第368話 決着
「止まれえええええ!」
転移した先には既に八光の仙人が渓谷に降りようとしていた。
「おっと」
手を伸ばしてどうにか服を掴めそうだったところをぎりぎりで回避された。すかさず大剣を取り出して突きを放つ。
バックステップで楽に避けられたが、避けられるのはわかっていたため慌てずに大剣を構え直す。
「こっから下には行かせない」
「もう一人はいないんですか?」
「白々しいわね……援護がくるまでここは私が一人で抑える。それだけよ」
本当にこいつを一人で食い止められるのかは若干の疑問が残るものの、そう言っていても何も始まらないからね。
「最初から全力でやるから」
その宣言通りに私はありったけのスキルを起動する。
『身体強化』
『魔力強化』
『身体硬化』
『魔力操作』
『剛撃』
『探知』
『看破』
『瞬足』
それに加えて魔法による身体強化と魔力強化を施す。
「切り裂け!」
大剣に風の魔法を付与し、それを強化された身体と魔力で持って振るう。それを放つと同時に今度は大剣に雷を付与させて攻撃を仕掛ける。
初撃の風魔法は上に飛び退くことで避けられたが、逆に言えば避けるに値したということだろう。空中で身動きが取れないところをすかさず切りにかかる。
だが、
「お遊戯か何かですか?」
空中に、まるで足場があるかのように一歩引いて避けられる。
「何!?」
「空中歩法ですよ、ただの」
手をかざして土魔法を発動させる。地面から鋭く尖った針のような土を再びバックで避ける八光の仙人を追うように、その針に捕まって飛び込む。
攻撃を仕掛けるでもなく、また回避される。舐められているのは明白だ。
「先手はこちらから」
私の体に向かって拳を振りかざしたのを見計らったように、土の針の裏側から私の魔法が八光の仙人に向かって飛んでいく。
「なっ……!」
初めて攻撃を与えられることができた。地面に着地し、体勢を立て直す。
「これは……闇魔法?それも貫通力に特化したものか」
この間、街を標的にスタンピードを引き起こした魔族が使っていた魔法だ。それと全く同じ……威力だけならそれ以上の魔法を使ってみたが、結果はかすり傷を与えるだけにとどまった。
「これ、地面すら貫通するはずなんだけどね」
人間の肉体なら、一瞬で消し飛ばせるほどの威力に調節したのに……さすが仙人。
「設置型の追尾式魔法ですか?なかなか高度なことをしますね」
「へえ?結構詳しいじゃん」
仙人だから仙術しか使わないのかと思ったが、かなりの知識を持っているようだ。
「そりゃあそうですよ。こう見えて、一時期宮廷魔導師やってましたから」
「宮廷魔導師?……どっかで見たことある顔してるって思ったのよね……」
名前なんだっけ?私を学院に入れさせるように強く推薦した宮廷魔導師長。
あれで、多分私の人生だいぶ狂ったのよね。
「鬱憤は晴らさせてもらうから」
「できるものならやってみなさい!」
今度は向こうから攻撃を仕掛けてくる。仙術と呼ばれる謎の術だろうそれは八光の仙人の体にまとわりつき、淡く発光する。
そして、光が完全に体を覆ったのを確認した八光の仙人が姿を消し、背後から現れた。
ギリのところで防御が間に合い、その攻撃はあり得ないほど重かった。
「失敗ですか、ではもう一度」
「同じ手を食らうわけないでしょ!」
そう思ったが、やはり姿がまた消え居場所がわからなくなる。後ろからと思ったが、本当にもう一度同じ攻撃が来るわけもない。
「上か!」
すかさず飛び退く。地面スレスレで攻撃は止まり、その時に気づいた。
「気配がない?」
「正解です」
姿が見えなくなったんじゃなくて、気配が完全に消えたのだと気づく。
「隠蔽術の一種です。これを使って生きているのは人間ではあなたが初めてでしょう」
「そりゃどうも」
ただでさえ気配の感知が難しい魔力場の近くだというのに、そんな中で気配を消されてしまったら、いつか防御に失敗してしまう。
どうしよ?
《気配の登録が完了しました。八光の仙人の気配は完全に把握済みです》
おお!ツムちゃん流石すぎる!
また八光の仙人が姿を消したが、今度は気配がはっきりとスキルを通して伝わってくるため、惑わされることはない。
「後ろ!」
「おっ?」
振り返りざまの一撃目は肩を掠めて、二撃目は脚に掠った。どれも深いとは言えない攻撃だったが、相手には十分驚きを与えることができただろう。
「どうやって気配を?」
「あなたもできるはずだけど?」
「ほう?」
考え込む様子を見せる八光の仙人。あれ?もしかして、やったことないのかな?
《基本、スキルがここまでのサポートをすることは稀です。ですので、試そうという発想がなければ永遠に実現しないでしょう》
なんとまさかの私特別待遇?
「まあいいでしょう。こんな傷、すぐになお……」
「治る……なに?」
私は口の端を持ち上げてニヤリと笑う。
「なんだ、これは……?」
「大剣についている毒ね」
「毒だと?」
この大剣を製作したどっかの引きこもりドワーフさんは、ただの神経毒だと言っていた。だが、妖精の鱗粉から作った毒が、ただの神経毒なわけがないだろう?
「強力な神経毒だけど……効き目は良さそうね」
「くっ」
「これで終わり!」
私は近づき大剣を振り上げる。八光の仙人の笑みに気づかずに……。
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