第262話 試験再開
今までの人生、教師なんてやったことがなかった。教官とかはあるが、それはノーカンである。
そして、入試に乱入してくる学院生も今ままで見たことがない。受験生たちは皆騒然としていて、少し悲鳴が響いた。
(アネット!?何やってんのよ!)
匿ってやるとは言ったが、暴れろなんて言った覚えはない。そして、ついでとばかりにアネットの相手をしているヤンキー。
ふざけるのも大概にしろと声を大にして言いたいが、まずは騒然としているこの場を収めるのが先だ。
「みなさん落ち着いてください!」
と言ったものの、私の声は所詮子供。大きな声はなかなか出せない。
あわあわしている私と、他の先生方のことなんて関係ないとでも言うように、ヤンキーの後に続いて他の生徒も入ってくる。
「ナナちゃん!?」
あんな真面目で優しい生徒までこんな乱闘に入ってくるなんて……。とか思っていたらこっちの方を向いてにが笑いで軽いお辞儀をしてくる。
(そうじゃないじゃん!あの二人を回収してってよ!)
その後に続いて、委員長とクラさんが入ってくる。
あの二人も大事に入学試験に乱入してくるようなタイプの人間じゃないと思っていたのだけど……。
「なんだかよくわからないけど……」
私は自分に身体強化を付与する。
音を置き去りにできるほどの速さで加速し、そして……。
「こんのバカどもがー!」
アネットの頭を思いっきり殴りつけ、そして回転をかけながらヤンキーに蹴りを加える。
大丈夫だ、生徒の扱い方は私に一任されているし、何よりこんな簡単に死んでしまったら英雄になんてなれやしないのだから。
凄まじい衝撃音が響いて、アネットは地面に叩きつけられヤンキーは吹き飛んでいった。
吹き飛んだ先にいるナナちゃんたちはクッションがわりに一緒に潰される。
「あんたたち何やってんの!」
一喝するが、ヤンキーには反省の色は見られない。むしろ……
「何邪魔してくれてんじゃコラ!」
という始末。全くどうして私の生徒は言うことを聞いてくれないのだろうか?
「それに、アネット?あなたまで何やってんの?」
「い、いや思わずつい……」
何があったのかわからないが、口ぶりからしてこいつが元凶に違いない。それに乗っかった他の生徒たちもそうだが、ここまで突っ込んでくるなよ!
私が理事長に怒られるのだぞ!
「反省が見えないわね」
ちょっと……いや、かなりむかついたので、私は魔法を行使する。
指をパチンと鳴らせば、私を中心として半径五メートルの範囲で、強烈な重力が五人を押し付ける。
かろうじて、アネットは片膝をついて耐えているが、残りの四人はすでに重力に屈し、地面にへばりついている。
「あなたたちは、そこでおとなしくしていなさい」
「……いつまで?」
「そうね、入学試験が終わるまでは」
軽く絶望する五人だったが、自業自得なのでなんとも言えない。
「さあ、試験を再開しましょう……か?」
後ろを振り返り、愛想笑いを浮かべながら受験生たちを見渡すと、全員が私から目を逸らし、私の列に並ぶ人は他の列に移っていってしまった。
「えー……」
重力魔法は流石にやりすぎだったのだろうか?でも、このぐらいしないとヤンキーは反省しないだろうし、全員平等に罰しないと贔屓だとか言われそうだし……。
教師とは意外と大変である。
「ベアトリス先生!これじゃ、長引いてしまいます!」
他の先生方が口々にそういう。確かに、受け持つ受験生の数が増えれば、それだけ試験が長引いてしまう。
となると、合格発表の午後まで間に合わなくなってしまう可能性があるではないか!
それじゃ困る……。
私の仕事が余計に増えるし、何より終わらなければクラブが開設できないじゃないか!
「うぅ……弱ったな〜」
と思い、チラリとアネットの方を向く。そういえば、アネットはそんじょそこらの学生なんかよりもよっぽど強いのではないか。
いや、単純に考えて学生では相手にならないはずの人物である。
アネットはああ見えてS級なので、一般人が戦おうものなら即死レベルで危険な相手だ。
となれば……
「アネット、あなたは減刑します。私の代わりに試験官になりなさい!」
重力を操作し、アネットの部分だけ、重力を弱める。
「動く……」
体が思うように動くようになり感動している様子を見せるアネット。
「分かった、迷惑をかけた代わりに私が試験官をやるよ」
「ありがとね」
別に感謝する必要はなかったが……。
となれば、再びアネットの列に受験生たちが舞い戻ってくる。
さっきの子供は強かったが、こっちはそれに瞬殺されてたから弱いはず……。
といった、学生諸君の甘い考えはすぐに打ち砕かれることとなった。
一人の受験生が前に出てきて、名乗りを上げたのち、剣で斬りかかる。
アネットはなかなか動こうとしないところを見て、「勝った」と思ったような表情をしていたが、アネットが彼の持つ木剣を人差し指を弾いて折ったことで、それも幻想となった。
受験生たちは再び絶望するのだった。
そして、仕事がなくなり楽になったと思ってどこかで高みの見物でもしとこうかなと思っていた時、
「なあ、ベアトリス」
「うわ!?あ、アレン?」
いきなり後ろから話しかけられて少し驚いたが、その声はどう考えてもアレンのものだった。少し、低くなったものの、まだまだ若い声をしている。
「俺は……その、ベアトリスに相手をして欲しいんだが……」
鼻をさすりながらチラッとこちらをみてくるアレン。
久しぶりの再会……それで気分が高揚していた私はそくOKを出した。
「いいわよ!手加減はしないけどね!」
「へっ!望むところだ!絶対勝つぜ!」
私よりも年上で、且つ、身長も高いアレンだったが、そう言い放った瞬間だけ、子供の時のように私の目には映ったのだった。
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