第369話 第二ラウンド
ドスッと鈍い音がした気がする。そんな鈍い音がしたというのに、目の前にいる八光の仙人は以前と足で立っている。
そして、次の瞬間にはお腹のあたりがじんわりと熱く熱を帯びていた。
「ははは!私を何だと思っているのです?仙人ですよ?小細工が通用するはずないでしょう?」
お腹の中に感じる熱がどんどん熱くなっていき、激しい痛みに代わってくる。
痛みで声を上げる暇もない。呼吸するだけで精いっぱいだ。
「おやおや、さっきまでの威勢はどうしたのですか?」
声は聞こえてくる、目もはっきりと見える……確かにとてつもない苦痛が広がっていくが、私にははっきりと「この程度では死なない」という確信があった。
(人間やめといてよかったかもね……)
私はまだ人間だと信じたいけど。
「威勢?……あなた、こそ……油断してると、危ないわよ?」
「なんで、喋れ……っ!?」
その時、八光の仙人のお腹を貫通するように槍が突き立てられた。
「この槍は……もう来たか」
後ろには八呪の仙人の姿が見えた。
「遅くなった」
「もう、遅いわよ。おかげさまで私死にかけてるんだけど?」
「軽口を叩いているところを見るに、平気そうだな」
「まあね」
既に私の回復能力を知っている八呪の仙人は驚きもしないが、槍が貫通している八光の仙人のほうは驚愕で目を開いている。
「傷がふさがっていく?なぜ?」
「こう見えて私タフなの。お腹に風穴空いたって気合で治すだけよ」
まあ、こればっかりは加護の力だけど……レオ君の吸血鬼の加護を貰っといてよかった。
傷はどんどん再生されていき、次第に服についた血だけが残って、傷は完全にふさがった。
「そっちのほうも傷は大丈夫?」
「我のほうは問題ない。それより、あの女……ミハエルとは一体……」
「どうしたの?」
「何でもない」
おもむろに突き刺さった槍を引き抜く。それと同時にもう見てられないくらい血が噴き出していたが、一向に倒れる気配はない。
「こいつはそこらに湧いている仙人とは違う。不老であり、単純な攻撃邪絶対に死なん」
「その通りです。人間であるベアトリス、あなたが驚異的な回復の仕方をしたのは驚きましたが、所詮はそれだけ。傷つけば痛みを感じる。それだけで十分です」
気づくと八光の仙人の傷もいつの間にかなくなっている。
「二対一だけど、どうする?」
「まさか、諦めろとでもいうつもりですか?」
「諦めてくれるならそれでいいんだけどね。でも……」
おもむろにどこからともなく刀が出現した。それは八光の仙人に向かって飛んでいき、その右手にしっかりと収まった。
「引く気はなさそうね」
「では、第二ラウンドと行きましょうか」
瞬間、先ほどとまでは比べられないほどの威圧を感じる。
「くっ!」
気づくと、もうすぐ目の前まで刀が迫っていた。それを変形させた盾で防ぐ。
「面白い武器ですね」
攻撃を受け止めたと同時に八呪の仙人の槍が刀を弾かんと振るわれた。
「残念」
刀に振るわれた槍はそれを素通りしていく。
「幻影か」
本物の刀はどうやら背中側に隠されていたらしい。突然のあらぬ方向からんお攻撃にも八呪の仙人は余裕の表情で引き戻した槍で防ぐ。
素早い攻防の途中で邪魔しないように援護するにはどうするか考えた結果、私は闇魔法を選択する。
「『シャドーハンド』」
八光の仙人の足首を掴んで動きを止める。それに合わせて槍が振るわれたが、その攻撃は八光の仙人には届かなかった。
「結界?」
「いいや、祝福だ」
「どういう祝福?」
「攻撃の無効化」
お前もかよ!
「もうなんなの?どいつもこいつもそろって無効化能力持っているって……」
そんな大層な力持っていて女神に対抗できないとかマジで言ってんの?
「無効化されるのに、どうやって攻撃するつもり?」
「祝福の効果には時間制限がある。それまで耐えろ」
「耐久レースってことね……」
持久戦なんて大嫌いだ!
「話し合いは終わりましたか?ではもう少し本気を出しましょうか」
そして、そのセリフの直後、八光の仙人の体の周りから光る炎の弾が出現した。
「あれは!?」
「浄化の炎。敵が燃えてなくなるまで絶対に消えない炎だ」
「なるほど、攻撃が無効化されている間に畳みかけるってわけね」
当たっちゃダメ……ということは武器にも当たっちゃダメなのか。
「来るぞ」
とてつもないスピードで発射されたそれは私の反応速度よりも上の速度で迫ってくる。これじゃあ耐えられそうにない。
「私も本気を出させてもらうわ」
『止まれ』
その一言で、すべての浄化の炎が動きを止めた。
「これは……」
「『消えろ』」
ポンと音が鳴りそうな様子で浄化の炎はすべて消え去った。
「言霊を操る人間の少女、か。ますます面白いじゃないか」
「言霊ではないけどね。じゃあ次は――」
そう言おうとした時、また体から痛みを感じた。
「っもう!今度は何!」
「視えざる攻撃……祝福の剣だな。簡単に言えば、目では見えない八光の仙人がもう一人いると思えばいい」
「嘘でしょ?」
「案ずるな、攻撃力は低い」
確かにさっきからチクチクと痛みを感じるが、さほどの痛みではない。それでも、一般人が喰らったら一撃で痛みによりショック死しそうだけどね。
「私は二人を舐めていたのかもしれない。私のすべての祝福をもって、全力で排除しよう」
「そうはさせ――!」
なにかを始めようとする八光の仙人を食い止めようと走り出すが、何かにぶつかって弾かれた。
「祝福の剣?」
祝福の剣を出現させたのは時間稼ぎが狙いだったのか。
「さあ、こっからが本気の始まりです」
その瞬間、八光の仙人の全身が光り始めた。
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