら……正確に言ったら私だけなんでしょうけど……」
かなりまずいな。予定の会議が終わったらすぐさま領へと戻り、革命軍を作るつもりだったのに……。お兄様だけでも帰れればそれでよかったのだが、どうやらそういうわけにもいかない。
禁止令とはそんなに無闇に出していいものではない。よって、将軍はなんらかの目的を持ってその禁止令を発令したはずだ。
そんなことを考えていると、また聞き覚えのある声がした。
「また会いましたね」
「え、ええまた会ったわね。将軍……」
「偶然というのは本当に恐ろしいですね」
「あ、あはは……」
何が偶然だ!絶対に狙ってただろ!
「今日もどこかへお出かけですか?」
お出かけって……絶対に私たちが帰ろうとしているのバレてたらだろ!御者の人はゆっくりとフェードアウトするようにその場からいなくなった。
ちょっと私と一人にしないで!?いや、二人だけど……。
「将軍こそ、今日も休暇をとったの?便宜上国王なんだからもっと真面目に仕事したほうがいいんじゃない?」
訳 さっさと回れ右でお城へ帰ってください。
「いえいえ、こう見えても私ここ百年ほど連勤だったのですよ。二日くらい休んでも罰は当たらないでしょう」
「それでよく女神の使徒名乗れるわねえ?」
そう言って挑発したつもりだったけどどうやらそれは効果を示さなかったようだ。将軍は私の挑発を意にも介していないように言った。
「まあ、名乗るだけなら『タダ』というものですよ」
「それでいいのか使徒!?」
そう言いながら、私は将軍の後ろを追った。なんとなくね。
「将軍、今日はどこへ行くの?」
「ここでは将軍と呼ばないでください」
「じゃあなんて呼べばいいのよ?」
「そうですね……」
将軍は非常に、非常に考え込んだ顔をしている。
「どうしましょう、私名前がありません」
「だから将軍でいいんじゃない?将軍と呼ばれてても気付かれないでしょ?」
「わ、わかりました」
なぜか気合の入った声を出す将軍。
「そして、今日は私はあなたと話がしたかったから降りてきたのです」
「え!?」
「どうかしましたか?」
そんなとぼけた顔しても無駄だ!絶対に仕事モードオンだろ!?
どうしよう、絶対にバレた。このまま言い訳して見逃してもらうか?今ここではっきりとさせる気か?それとも私を何処かへ連れ込む気か?
そんな覚悟を決めていると、将軍の口から予想外のことが飛び出してきた。
「あなたが何かを勘違いしているようでしたので、それを訂正したいのです」
「訂正?」
私が誤解していることなんてないと思うのだが……。
「私、実は国を治めているわけではありません。あくまで君臨しているだけなのです」
「……面倒なことを」
「何か?」
将軍が直接政治をやってくれていたほうがまだマシだった。だが、どうやらそんな簡単にはいかなくなったようだ。
政治に関与しているのが将軍だったら、そのまま引きづり下ろせばよかっただけだが、政治に関与しているのが別の人間だったとしたら、上の人間をタダ引きづり下ろしても意味はない。
とにかく面倒なのだ。
「でも、ちょっと嬉しいかも」
「何がでしょう?」
「将軍がやってたわけじゃなかったから、なんとなく嬉しかっただけです」
「?」
将軍は私の敵ではあるが、悪意は一切感じない。だから、個人的には将軍にそんな圧政はして欲しくなかったから。
もし将軍と戦うことになれば、私は少し躊躇するだろう。とどめをさせる気はしない。
「まあいいです。よく分かりませんが、あなたが嬉しいのであればよかったです」
そういうところに困惑するんだ。敵なのか敵じゃないのかよくわからない。
「あ、そういえば将軍のこと好きって言ってた人がいるんだけど……」
「好き?それはどういう意味合いなのですか?」
蘭丸さんのこと紹介しておこうかな、とは思ったが名前を出すのはなんだか悪い気がしてやめておく。
「好きっていうのは愛って意味だと思うけど……」
「ですが、私は会ったこともありませんよ。何も知らないのに好きになるとは、人間はとても面白いですね」
「それだけあんたは人気ってことよ」
「正直よくわかりません。私には人間の感情というものが理解できないので」
「でも理解できるようになっておきなよ」
「そうですね。私は……私にはそういう人が必要ですから」
そう言って悲しそうな顔をした。
その顔を見て私はなんとなく焦りを覚える。言ってはいけないことを言ったような気がした。
「そ、そうだ。将軍!」
「はい」
「あなたと私は敵です。お分かり?」
「はい」
「なので、戦いましょう」
「はい?」
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