第357話 本物の姿
《深度1000メートルを超えています。着地の際、お気をつけて》
かなり長い間落下している気がする。そのうち、暗がりの中から地面が見えてきた。
「よっと!」
夜目が効いていて良かった。地面は硬いので、着地を失敗したら足首を痛めていただろう。
「あれ?どこ行ったのかな〜」
みれば既に仙人の姿は無くなっていた。だが、渓谷の中に入って行ったのは間違いないため、きっとこの近くにいるはずだ。
「じゃあ、また生体反応あったら知らせてくれる?」
そう言って体を伸ばしていると、
《後ろです》
その声が聞こえたと同時に、私は大剣を取り出して斬りつける。
「魔物?」
そこにいたのはごくごく普通のクマのような魔物だった。私が斬りつけたことによって、そのクマは灰となって消えてしまった。
「死体が残らない?」
《魔力場が歪んでいるせいでしょう。体に残された魔力が制御をなくして魔力場に引き込まれ、肉体が崩壊したと考えられます》
とりあえず、後ろにいたのが仙人でなくて良かった。
「ただのクマでさえ、気配がわかりづらいなんて……これも魔力の歪みのせいか……」
さっさと仙人見つけて帰ろ……。
「それにしても、ここには魔物がたくさんいるようね」
周りを見渡してみれば、パタパタとコウモリ型の魔物が飛んでいたり、猿のような魔物がこちらをじっと見つめていたり……気配はどれも分かりづらい。
こんなところに仙人は一体何のようだ?
私が歩き始めると、途端に他の魔物たちは私を避けるように離れていった。魔物の方から私のことを避けてくれるのであれば、こちらも戦わないで済むから嬉しい。
「とりあえずこっちに向かってるけど……なんか歪み強くなってない?」
《魔力場が近いです》
段々と強烈な魔力が体に押し寄せてくるようになる。ここら辺からは既に魔物はいなくなり、強烈な魔力から逃げたためだと思われる。
体が魔力の嵐にあたられ続け、足取りが段々と重くなる。
「けど、私には結界がある!」
結界魔法を全身に張り巡らせると、今まで感じていたものすごい重圧も和らぎ、ほとんど感じないほどになってしまった。
「これなら、平気だね」
再び、スタスタと足取り軽く歩き出した。しばらく歩いていくと、次第に目の前が明るくなり始めた。
発光するなにかが光源となり、目の前を照らしている。
「あれは?」
《仙湯です。仙人の魔力に当てられ続けたお湯だと考えてください》
見えてきたのは、淡い緑に発光する湯船だった。この暗い渓谷の中じゃ一番明るい光源だ。
だけど、私はそれよりもその上で浮いている八呪の仙人の方が気になった。
「空中で座禅組んでる……修行中かな?」
だが、私はそんなこと気にしない。
「ねえ、何してるの?」
と聞いてみるが返事をする気配はない。
おいこら返事しろや!と言いたいが、流石に気が引けたので少し近寄ることにした。
「仙湯ってなんか薬湯に似てる感じ?」
あったかい上に、傷が癒えるような感覚だ。
「ちょっと、返事してよ」
近距離でそう聞いてみるが、やはり返事はない。
ムカついたので、無理矢理やめさせようかと思い、仙人に手を伸ばす。
その時、私の手が仙人の体に触れる寸前で、バチッと手が何かに弾かれた。
私の手が弾かれて、驚いて仙人の方を見ると仙人は何事もないように座禅を組んでいた。
「あなたが弾いたわけじゃないの?」
もう一度手を伸ばしてみると、触れる瞬間にやはり何かに弾かれた。
「今度は強くいくよ!」
三度目の正直。もう一度手を伸ばし、また弾かれそうになったが今度はそこでは終わらない。
「ふぬううう!」
弾かれそうになる手を引き戻して仙人に向かって伸ばしていく。
「あと少し……」
そして、仙人の身体に触れた瞬間、弾かれる感覚だけでなく私の視界に鎖が映った。
「え?」
どっから出てきた!?
八本の鎖が仙人の体を包んでいるように見えた。そして、その鎖が私に向かって伸びてくる。
「ちょっ……!」
その時、
「何をしている?」
「あっ!」
肩を掴まれて、後ろへと引き戻された。そのまま尻餅をついて、上を見上げてみるとそこには八呪の仙人?がいた。
「え?あれ!?二人いる!?」
「あれは我の本体だ」
「本体!?」
衝撃の事実すぎるんだけど?っていうかあんた今までどこ行ってた?
「本体って……じゃああの鎖は何?縛られているみたいだけど……」
「鎖?お前にはそう見えるか」
「?」
「あれは我が宿す八つの呪いだ」
鎖は既に姿を消していて、見えなくなっていた。だが、仙人の全身に巻き付いていたのは確かだ。
「さっさと帰るがいい。我に殺される前に」
「えー……もう少し話聞いてくれても良くない?」
「興味ない。我は忙しいのだ」
そう言って、仙人は自分の本体を眺める。
(今日はもう無理そうね……)
流石に一度だけ訪れてさあ仲間になろう!なんて都合よくいくわけないと思っていたし……。
「じゃあ、今日のところはもう帰るわ。それじゃあまた明日!」
「おい、今なんと……」
「バイバーい!」
私は仙人に問いただされる前に、渓谷から転移で逃げ帰るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます