第356話 霊峰の山頂

 トコトコと道を歩く。


 ライ様から仙人の話を色々と聞いたところによると、かなり凶悪そうなイメージだ。特に、人間を憎んでいるというワードがね。


「でも、逆にこれはチャンスじゃない?」


 《何のでしょう?》


「仲間を増やすチャンスじゃん」


 《……っ!なるほど》


 本当にこのスキルは人間味すごいな……。


「めちゃくちゃ強いし、心の闇を取り払えば選ばれる可能性あるんじゃない?」


 《肯定します》


「そうとなったら、早速向かってみよう!仙境へ!」


 実は、ライ様から教えてもらった仙人が住んでそうな場所へと向かっている最中である。ライ様曰く、『人が訪れなさそうな場所へ行くと会えるかも?例えば……何千メートルもある山の頂上とか!』



 ♦️



 ということで、


「やってきました!霊峰の山頂!」


 何とも神々しい霊峰。その山頂までやってきた。


 いや、どこだよそれ……となるだろうから言っておくと、お兄様が治めている街から少ししか離れていない位置に実はあった。


 そして、何と言っても寒い。


「寒すぎでしょここ……」


 ただ、肌では寒いと分かっていても、体が震えてくることはない。


「何でだ?」


 《それは、寒さを感じていないからです》


「いや、寒いけど?」


 《人間の頃の名残でしょう》


 ん?


 人間の頃?


 それは一体どういう意味なんだ!?だめだ、これは絶対に聞いちゃいけない……。聞かなかったふりをしておこう。


「なんか、あなたも使える能力ないの?」


 《例えば、何でしょう》


「周囲の状況を伝えるとか……接敵した時に自動で魔法を発動とか」


 そんだけしないと、あの仙人にあったとしてもすぐに殺されちゃうよ。


「できたりしない?」


 《権限レベルが足りないため、後者はできません。ですが、前者は可能です》


 その声が聞こえた瞬間、私の中の感覚器官が一瞬で周囲の情報をキャッチし始めた。


 《周辺に生体反応はありません。ですが、魔力の溜まり場がいくつか見られるため、何者かがここにいたことは確認できます》


「おお!やればできるじゃん!」


 その情報が私の頭の中にも流れてくる。


「確かに生体反応とかは無いけど、とてつもない魔力場って絶対に仙人系じゃん」


 魔力が一箇所に集中するなんて、自然界ではありえない現象なのだ。ということは、魔物がいたのかそれともそれだけの魔力を一箇所に集めることができた人物がこの場にいたかのどちらかだ。


 こんな生存に不利になりそうな寒い環境に魔物が来るわけもないから、答えは後者である。


「八呪かはわからないけど、言ってみても損はないね」


 雪の降り積もった地面をかき分けながら進む。誰もいないだけあってかなり静かだ。


 少し不気味な気配もあるが、それを補う余あるものがここからは見える。


「めっちゃ綺麗……」


 山の頂上からは、日ノ本の景色を一望できた。綺麗な小川や草木の風景……今はボロボロになってしまったが、街の様子まで見れる。山を見上げた時の風景もなかなかの厳かで良かったけど、上からの一望も美しい。


 しばらく山の頂上の中心部分へ進んでいくと、そこには谷があった。


「うわ、結構大きい穴だねー」


 下は暗くて見えないほど深く、端がどこまでかわからないくらい奥行きもある。谷というより渓谷か。


「この中に落ちたらひとたまりもないな」


 そんなことを考えていた時だ。


 《生体反応を検知しました》


「え、どこどこ?」


 私が呑気にそんなことを聞くと、


 《後ろです》


「え!?」


 ばっと後ろを向くと、そこには仁王立ちで立っている見覚えのある仙人の姿があった。


 白を基調とした装飾が多いノースリーブの和服を着て、髪は短めに切られて一箇所だけ紫がかったメッシュがある。腕には刺青が刻まれ、マフラーのようなものが首元に巻かれていた。


「うわっでた!?」


「何のようだ」


 と、感情のこもってなさそうな声が、口から漏れる仙人。


「ちょっと、あんた生きてんの?全然気配感じなかったけど」


「我は生きても死んでもいない。生死というのは限りある命を持つもの放つセリフだ」


 そう告げると、私を素通りして渓谷の方へ向かう。


「殺さないの?」


 そう聞くと一瞬足を止めた。


「殺されたいか?」


 その瞬間、紫色の瞳がガバッと開かれた。すると、全身が足の先からどんどんと石になっていく。


「呪いか……」


 前回とは違って、一瞬で塵になったりはしなかった。


「『解除』」


「……………」


 膝の辺りまで上がってきていた石化が私の言葉を聞いて、崩壊していく。石化されていた足はどうやら無事のようだ。


「何をした?」


 それを見ていた仙人は興味なさげに聞いてくる。


「それを聞きたかったら、あなたのことももっと教えて」


「笑わせる。その謎の力がなければ、今お前は死んでいたのだぞ?」


「でも、実際は死んでいない。そうでしょ?」


「ふん」


 まあまあ会話が繋がることに安堵しつつ、私は話をつなげた。


「それで、話してくれるの?」


「お前が知ることはない、そして我がお前に興味を持つはずがない」


 そういうと、仙人は渓谷の中へと入って行ってしまった。


「うーん、これは結構な難敵ね……どうしようか?」


 《感情が薄い、ですが、感情がないわけではありません。そのうちボロが出るはずです》


「ここまできたんだから、一言二言話しただける帰るわけにもいかないしね」


 そう呟くと、私は渓谷の下を見る。


「行ってみますか」

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