第380話 復活をかけた戦い(ミハエル視点)

 幻花が咲くにはまだ日数がある。そのため、私たちは市民たちを別の街に避難させることにした。


 避難を呼びかけて、街の中を半分無人状態にさせる。それでも、「この街のために戦いたい」と名乗り出た人や兵士たち。そして忍者の皆さんたちは街に残った。もちろん私たちも。


 なぜ避難を呼びかけたのか、そんなの決まっている。


「反乱軍にまた動きが?」


「今度の数は反乱軍ほぼ全ての兵数だ」


 三回目の反乱軍の侵攻の情報が忍者たちから流れ、もちろん私たちもその情報を耳にすることになる。


「で、どのくらいの兵なんですか?前回はせいぜい数万とかでしたよね?それでも、倒しきれなかったけど……」


 あれは、相手が撤退したからどうにか命拾いをしただけにすぎない。もちろんあのまま行けばミサリーさんや兵蔵という忍者の方が倒していたに違いないが、疲労や人数比を考えるとあのままいけば街にまで侵入されていただろう。


「卒倒するでないぞ?」


 兵蔵さんがその数をみんなに伝える。


「15万だ」


「はぁ……街一つ落とすのに、馬鹿なんですかね?」


「それだけ警戒しているんだろ、なんせ破竹の勢いで進軍していた奴らがこの街で二度も足止めを食らっとるんだから」


 それを二人で食い止めているミサリーさんと兵蔵さんはもっとおかしい。


「その数、私たちに相手が務まるんですか?流石に限度がありますよ」


「街に侵入されてもいいように住人を逃したんだ。中に入って来た奴は各々で対処してくれ」


 受付さんも冒険者組合のある別の街へと避難し、洗脳疑惑があるコウメイ様はずっと寝たきりとなっている。洗脳者が意図的に眠らせているのではという結論で落ち着き、そしてこの場に残っている人物で戦えないのはライ様と私だけになった。


「ミハエルはできたら回復魔法で兵士たちを治療してほしい。そしてライ様は兵士たちの指揮をお願いしていい?」


「わかったわ」


「わかりました」


 反乱軍がここに辿り着くまでには、おそらく後数時間かかると予想されるとのことで、


「仙人さん、幻花は後どのくらいで咲くんですか?」


「ふむ、一日を切ったところだろう」


「数時間分耐えれば、ベアトリスさんが蘇ることができる……!」


 ミサリーは毛布をかけられて目を閉じているベアトリスの方を見る。


「お嬢様……後少しです。ミサリー頑張ります」


 結局は幻花を使ってベアトリスを蘇らせるという方向で話が進んでいるが、私はいまだにあの亜神が頭の隅によぎる。


 私を指差し、何かを伝えようとしていた。それは一体何?


 私の中にいるミハエル様を指差していたのだろうか?なぜ人間の中に天使が存在しているのか、という亜神の疑問からくる行動だったのだろうか?


 《それは違います》


 ミハエル様の声が聞こえた。その口ぶりだと、ミハエル様はあの亜神様が何を考えていたのかわかっているようだ。


(でも、教えてくれないんですよね?)


 《自分でたどり着かなくては意味がありません》


 その何かに辿り着ければ、幻花を使わずとも蘇らせることができるのか。


「報告します!」


 バタンと組合のドアが開き、考え事をしていた私は思わず肩を震わせたが、すぐにそれは緊張からくる震えに変わった。


「敵軍がもうすぐそこに!」


「何?まだ数時間あるんじゃないのか?」


「それが、わかりません!平原の真ん中に突如として巨大な軍隊が出現しました!」


 まるで神話の中のお話のように聞こえるが、ミサリー様だけは心当たりがあったようだ。


「おそらく巨大転移術式ですね。お嬢様がよく使われていた転移を集団で使う術式です」


「サラッと言っておるが、そんな芸当ができるやつおるか?」


「いたじゃないですか、あの『金バエ』が」


 頭の中に思い浮かぶのは金色の鎧を纏っている男の顔。ベアトリスさんを殺したと言ったあの男。


「絶対に殺す。八つ裂きにするだけじゃ飽き足らん。最大限の苦痛を生きたまま与え続けてやる」


 そう燃えたぎっているミサリー。


 仙人さんはどこか複雑そうな心境だったようだが、金色の鎧の男の話を聞いて何かを思い出したのか、はっと顔色を変える。


「おい待て、反乱軍はすぐそこまで迫っているのだな?」


「あっ、はい」


「まずい……幻花が咲く場所へ急ぐ」


「え!?」


 いきなりの展開についていけない私に仙人さんは簡単に話す。


「奴も幻花が咲く場所を知っている。もし、幻花がやつの手に渡ったら……全てが水の泡だぞ」


 そう聞いて、私もその意味を理解した。


「でも、仙人さんだけで大丈夫なんですか?」


「無論、我だけじゃ無事では済まない。だから……ミハエルよ、お前も来い」


「わ、私!?」


「そうだ、お前だ。我と来い」


 手を前に差し出される。どうして私なんかが……そうネガティブな考えが頭の中をよぎる。どうしても私が役に立つとは思えなかった。


 結局何にもできていない私が一緒に行っていいのか?また、仙人さんが私を被ってベアトリスさんのように倒れてしまったら……そう考えるだけで私は今すぐ逃げ出したい気持ちに襲われる。


 だけど、


「行きます」


 このままじゃダメだ。私は絶対にベアトリスさんを救うんだ。差し出された手を取る。


「臆するなよ……行くぞ」


「はい!」

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