第303話 チート

 ボロボロになっているみんなに回復の魔法をかけ、体力魔力共に回復したのを確認する。


 ちなみに一緒に訓練していた殿下は一旦チームから外れてもらった。ナナたち四人のチームで戦うとのことだったのでね。


 四人の装備は相変わらずだ。レイピア、片手剣、杖……あと拳。


 生徒に支給されている制服は、ある程度の防御力はあるようで、そこら辺の鎧よりも高性能らしい。


 前回はそのことを知らなかったが、今回は少し強めに叩いても大丈夫そうだ。


「行きます!」


「来い!」


 そして、どうやら戦術も変わったらしい。実践演習の際は、ヤンキーが突っ込んでいき、それに追従するのがナナ。


 残りの二人は待機といったものだったが、今回は違った。


 近接戦闘専門の三人が私の元へ向かってくる。クラさんはその場で待機、だが……既に何かを詠唱しているようだった。


「は!」


「お?」


 正面からきたナナの動きはあまり早くなかった。しかし、それも懐に近づくまでのお話。


 距離が近くなったと思ったら、瞬間的に加速し一気にレイピアを突き出してくる。思わず、後退するが服にかすってしまった。


 続いて襲ってくるのはリョウヘイ君。流石にナナほどのスピードはないものの、私に向かって確実に攻撃を仕掛けてくる。


 というのも、まるで私の次の行動がわかるかのように、軌道を動かしてくるのだ。


 そういうスキルなのだろう。


 フォーマだって光を使った未来視ができるんだからね。さすがは異世界人。


「ここ!」


 背後に回り込んでいたナナの攻撃が再びかする。皮膚には触れていないものの、息の合った攻撃で私の行動手段を潰しにかかっている。


「『捕縛バインド』」


 軽やかに逃げ回っている間にクラさんによる拘束。地面からつたのようなものが生えてきて、それが私の足に絡まり動きにくくさせる。


 ただ、足が拘束されてても二人の攻撃を避け切るくらいなら余裕……。


「今!」


 突如影が現れる。頭上から光を遮るように現れたのは、姿をそういえば見てなかったヤンキーだ。


 精霊の加護で強化され、さらにスキルでさらに強力になっていそうな雰囲気。ここで手を抜くほどこのパーティは馬鹿ではない。


 拘束の魔法を無理やりちぎり、横に軽くジャンプする。


 次の瞬間には、地面が大きく揺れて地響きが鳴りだす。その音の震源地に目をやれば、地面には大きなヒビが入っている。


「あぶな……」


「まだ終わりじゃねえぜ!」


「へ?」


 土煙の中から最初に姿を現したのは手だった。広げられた掌からは若干の風圧こそ感じるものの、これといって支障は……。


「つかんだ!」


「あ!?」


 その掌で何をするのかと思っていたら、魔法を放つでも叩くでもなく、服の裾を掴まれた。


 これだからスカートは!


「クラちゃん!」


 ナナの声に合わせて、魔法の気配が強くなる。だが、それはどう考えても桁が違う。


 いや、おかしい!絶対に!


「『隕石メテオラ』」


 一つの大きな隕石が雲から顔を出す。範囲攻撃もいいところ、このままヤンキーも一緒に潰されてしまうのでは?という一抹の疑問が頭をよぎるがそんなことどうでもいいと考え直す。


 いや、どうでも良くないが……。


「勝った?」


 風に乗って誰かの呟きが耳に入る。だが、今は勝ち負けよりも重要なことがあるのだ。


「『ブラックホール』」


 隕石はいきなり開いた空中の歪みにどんどん吸い込まれていく。それは地上から空気すらも吸い出してしまいそうな勢いで膨らんでいく。


 木々が大きく揺れ、生徒たちも吹き飛ばされそうになるのを必死に堪えている。


「『解除ディスぺル』」


 ディスペルと呪文を唱えれば空間の黒い歪みは綺麗さっぱり跡形もなく、消え去ってしまった。


 もちろん隕石も……。


「あなたたち!」


「「「は、はい!?」」」


「そこに座りなさい!」


「「「ええ!?」」」


 お説教の始まりだ。当たり前だろう?あんなでかい隕石がここに降ってきたら校舎が潰れてしまうではないか。そうなれば、いろんな人が下敷きに……校舎の再建設の費用は一体誰持ちになるのか……それを考えただけでもはらわたが煮え繰り返りそうだ。


「あんな大魔法使っちゃいけません!まだ子供でしょう!?」


(((先生の方が子供じゃないか……)))


 だが、それを口にするバカはいなかったようだ。


「はぁ……それにしても、クラさん。良くあんな魔法使えたわね。普通に、魔力ギリギリだったんじゃない?」


 魔力が枯渇すると、かなりの脱力感と意識が飛びそうになる感覚がするはずなのに、当の本人はピンピンしている。


「は、はい……。実は、私、自分のスキルの使い道がようやくわかって……」


「スキル?」


「はい、いろんな人のスキルを好きな人にいくらだけ付与できるんです」


「はい?」


 ドユコト?


「スキルの名前と効果がわかれば、自分の好きなタイミングで誰にでもそのスキルを付与して使えるようにできると?」


「はい、自分にもできるし、一度かければわ、私が解除するまで永久に使えます」


「はあ!?」


 チートじゃねえか……。


 なんと、ここにもまた一人チート使用者がいたようだった。


「ま、まあいいわ。今回はあなたたちの作戦勝ちってことにしてあげるわ」


「「「ほんと?」」」


「もちろん」


「「「やったー!」」」


 こうして、私の教師としての日常が戻るのだった。

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