第362話 救いたい仙人
腕を掴まれて引き寄せられた次の瞬間、私のいた場所にもう一人現れていた。
「昨日ぶりですね、ベアトリスさん」
「あ!あんた、自称仙人!」
「そいつは自称ではない、我と同格の仙人だ」
「え?」
自称じゃなくて本物の仙人だった?
「そこにいる私の友人の言う通りさ。私も仙人だよ」
「友人?」
とても友人に向けそうな表情してないけどね、八呪の仙人は……。
「全く、お前尾行されているのにも気づかなかったのか?」
「え?全然気づかなかった……」
「まあ、しかたないか。仙術で追跡されていたようだ」
そんなこと言われたって仙術が何かすらわからん小娘に言ったってしょうがないじゃないか!
「まあいい、この際ここらで決着をつけるか?」
「いやだねぇ、私はまだ決着をつける気はありませんよ」
話の流れについていけないのだが?
「ただ、ベアトリスさんを尾行したのは幸運でした」
「ちょっと、なんで私の名前知ってるの?」
「はぁ……悲しいです。随分と前にお会いしたじゃないですか」
そう言って、顔に手をかざしてから一撫でするように、手を動かした。すると、一瞬にして顔が全くの別人になっていた。
「あれ?その顔……どこかで……」
「王国の宮廷魔導師の顔ですよ」
顔を元に戻したそいつは、一歩前に出てきた。
「ささ、彼女をこちらへ渡してくれないかい?」
え?私ですか?
昨日あった時のようにニコニコと不気味な笑顔を貼り付けたまんまのその男の手が伸びてきたが、
「いやだと言ったら?」
肩が少し強く掴まれた気がする。
「人に関心が持てないわりに、変なところで人間味があるんですね」
「殺す」
その時、二人の間に殺気が生じた。身の毛がよだつほどの強い殺気が私の体に押し寄せてくる。幸いにして、殺気が向けられているのが私ではなかったおかげでどうにか耐えられたが……。
「いいのかな?そんなこと言っちゃって」
「どういう意味だ」
「渓谷で眠っている『君』に手を出したら、どうなるんだろうねぇ?」
「っ!?」
殺気が止まり、私の心臓の鼓動も少し落ち着いてきた。死ぬかと思った……。
「どうしたんだい?昔の約束を果たせるんだ。喜んだらどうだい?」
「……我にはまだ、やらなければいけないことがある」
「はっ!何年生きてるんだよお前。もう私たちにやり残したことなんてないでしょう?結局どう頑張っても、あなたは私を救えやしないのだから」
救う?
「我は、我はまだここでは終わらぬ。この世が滅び去るまで、最後の時を見届ける」
そして、私の掴んでいた手に力が入り、体が宙に浮き上がる。
「掴まれ!」
とっさに私は八呪の仙人の腕を掴んだ。
♦️
「ここって、昨日の渓谷の中?」
座禅を組んだまま、眠ったように目を閉じている八呪の仙人の本体さん?が見える。
「ねえ、あの人誰なの?」
「お前が知る必要はない」
汗が滴り落ちているところを見るにかなり焦っていたようだ。
「私にも何かできることはある?」
「ない」
「でも、相談事とか……」
「ない」
「何かしらあるんじゃ……」
「ないと言っているだろう!」
渓谷の中は声がやけに響く。
「お前には分からぬ!我の考えることなど理解はできぬ!この苦しみに何千年と耐えてきたんだぞ!」
無表情だった顔が、今にも泣き出しそうな顔へと変わっていた。
「あやつは我の友人だ。だが、とある事情であやつは苦しんでいる。我はあやつを助けたい。だが、感情が薄い我ではあやつの考えを理解することはできなかった」
確かに、仙人とかいう割に、あの人はどうにも感情がかなり豊かなように見えた。
「友人を助けたいにもかかわらず、その気持ちを理解できない我は一体なんなんだ?どうすればいい?」
「理解したいの?」
「無論だ。だが、どうしても我には理解が及ばない。あやつの志・は」
志か……。
その志が理解できないということなのか?一体何を成し遂げたいと願っているのか……まあ、馬鹿な私でもその志の内容はなんとなく理解できる。
「ツムちゃん、私の考え合ってると思う?」
「おま……一体誰と話して……?」
私は考えを頭の中で思考する。ツムちゃんはそれを正確に読み取ってくれたようで、
《肯定します》
私の予想通りなようだ。
「八呪の仙人さん」
「なんだ」
少し目が赤くなりむすっとした顔を見つめて、私は答える。
「その志、私と同じだよ」
「何を言っている?」
「この世界を救いたいという願いは私もあの人も同じ。私ならその志を理解できるよ」
「どうしてそれを!?」
世界の言葉を持っているあの仙人は何かが原因で狂ってしまった。苦しんでいる……というのは、きっとそのことだろう。
「で、どうする?私にわけを話しくれる?私なら協力できることたくさんあると思うんだけどなー?」
「そ、れは……」
「私のことをもう無関係扱いできないねー、もしかしたら……いや、必ずあなたの友人を救ってみせるよ」
そう言って、その驚いた顔を見つめる。感情が薄いという言っているが、私はそんなことないと思う。だって、その顔は、希望を見つけたと言わんばかりに綻んでいたから。
「……話そう」
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