第389話 メッセージ(マレスティーナ視点)

 最近の魔族領での生活は平穏そのものだった。特に大したイベントも起きていなければ、特筆すべきこともない。


 ただフォーマという女性をと日々淡々とトレーニングをこなすだけである。


 そんな日の中、一通の報告が頭に響いた。


 《個体名ベアトリスが死亡しました》


 と。


 その瞬間、私はどうしようもない気分に襲われた。


「あぁ……やめとけばよかったのに……」


 死ぬかもしれないって言ったじゃないか。だから行かなければよかったものを……。


 また一人、選別者が減った。


 いや、そんなことよりも友人であるメアリの忘形見が死んだのがどうしようもなく悔しかった。だが、メアリの娘らしい死に方だなとは思った。


「友人を守って死ぬか……はは、血は争えないんだね」


 私の『眼』に映った景色は、ミハエルと呼ばれていた女性を庇って死ぬベアトリスの様子。


「あの正義バカめ……人の気も知らないで」


 選別者としてのベアトリスが死んだことで、こちら側の戦力は半分になった。まあ、選別者としての生き残りは私しかいないから当然か。


「しかも……あぁ、あんたかよコウさん」


 コウさんというのは八光の仙人に私がつけたあだ名である。まあ、つけた当初は本人も嬉しそうだったからいいものの、真実を知ったあたりで狂ってしまった。


「その真実を知らない私もそれに怯えているわけだけど」


 私の権限レベルは4……あと一段階上がればコウさんのようになってしまうのだろうか?


 そして、ベアトリスの死について考えながら、時間は過ぎていき気づけば数日が経過していた。



 ♦️



 再び流れるメッセージ。


 《個体名ベアトリスの復活が確認されました。同時に、権限レベルの上昇を確認しました》


「はあ?」


「どうしたの、マレスティーナ」


「……いや、なんでもないさフォーマ」


 ぼーっとしていた頭の中にとてもじゃないが信じられないようなメッセージが流れた。それは死んだはずのベアトリスの復活を知らせる通知である。


 どういうことだ?人の身でありながら蘇ることはできないはず……そう思って『眼』で確認したところ、


「なるほど……」


 考えたものである。


 幻花と呼ばれる希少アイテムは私も一度目にしたことがあるが、望みをなんでも叶えてくれるという素晴らしいアイテムだ。しかし、それにも限度があり、この世を作った神……そして、管理する神を殺すほどの力はなかった。


「そうか……よかったぁ」


「最近のマレスティーナ……頭おかしくなった?」


 独り言のように思われているのだろう、まあ実際独り言だが。


 権限レベルが2上がったらしいベアトリスの様子を見るとどうやら力が戻りきっていないらしい。念のため、ステータスを開こうとしてみる。


 だが、


「弾かれた……?」


 ステータスの解析鑑定に失敗した。考えられる可能性は二つ。


 一つ、レベルで私を超えた。


 二つ、一度死んだ人間は解析鑑定ができない。


 そのどちらかだろう。だが、二つ目はどこか違和感がある。なぜなら、死んだ人間でも私ほどの能力があれば名前からスキルまで解析鑑定ができる。


 ただ、死んで蘇った人間は試したことがないからなんとも言えない。


 少なくとも、彼女のステータスに大幅な変化が起きたのは確かである。


 おそらく耐性面がより強化されたことだろう。


『痛覚耐性』『腐敗耐性』『毒耐性』『即死耐性』あたりだろうか……?


 一度死んだことで、肉体も頑丈になりさらに死んだことで体が免疫を作ろうとするはずだ。それによって肉体の強度は人間を超越し、龍人と同レベルになると思われる。


 龍人がどれだけの強度かと言えば、ドラゴンの鱗と同程度の硬さを誇っている。


 肉体の素の強度も人間をやめてしまったようだ。


「ははっ、成長が止まらないねぇ」


 このままいけばメアリすらも越えるほどに強くなる。なんなら、現時点でも私の脅威になりうる存在と化している。


 時空間魔法がなければ、私はベアトリスに負けてしまうだろう。


「問題になってくるのはあいつか」


 先代魔王を倒し、メアリ相手に劣勢ながらも互角に戦ったあの悪魔の少女。


 ベアトリスに関して強い執着を持っているらしいその少女がもし、ベアトリスが生き返ったことを知ったら一体どんな反応をするだろうか?


 死んだと思い込んでいるままの方がまだいい、そのまま悪魔の軍をまとめて引き返してほしいのだが……おそらくそんなことにはならないだろう。


「最近、魔王軍が侵攻しているという噂を聞いたんだが……それは本当なのかいシャル」


「え、なんで俺に聞くんだよ」


 部屋のベッドでゴロンと横になっているシャルは面倒臭そうに体起こした。


「それは、本当だ」


「へぇ?引きこもりのくせによく知ってるね」


「殺すぞ?」


「それで、#君のお父さん__・__#はどうするつもりなんだい?」


「それは知らん」


「仲悪いからね」


 その会話に本を開いて読んでいたフォーマが顔を上げた。


「前から思ってた……シャルはボッチなの?」


「はっ?」


「こんな辺鄙な場所で一人……一人と一匹で暮らしている。ぼっちでしょ」


「ふざけんな!」


「お父さんとはどういう人のこと?」


「おい、こっち見ろや話聞け!」


 私の方に向かってフォーマが首を傾げる。


「ああ、こいつの父親について話してなかったね」


「おい!こいついうなし!」


「シャルの父親は偉ーい人なんだ」


「へー、誰」


「現魔王だよ」


「へー……へ?」


「こいつは今代の魔王の一人息子なんだ」


「ええぇ?」


 フォーマはシャルの方を向くとはっきりと言い放った。


「だからゴキブリ並みにタフなのね」


「テメーぶちのめしたるわ表でろ!」


「望むところ、殺ってあげる」


 そう言って表に飛び出していく二人を見ながら、今日も平和だと考えていた時のこと、またもや私を驚かす通知が飛んできた。


 《スキル『世界の言葉』が八呪の仙人へと譲渡されました。これにより、ステータスの大幅な上昇と、スキルの強化が見込まれます。なお、譲渡した場合、権限レベルは1からのスタートとなります》

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