第360話 仲良くなれた?

 よくわかんない人に絡まれていたけど、ここまできたんだからついでにお兄様の顔でも拝みに行きますか。どうせ忙しそうにしているんだろうし、こっそり見るだけ……。


 久しぶりに透明化の魔法を使用する。いつになっても便利な魔法だ。


 屋敷の中に入って、お兄様の部屋を探すがそれはすぐに見つかった。というよりも屋敷も燃えてボロボロなため、残された部屋の方が少ない。


「これかな?」


 だが一番わかりやすかった要因は……


「『ダーリンの部屋♡』って……ライ様恥ずかしくないのかな?」


 部屋の前にそんな文字が書かれた板が貼り付けられていた。


 キッカリと閉められた扉の中に入るのは至って簡単。


 まず、少しだけ扉を捻り、少しだけ開ける。すると、ここで、


「なんだ?」


 そんな声が聞こえ、足音がこちらに近づいてくる。そして、扉が開きお兄様が出てきた。


「緩くなったのか?」


 勝手に開いたことを不思議そうにしながら、廊下の方に目をやっている隙に入り込む!部屋を出る時も似たような手順でどうにかなる。転移を使ってもオッケー。


 そして、開いたその少しの隙間の中を通り過ぎて、中へと侵入する。そこはお兄様らしい部屋だった。


 お兄様らしいというか……父様と似ている部屋だ。書類がたくさん積まれていて、本棚に囲まれている部屋。


 やはり、家族とは似るものなのだろう。


 扉が閉められて、お兄様が定位置に戻っていった。そして、また書類にハンコを押したりする作業が始まったようだ。


(復興作業の人員に、街の警備……反乱軍調査書と幕府の意向書。たくさんある……)


 目に見えるものだけでもたくさんあるとわかる。面白そうな内容のものは一切ない。


 ほんと私だったら倒れてしまう……。


「誰だ?」


「っ!」


 微かな体重移動によって床が軋んで音がなってしまったようで、気づかれてしまった。


「そこか?」


 お兄様が私に向かって水の魔法を放ってきた。


「のわあ!?ちょっと待ってくださいお兄様!」


「お兄様?ベアトリスか?」


「はい、そうですそうです!なので一旦止めてください!」


 殺傷性の高そうな水魔法に当たらないように回避しながら、だと書類を踏んでしまいそうだ。


 そして、水魔法の射出を抑えてくれている間に私は姿を現す。


「ほんとにベアトリスだったのか?」


「何だと思ったのですか?」


「暗殺者」


 ぶっ飛んでる!


「何のようだベアトリス」


「用っていうか……用じゃないというか」


 何となくで侵入しましたとか言ったらまた水魔法が飛んできそうだ。


「お、お仕事手伝えないかなーと」


「仕事の?」


「はい、こう見えて公爵家の令嬢ですからそのくらいはできます」


 ぼーっとした瞳で見つめられ続けること数秒。


「まあいいだろう」


「ありがとうございます」


「仕事が減るのはありがたい」


 デスヨネー、かわいい妹のためとかじゃないのはわかってました……。


「ではこちらの書類をお願いできるか?」


「はい」



 ♦️



「書類多くないですか?」


「そうでもない」


「棚の中から書類を取り出すなんて聞いてないです!」


「言ってないからな」


 多すぎる書類の前に私は眩暈がし始めていた頃、扉を叩く音がした。


「入れ」


「旦那様ー、伝言って本当……って、あら?義妹殿じゃないですか」


「お邪魔してます……」


 入ってきたのはライ様だった。


「え?っていうか、二人して仕事してらっしゃるの?まさか伝言って……兄妹ってすごいですね……」


 色々と間違ってます!伝言の内容はこれじゃないし、私は仕事が嫌いです!ただまあ伝言の件を口にしたら色々と話がややこしくなりそうなので言わないことにしておこう。


「それで何用だ?」


「あー……何でもない!ただ遊びに来ただけですわ」


 多分伝言について聞きに来たのだろうライ様。話す必要はなさそうだと思ったようで、そそくさと自分の部屋に帰ろうとしていた時、


「ちょうどいい、ライも手伝ってくれ?」


「え!?無理です!仕事なんかできません!」


「大丈夫だ、妹が教えてくれる」


「は?」


 といい、何事もなかったかのように仕事を続行し始めてしまったよこの兄は……。


「え、ええと……もう夜だけど、私も帰りたいんですが?」


「仕事の手伝いをしに来てくれたのだろう?だったら、最後まで付き合ってもらおうじゃないか」


 ……………下手な言い訳をした過去の自分を恨みたい……。どうして私が嘘をつくとこうなってしまうのだ?


 最悪だ……と思いつつ、私よりもさらに落ち込んでいるライ様を見てこの鬱憤を晴らすことに決めた。


「ライ様!仕事の極意というものをあなたに叩き込んで差し上げます!」


「え?嘘でしょ義妹殿もそちらサイド?」


「私も早く帰りたいから手伝って!」


「いやだああああ!」

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