第390話 都へ

 お兄様からの衝撃の告白があった日の次の日から、私は色々と行動を開始した。と言っても、歩くことはまだできないため若干扱えるようになった魔力を使って分身体を作り出し、それに動いてもらう。


「よし、これでいいわね……」


 分身体はどう頑張って制作しようと、私より強くなることは絶対にないし、私と同じくらい強くなることもない。ただ、便利なところをあげるとすれば製作者の意識を反映できるところ。


 つまり、私の意識を分子体に移せるということだ!


「それがどういうことかというとね、ツムちゃんのサポートを受けられるんですよ」


 ツムちゃんの意識も共有できるのである。


 というわけで、早速分身体を動かしてみる。


「おお……なんか自分の体じゃないみたい。まあ自分の体ではないんだけどね……」


 手をグーパーさせてみると、やっぱり作られた体のように感じる。だが、不思議と違和感なく動かせるのは私の魔力がふんだんに使われているからだろう。


「よし、早速外に出てみよう!」



 ♦️



 面白いくらい簡単に抜け出すことに成功し、今のところ誰にも遭遇していない。


「さてさて……まずは何をするべきか」


 あんだけお兄様にはっきりと宣言しておきながら役に立たないというのは流石にやばい……。


 現実的なので言えば、捕虜として捕まっている反乱軍の元へ向かうべきだけど……信用ならんよなぁ私のことバラされたらミサりーによる監視が増えてしまうではないか。


「誰にも会わないでできることないかな」


 そう考えた時、思いついたのは一つだけだった。


「そうだ、都に行こう」


 幕府の政治が腐敗しているどうのと言っていたので、直接その幕府を見てみたい。もしかしたら、とんでもないことしてるかもしれないしね。


「そうと決まったら早速行こう」


 まずは組合にたくさんある地図を一枚パクる!

 その次に、都のある場所を見つけて座標をチェック!

 あとは転移をするだけ。


 ね、簡単でしょ?


「これは座標が悪いよ……」


 私が転移した先にあったのは下に広がる大きな街並み。圧倒的な広さで、何百メートル離れているのに住人の大きな声が聞こえてくるくらい。


 そして私が今どこにいるかといえば、


「天守閣のてっぺんに転移は流石にビビるよ」


 お城の屋根の上である。このお城の中で腐敗政治をやっているのか……。


「ちょっと、その前に違う場所に移ろう」


 適当に街中に転移することにした。視界が反転し、そして現れたのは馬だった。


「うわ!」


「どけどけ嬢ちゃん!邪魔だよ!」


「あ、すみません」


 商人っぽい人が乗っている馬の目の前に転移してしまったらしく、かなり目立ってしまった……それに、なんだかさっきから視線がグサグサ刺さるのはなんで?


 《可能性としては、転移する瞬間を見ていた・この辺りの地域では珍しい服装だから・見惚れているのどれかです》


 一番と二番はともかく、そんなに私の顔変わったあ?自分では普段とそんなに変わった感じはしないんだけど……。


 《顔が変わったわけではありません、人間の心を刺激するようなフェロモンのようなものが増えただけです》


 なにそれ怖い……私からそんなのでてんの?


「って、違う違う。それは今はどうでもよくて……」


 とりあえず家と家の間の小さなスペースに逃げ込んだ。


「まずは街の人の様子から見ていこうと思うんだけど、今ちょっと見た感じ結構元気そうじゃない?」


 《そうですね》


 少なくとも、食糧に困ってそうな顔はしてないし、なんならちょっといい素材でできてそうな服を着ていた。


「うーん、どこら辺が腐敗してるんだろ……?」


 《おそらく、それは都だからでしょう。辺境の街とは格差があります》


「確かに!」


 まだまだ他にもありそうだし、もう少しだけ見て回ろうかな……。


 そう思って、隙間から出ようとした時だった。後ろから肩を叩かれ、思わず警戒しながら振り返るとそこに立っていたのは、


「ユーリ?」


「やっほー」


 元気そうに手を振るユーリがいた。


「ど、どうしてここにユーリがいるの!?」


「だって、ベアトリスが魔法使ったなーって気配がして跡をつけてみたんだ」


 な!?


 そんなんでバレるか普通?


「なにしてるのか知らないけど、自分が一回死んだの忘れてないよね?」


「えーっと、一応……」


「一人でやろうとしないでよ、分身体だから大丈夫とか思ってるのかもしれないけど……ボクだってご主人様のためならなんでもできるんだからね」


「はい……」


 珍しくユーリが私に怒って注意した。本当に珍しかったので、思わず私がしょぼんとしていると、


「あっ、でも別に怒ってるわけじゃないから!心配してただけで……その……」


 あたふたとし出すユーリを見てなんだか笑えてくる。


「わかってるよ、大丈夫。じゃあ、ちょっと協力してくれる?」


「うん!何をしようとしているのか知らないけど、ボクにできることならなんでもするよ」


「そうこなくちゃ!」


 私たちは二人で隙間から出る。


 出たら出たで……


「ねえ、ユーリ尻尾と耳隠せない?」


「ええ?なんで?」


「すごい見られてるんだけど……」


「無理!それに、目立っていいじゃん!」


 やっぱ帰ってもらおうかな……。そんなこと思う私でした。

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