第358話 剣術マスター

 転移で冒険者組合の前まで転移する。なんだかんだで復興が進んでいるようで、生き残った街の住民さんはせっせと木材を運んでいる。


 冒険者組合の中に入ると、朝見た通り椅子に座って雑談をしている女性陣がいた。


「ヤッホー」


「お嬢様?どこへ行ってらしたのですか?」


「ちょっと山の方までお散歩よ」


 そう答えつつ、あたりを見渡す。


「あれ?男子勢どこ行った?」


 受付さんは女性なので、受付さんを含めた四人はコーヒー(ミサリーはオレンジジュース)を片手にお茶していたが、男性陣がどこにもいなかった。


「蘭丸たちでしたら、街の外に出て修行を〜とか言ってましたわよ?」


「街の外?」


 修行とはまた……ユーリに関しては一番縁遠い言葉ではないか。それに、既にステータス化け物級なのに修行してたころで……ねえ?


「ちょっと心配だから見てくるね」


「お嬢様、私も行きましょうか?」


「いいよいいよ、大丈夫」


 そう言いながら、私は冒険者組合をでた。



 ♦️



 山に登ったり、冒険者組合に入ったと思ったらまた出たり……今度は街を出る。朝から大忙しだ。まあ、半分は自業自得だけど。


 街の外をフラフラと歩いていると、すぐに音が聞こえてきた。鳴り響くのは金属音……修行と言っていたけど、剣術の修行かな?


「おーい!」


 駆け足で向かっていくと、ちょうど蘭丸さんが刀を振りかぶっていた。


「あ、ご主人様!」


 剣を持って相手をしていたユーリが剣を放り投げて私の方へ向かっていってしまったせいで、蘭丸さんの刀は空振りそのまま転んでしまった……かわいそうに。


「はいはいいい子いい子」


「えへへ!」


「何してたの?」


「蘭丸が剣術の練習したいんだって」


 レオ君の姿もそこにあり、そしてそのあと地面の抉れ跡を確認する。


「ユーリ君や、ちとやりすぎじゃない?」


「えーそう?」


 とぼけたような口調のユーリだったが、蘭丸さんはかなりおこだったようで……。


「やりすぎでござるよ!何なんでござるかあれ!オーバーパワーすぎるし、一撃でもモロに食らったら全身砕け散るでござる!」


 ごめんなさいうちの元魔王が……。


「レオ君は相手しなかったの?」


「ユーリが先にやりたいって言ったから」


 そこで優しさ発揮しないで!ユーリが暴れちゃうから!


「そ、そうだ!ご主人様もやってみてよ!うまいでしょ?」


「え、でもそんなに上手くないけど……」


「大丈夫だよ、大剣をあれだけ扱えるんだから、それより難易度が低い剣術くらい余裕だよ!」


「そういうなら、やってもいいけど……」


 とりあえず落ちていた剣を拾う。


「ベアトリス殿が相手でござるか?」


「どうかしたの?」


 戸惑ったような顔をしている蘭丸さん。


「いや、流石に拙者、異性と刀を交えたことはないでござるから、こういう時どうすればよいか……」


「別に手加減はしなくていいですからね。手加減してたら修行にならないですから」


「そうでござるか?なら、遠慮なくやらせてもらうでござる!」


 刀を構えていた蘭丸さんが動き出す。あれは、中段の構えというやつだろう。


 そして、刀を一瞬だけ振り上げて攻撃を繰り出してくる。身体能力が違うため、私の目ではまあ追えるわけだが、同じくらいのステータスの人にとってはかなりの脅威ではあるだろう。


 その攻撃をガードし、続く連撃を防ぐと今度は私の方から一歩足を前に出した。それをみて一瞬警戒した様子の蘭丸さん。


 だが、足の動きを見たあと、また攻撃に出てきた。


「あれ?フェイントバレた?」


「足の動き方が不自然でござるよ」


 やっべ、こいつプロだ!


 いや、武士なんだからそうか……。


 攻撃を防ぎつつ、何度か攻撃を返してみた。が、大体の攻撃は軽く防がれてしまう。そんなことを数回繰り返していた途中で、


「拙者の負けでござる」


「え、突然どうして?」


 いきなりの負け宣言。


「拙者、実はさっきから本気で刀を振るっていたでござるが、どうも防御を崩せそうになかったので……それに、手加減してるでござるよな?」


「え?」


「さんざんユーリ殿からベアトリス殿の凄さというのを説明されて、耳にタコができてたでござる……」


 ユーリの方を見るとにっこり笑顔でこちらを見ていた。違う!褒めるつもりはないから!


 あーもうなんて恥ずかしいことをしてくれるのあのキツネ!……でも、今更か。


「ま、まあ一応私の勝ちですか?でも、フェイントとか全部バレてたので、私もまだまだですね」


 そう言って私は剣を鞘にしまう。


「次、レオ君だよね?」


「そうだね、じゃあやらせてもらうよ」


 レオ君にしては珍しく乗り気な感じがした。


「蘭丸さんは体力は大丈夫?」


「拙者は全然平気でござるよ!体力だけが取り柄でござる!」


 ということで、三回戦目が始まる。


 始まりの合図が終わった瞬間、突然レオ君の雰囲気が変わった。素人の私でもわかったくらいの凄まじい覇気。


「いつものレオじゃないね」


 と、ユーリも言っている。


「蘭丸さん、来ないんですか?ならこちらから行きます」


 蘭丸さんが驚きで固まっている間にレオ君は一歩ずつ前に出る。それにハッと我に帰ったように蘭丸さんが刀を一度鞘にしまった。


 居合斬りという、サムライならではの攻撃方法だとのこと。


 刀の間合いに入った瞬間、凄まじい速さで剣がレオ君の方へと向かう。だが、レオ君は防御する様子を見せない。


 それどころから剣を振り上げていた。そして、その剣を刀に向かって振り下ろす。


「んな!」


 刀はいとも容易く斬られてしまった。


「あ、ちょっとやりすぎました?」


 いつもの雰囲気に戻ったレオ君が、蘭丸さんにそう問う。


「どうやったんですか今の?」


 蘭丸さんの疑問は当然そこだった。刀と剣の強度が同じだとして、振り下ろしの威力加算を計算しても刀がそう簡単に真っ二つにされることなんてあり得ないからだ。


「どうやってって……刀の一番柔らかい部分にうまい具合力を加減して当てただけですよ」


「ええ?」


 蘭丸さんも理解に苦しんでいる様子。大丈夫、私もわからない。


「実は僕、拳で戦うより、剣で戦うことのほうが得意なんですよね」


「「ええ!?」」


「な、なんでそっちの二人が驚くのさ?」


 私とユーリが驚いているのをジト目で見るレオ君。


「いやいや、そんなの今まで聞いたことないよ!?」


「拳で戦っているところしか見たことない!」


 見たことないもんはしょうがないし、聞いたこともないんだから。


「実は僕、剣術はそれなりにマスターしてるんだけど刀術を一回学んでみたかったんだよね。教わることってできますか?」


「あ、ああ。門外不出の技以外のものだったら教えられるでござるよ……?」


「わあ!ありがとうございます!」


 そう言ってレオ君は尻尾を振って嬉しそうにしている。


 頑なに獣人には興味なさげな様子だった蘭丸さんの視線が、尻尾の吸い寄せられていたことは見なかったことにしておこう。











 しかし、この時は誰も気づかなかった。後ろから四人を見ている人物がいたということを……。

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