第261話 再戦(ナナ視点)
「ええええ!?」
いきなりアネットが殴りかかったと思ったら、ヤンキーのほうも負けじと応戦する。
「いきなりなにすんだ!」
「バカ、ちゃんと学んでないの?」
「はあ?」
ヤンキーの拳による連撃を片手で捌いていくアネットはやはり強い。が、学んでいないとは?
「私に昨日負けて、何も学習してないのって聞いてるの」
「っ!」
アネットは決して邪悪な人物ではなかったのである。
「あなたの拳じゃ私に届かないし、それは剣でも同じこと。素振りしてても意味がない」
「ふざけんな!俺は好きなようにやるんだよ!」
と言いつつ、悔しいのには変わりなさそうで、唸っている。
「はあ……何も変わらないの?所詮は獣ね」
「ってめ……」
なんだか、色々と面倒なことになりそうな気がする。
だが、それは私の気にしたことでは……。
(いや、結構気にするわね)
このままでいいのか?このまま弱者のままでいいのだろうか?
そう、私たちは弱い。たとえ、一般市民よりも多少強かろうと本物の強者と比べたら虫けら以下でしかないのだ。
今のままでは他者を守るどころか、自分の身さえも守れやしない。そんな状態のままじゃダメなんだ。
(私たちは、『英雄』なの……少なくとも、そう呼ばれるに恥じないくらい強くならないと)
だが、ヤンキーを見ている限り、一日で劇的に変化できるわけない。
そして、一人で戦っていたヤンキーにはこれが相当堪えて……。
「そうだ!」
いい案を思いついた!
というよりも、そもそも本当はそうすべきことだったのだ!
「そうと決まったらさっそく呼んでこよう!」
私は、生徒部屋へと戻るのだった。
♦♢♦♢♦
「なんで、あの赤髪の人がいるんだ?」
「アネットさんね……ベアトリス先生が保護したらしいよ?」
「まじかよ!」
そうコメントするのはリョウヘイくん。
「あの……なんで私たちはここに呼ばれたんですか?」
と、クラさん。
目の前では、つまらなさそうに戦うアネットと、必死になって食らいつくヤンキーの姿があった。
「私たちは、チームよね」
「へ?そ、そうだね」
「だったら、なんで私たちは戦いヤンキー……トラオに全部押し付けて観察なんてやってたの?」
「それは……」
そう、私たちは、ヤンキーなら何とかしてくれるでしょと、甘く考えていたのだ。
そもそも、連携というものを苦手としているヤンキーにはむしろ連携は不要だとこっちが勝手に解釈していた。
だが、現実は甘くない。
「見ての通り、ヤンキー一人ではかなわない……だけど、私たち全員がチームワークを発揮すれば変わってくると思わない?」
「かもな!」
リョウヘイくんは肯定の意を示すと、おどおどしながらもクラさんもうなずいた。
「よし、そうと決まったら……ヤンキー!」
「ああ?」
アネットもこちらを振り返り、試合は一時中断となる。
「私たちも一緒に戦うよ」
「はあ!?いらねえよそんなん!」
「でも、あんた一人じゃ勝てないじゃん!」
「ぐっ……」
「あれれー?ヤンキー君ってアネットさんみたいなか弱い女の子にも勝てず、『協力』っていう単語を知らない脳筋バカだったのー?」
と、適当にあおってやると、バカはすぐに頭にくるのだ。
「抜かしやがる……いいだろう、ならさっさとこっちに来いや!」
額の上に、青筋を立てながらも、協力を取り付けることに成功。
(よし、まずは第一段階ね)
アネットもこちらを見て、にやりと笑っている。これが、してほしかったのだろう。
「役割通りいくわよ」
それぞれが武器を構える。魔力も満タン。準備はばっちりだ。
「来い」
アネットのその一言で、戦いは始まる。朝っぱらからにしては、私も気合が入り、まずは様子見に突撃。
ただ、それはすぐに見破られるので、アネットの拳に剣をあてたところで、勢いを使って流れるように背後に回り込む。
「くっ……」
それでも、背中に傷を与えることはできずに弾かれた。
だが、
「挟み撃ちはできた……」
主力の私とヤンキーでアネットを挟むことが出来た。
「ぶっ飛ばしてやる!」
ヤンキーは私に倣うように、同じような軌道を描いた。それと、同時に私はアネットの死角となるところから、反対に回り込む。
ヤンキーの拳と、私の剣がほぼ同時に攻撃を放たれた。
「ふん!」
どちらかは当たる……そう思ったが、そう簡単にはうまくいかない。
地面を思いっきり蹴ったと思ったら、その衝撃で私とヤンキーは態勢を崩した。
「まだ甘いわ」
そう言われた瞬間、代わりにリョウヘイくんの声が聞こえた。
「左足!ナナさん!」
その短い言葉が意味することは単純明快。
弱点である。
というよりも、隙がある部分だ。『看破』は、何も弱点を見抜くだけのものではない。
相手の油断から生まれる隙もスキルで把握できるのだ。
そして、私が転びながら、言われた通りに一撃。
ただ、それに気づいたアネットは足を上げようとする。
「クラさん!」
「は、はい……!」
地面から生えてくるつるがアネットの足を掴んだ。
そして、
「はあ!」
思いっきり振った私のレイピアは左足に攻撃をあてることに成功した。
さらに、
「お返しだ!」
私に気をとられすぎたのか、後ろから迫るヤンキーの気配を感じ取れなかったアネットは、そのままヤンキーの全力の拳をもろに喰らった。
つるがちぎれ、そのまま吹き飛んでいくアネット。おそらく、スキルも加護もすべて上乗せさせた文字通りの本気の一撃だったのだろう。
だが、当の本人は殴ったような感触が薄かったのか、手を開いたり閉じたりしてる。
吹き飛んでいったアネット。
「あっ!」
私はあることに気づいてしまった。
別に新たな戦法とか、ヤンキーを褒めるための言葉でもない。
アネットの後ろにあるとってつけたかのような木造の囲いに気づいてしまった。
「確か、今日は入学の……」
「追撃行くぞ!」
「え?ちょっと待ってえええ!」
木造の囲いはアネットが吹っ飛んだ衝撃で壊れ、そこに突っ込むヤンキー。
そして、土煙が上がる木造の囲いの奥側に、私は今にも殺しにきそうな鬼の形相をしているベアトリス先生を視界にとらえるのだった。
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