第381話 復活をかけた戦い②(ミハエル視点)

 思わず繋がれた手がちぎれてしまいそうな速度で飛翔する。幻花が咲く場所、それは霊峰の頂上、その近くにある渓谷のある場所に一か所だけにポツンと咲くらしい。


「落ちるぞ、口を閉じろ。舌を噛むぞ?」


 言われた通りに少し開かれていた口を閉じる。そして渓谷もまた何かに捕まりながらゆっくり降りるということはなく、パッと飛び降り一瞬で下へと着地した。


「ここだ」


「ここは……」


 そこにはすごくきれいな景色が広がっていた。温かいお湯が淡く発光し、その中心にある岩の周りを囲んでいる。


「もしかして、花の咲く場所というのはあそこですか?」


 その中心にある岩肌の表面にはうっすらとコケのようなものが出来ており、それもまた淡く光っている。


「ああ、ここは我がずっと本体を設置して守ってきていた」


 そういうと、仙人さんはその中心に向かって歩き出す。しかし、


「困るなあ、先客がいたら」


「……来たか」


 聞いたことのある声、その声は背後から聞こえてきた。


「やあ……あれ?その子も一緒なんですね。まあ、いてもいなくてもどっちでもいいですが」


 その言葉は私に深く突き刺さった。


「ふん、お前の相手は我一人で十分だ。幻花は絶対に奪わせない」


「何かを企んでいるのは知っているけど、それで何するつもりですか?まあ、私としてはそれを譲っていただけたら何でもいいですが」


「ほざけ、我を殺そうとしてくるくせに」


「ご名答。わかったのなら、とっとと死んでくれますか?」


 そして、一瞬のうちに二人が同時に動き出した。槍と刀は交差し、火花を散らしながら激しい音を響かせる。


「前とは格段にスピードが上がっている……それが本体のようですね」


「我はバカだ。あの時、ベアトリスと共に本体でお前に挑んでいれば破れずに済んだものを……」


 突如として仙人さんの体周辺から黒く邪悪に光るオーラが噴き出し始めた。そのオーラは仙人さんの全身を包み込み、とてつもない力を巻き起こす。


「道を誤った時点で、呪っておくべきだったな」


「あなたには無理ですよ。その前に私が浄化してしまいます」


 オーラの波がこちらまで押し寄せてくる。私にはこれに近づくことが出来るほどの力はない。


 でも、それでもいい。


 適材適所、戦闘には役に立たずとも支援は出来るし、幻花を摘む用意もできている。仙人さんのほうに手を伸ばして魔力を飛ばす。


「これは……」


「補助魔法です」


 服や槍、装飾品に至ってまですべてに補助魔法をかけた。防御力攻撃力補正の効果はおまけ程度でしかないが、ないよりましだろう。


 そして、戦いは始まった。とてつもないスピードで攻防が起こり、私から見ればまだ金鎧の男のほうがまだ余裕を持った表情をしていた。


 だが、形勢は一瞬にして逆転した。


「お前は我より強い。だが、我よりも『ここ』を把握していない」


 ここは渓谷であり、横にはもちろん壁がある。そして、狭い。


 つまり、この場所は機動戦をするのに有効なのだ。地面を蹴り飛び上がった仙人さんが上下左右に……縦横無尽に渓谷の中を駆け巡る。


 どこから攻撃が来るのかわからないせいで金鎧の男の防御は少しずつ遅れ始めた。何度か槍による攻撃が金鎧に被弾するが、傷がついた様子はない。


「これで勝てると、思わないことですね!」


 突如現れた炎が壁を伝って仙人さんがいる場所まで伸びていく。空間の機動力を生かしてそれを避ける仙人さんだが、攻撃の幅は少し狭まった。


「ちっ」


「まだまだですよ!」


 金鎧の男は刀を振り上げて、それを手当たり次第に振り回した。その攻撃は離れた位置にある壁にまで衝撃が到達し、切込みが入り一部が崩れる。


 炎による追尾と、手あたり次第な攻撃二つが合わさって、もはや機動戦は不可能になった。


「やっと降りてきましたか」


「面倒なことを……もっと頭を使った攻撃はできないのか?」


 下へと戻ってきた仙人さんが苦々しい表情で舌打ちをする。


「今度こそ決着をつけましょうか」


「望むところだ」


 雷のような速度で閃光を残しながら二人がぶつかった。すれ違う瞬間に攻撃を入れ、しばらくお互いが静止した。


 だが、攻撃を受けたのはどうやら仙人さんのほうだったようだ。


「げほ……ぐっ……!」


「大丈夫ですか!?」


「近寄るな!」


 私が回復をしてあげようと思い、一歩踏み出したがそう言われ、思わず下がった。


 仙人さんが近寄るなと言ったんだ、私は信じてここで祈ろう。


「勝負ありですかね?」


「ははは……」


 刀を目と鼻の先に突き付けられた仙人さんは、それでもなお笑った。


「何がおかしいんですか?」


「あと、三秒だ」


「なに?」


 3……2……1……0


 それを数えた時、私の背後から、今までとはレベルが違うほどのまばゆい太陽のような明かりが生まれた。それは、身が焼け落ちてしまうのではないかというほどの熱を持っている光で、振り返ることすら躊躇してしまうほどの光。


 だが、私はそれに耐え後ろを振り返った。


 そこにあったのは、岩肌のちょうどてっぺん、そこにまるで神が降臨したかのような光と共に、赤い花が鎮座していた。

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