第361話 脅威

 次の日のこと。


「昨日は疲れましたねー」


「旦那様と仲良くなれたようで、私も嬉しいです♪」


「いや、仲良くはなれない気が……むしろ仕事押し付けられただけなんですけど……」


 まあ、変な言い訳を考えた私が悪いと言えば悪いんだけどさ?それにしても成人したての女性に任せる仕事の量じゃないでしょあれは……しかも私二年間仮死状態だったんよ?


 実質十三歳だよ?身長はいまだに150を超えているかいないかのライン……。


「義妹殿は今日何か予定がおありで?」


 背伸びをしながら天井を見上げていた私はライ様の方に向き直る。ライ様の身長……私より全然高かった。


 じゃなくて!


「予定はあると言えばありますけど……」


「そうなんですね、今日はミサリーさんも予定があるらしくて、話し相手が二人も減ってしまう……」


「ミサリーの予定は何なんですか?」


「冒険者の応援要請のために、ちょっと街を離れるそうです。ミサリーさんってSランク冒険者だったんですね、驚きです!」


 つまりは使いっ走りというわけで……。


「蘭丸たちはどこかへ行ってしまうし……ではミハエルさん、私たちは魔法について語り明かしますか」


 女子会で話してた内容ってまさか魔法について?参加しなくてよかった……。


「義妹殿も予定が終わったら参加します?」


「よ、予定が早く終わったらもしかしたら……」


 私は足早に組合を後にした。



 ♦️



 足早に組合を後にして向かう先はもちろん先日の渓谷。明日も来ると言ってしまったからには来ないとね!


「にしても、今日はどこにいるのだろうか?」


 渓谷の中に今日もいるとは限らないし、山のどっかをぶらついているかもしれない。魔力場の歪みのせいで私の探知は機能しないのが難点。


「助けてツムちゃんー」


 《ツムちゃんとは?》


「あなたのことですけど?」


 《はい?》


「はい?」


 何でもいいじゃないか、呼び名がないとこちらが呼び出したい時に不便なのだ。とりあえず納得しておきなさいな。


 《理解しました。ツムちゃん頑張ります》


 冗談の通じるスキルでよかった。冗談の通じるスキルが何なのかはさておき、八呪の仙人の居場所について、ちょっとわかる範囲でお答えできますかね?


 《八呪の仙人の気配は既に記憶済みです。現在は山の中腹あたりにいるようです》


 ツムちゃん強すぎ!これで権限レベル1ってマ?


「ちなみに権限ってレベル幾つが最高なの?」


 《五段階評価の5です》


 権限レベル5になったら一体どうなってしまうんだこのスキルは……。


「中腹だっけ?よし!早速向かおう!」


 そう言って歩き始める。


 《反対です》


「……よし!早速向かおう!」


 《ごまかせていません》



 ♦️



 木の幹を伝ってひょいひょいと軽々しく移動する。


 《足元にお気をつけて》


 気をつけてる気をつけてる。ぐちゃぐちゃな地面を歩くよりもこっちの方が汚れないんだもん。それに、障害物も少ないから、移動しやすいんだよね。


「で、後どれくらい?」


 私がそう聞いた直後、なぜだか足場がなくなっていた。


 《真下です》


「報告遅いよおおお!?」


 高い木の上からそのまま落ちていく。普段なら宙返りしながら着地するくらい余裕があったが、今日に限っては靴がスカートに引っかかってしまった。


 そのせいで、上手く体勢を直せない。


「受け止めてええええ!」


「む?」


 下の崖近くに立っている見たことある顔に向かってそう叫ぶ。このままじゃ二人ともぶつかってしまうからね。きっと助けてくれるさ!


 そう思っていた時期が私にもありました。


「ふん」


 一歩後退り私を避けた。


「ちょっとおおお!?」


 そのまま私は崖の方に落ちていく。一周回って冷静になった私は、さっさと八呪の仙人の元へ転移した。


 転移が完了すると、変なものを見るような目でこちらを見ていた。


「ちょっと!助けてよ!」


「メリットがない」


「ぐぬぬ……!」


 興味なさげな表情はいつも通りとして、こっち見ろや!


「どうしてここがわかった?」


「え?あーうん……当て勘?」


「そんなもので我の居場所を当てたのか?」


 と、かなり珍しくも少しだけ驚いたように目を開いていた。


「やはり、お前は人間ではないな?」


 ギクッとなりかけたが、どうにか堪える。うん、ツムちゃんがなんか人間だった頃……という意味深な発言をしていたのを思い出した。


 だが、私のスキルによる解析鑑定ではまだ人間なので人間だ!


「人です」


「何だ今の間は」


「とにかく、こんなところで何をしているのですか?」


「お前が知る必要はない」


 もういつまで立っても知る必要ない連呼されるんですが?


「その知る必要ないっていうのやめてください。やめない限り、ずっとここにいますよ?」


「……………」


 こちらをチラリと見て、ため息を一つつかれた。


「街の様子を確認していただけだ」


「街の様子を?」


「我は街がどうなろうとどうでもいい。だが、我の平穏を脅かすものがこの街にはあるのだ」


 平穏


 その単語を聞いて、私は思わず仙人の手を掴んでしまった。


「仲間だ!」


「は?」


「平穏って大事ですよね!なのにどうして私の人生はこうも波瀾万丈なのか本当にヤンなる……あなたもそうなんですよね!?」


「あ、ああ……」


 若干引かれているがこの際気にしない。


「それで、平穏を脅かすって何なんですか?正直言って、あり得ないくらい強いよね?」


 呪いの力を発動させずとも私と互角以上に戦っていた。そんな人の平穏を脅かすとは……。


「脅かす……まあ、脅かされてるんだろうな」


「どういうことですか?」


「それは……」


 と八呪の仙人がこちらを向いた時、彼の目を通して私の体が反射して映った。その中に映っている私の体が、なぜか発光していた。


「その脅威が、どうやら来てくれたようだぞ?」


「え?」

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