第391話 宿での再会

 結局ユーリにはキツネになったもらった。やはりこっちの姿のほうがあんまり目立たない(少し目立つ)からね。


 それに、キツネの姿の状態で過ごした時間のほうが長いから、扱いに慣れ親しんでいるというのもある。首元にユーリを巻いて私は歩き出す。


「これやっぱりあったかいんだよね」


「今は冬じゃないけどね♪」


「しっ!喋んないの!」


「キュン……」


 久しぶりにそれ聞いた。やっぱり可愛い。


「まずはどこへ行こうかな」


 適当に徘徊したところで今日中に終わる自信ないからな……。


 私がこの分身体を動かしている間は魔力が徐々に減っていく。そして、それは距離が離れると離れた分だけ消費魔力量が増大するのだ。


 とにかく、魔力の扱いがまだ甘い今では限度がある。それに、いつミサリーに気づかれて怒られて監視されるようになってしまうかわからないから気を付けながらやらないといけないのだ。


「冒険者組合はあるのかな?」


「ご主人様を追っかける途中で見てきたけど、なさそうだったよ……」


 と、小声でユーリが教えてくれた通り、どうやらなさそうだ。


「ってことは、いつも通り情報収集するしかないのかー」


 いつも通り=宿屋


 こういう時は何時だって宿屋が一番!いろんな人が集まり、下ではお酒を提供している店なんかは最高だ。お酒が入った人の口はがばがば開くからね。


「まずは宿屋を探さないと!」


 幸いにもこの体は分身体だから宿に泊まる必要はない。つまり、お金はかからないのだ!


「宿を探してるんですか?」


「へ?」


 いきなり話しかけられて、驚き振り返るとそこには女性が立っていた。


「大丈夫?もしかして一人なの?」


「ああ……ええっと」


「お父さんとお母さんは?どこの宿に泊まってるのかしら……困ったわねー」


「あの……」


 色々と違うんですけど……。ごめんなさい、知らない方……そういうつもりで呟いたわけじゃないんですほんと。


「どういうところか覚えていないかしら?」


「あー……」


 この際だから適当に話を合わせておこう。


「えっと、この街で一番人気なところ……ですかね?」


「一番人気な宿屋ね。任せて、連れてってあげるわ!」


 そういうとその女性は「こっちよ」と言い、手を引いてくる。


 私は成人している立派な淑女なんですけど……とは言えなかった。二年間分身長が止まってたせいなのだろうか、いまだに身長はそこら辺を走り回ってる子供たちとあまり大差ない。


(くそう……自分が惨めになる……)


 前世は割と高身長だったのになぜだ!と、思って生活を振り返ってみるけど心当たりしかないんだよね。


 もしかして、身長伸ばすための栄養、魔力量伸ばすために変換されちゃった?


 そんな冗談は置いといて……。


「着いたわ、どうかしら。ここで合ってる?」


「あー……はい、ありがとうございました」


「そう?よかったぁ……今度から知らない土地では一人で出歩いてはダメよ?キツネさんと一緒でもダメだからね」


「は、はい……」


「じゃあね」


 女性に連れられて着いたのはとても豪華で立派な宿だった。


「ここかぁ……」


 人がたくさん集まっているならどこでも良かったけど……こんなところ流石に場違いじゃないか?


 木材で建てられたその建物はとても細かい文様がいたるところに刻まれており、建築士の腕がとてもよかったことがうかがえる。


「まあ、でも来ちゃったものは仕方ないか」


 そぉっと扉を開けると中は防音になっていたのではないかというくらい、にぎやかで騒がしかった。


 おいおい、まだお昼ごろだよ?みんなお昼から飲んだくれて大丈夫なのかこの街は……そう思いながら、私は小さな体で人々の間をすり抜けてカウンターに向かった。


「いらっしゃいませ」


「あ、どうも」


「子供?一人かな?お金は持ってるの?」


 と、疑い深いカウンターに少しイラっと来て、思わず金貨を取り出す。


「失礼な、こう見えても私は大人です、成人してるんです。人を慎重で判断しないでください!」


「ああ、そうだったのか。それはすまないことを……」


「分かればいいんですよ」


 謝られたことで機嫌が戻った私は、景気づけに何か飲もうかと思い、注文する。


「度数低めのお酒ってある?」


「はい、どういうのがお好みで?」


「お酒は詳しくないから、何でもいいわ」


「かしこまりました……おーい!ノンアルカクテルもってこい!」


 その声と共に、凄まじい速さで作っているであろう音が奥から聞こえてくる。


 そう言えば、こんぐらいの勢いで接客しに来た子もいたなー。そう少し前を思い返していると、頼んだお酒が運ばれてくる。


「お待たせしました!こちらノンアルコールカクテルになります」


「ああ、ありがっ……」


 私がそのカクテルを受け取ろうとした時、ふと運んできた女の人の声に聞き覚えを感じた。カクテルを受け取るついでに顔を見ようと思い、見上げるとそこには……


「ええ!?ネルネ!?」


「うわぁ!?ベアトリスさん!」


 そこには吸血鬼の国で出会ったネルネという名の少女がいたのだった。

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