第175話 受ける
「どこから話しましょうか……」
「ひとまず、魔物急増の原因について教えて欲しいの」
精霊を目の前に、私たち四人は話を聞く。
半ば脅しのようだったが、こればっかりはしょうがない。
「まず結論から申し上げますね」
「……………」
「魔物急増の原因は悪魔です」
「あ、悪魔?」
その一言で私の体に緊張が走る。
それはトレイルにも見えていたようで、四人全員が気を引き締める。
「悪魔、あなたならわかりますよね」
「!」
「悪魔、私たち精霊をは相反する生命体。自然を愛する私たち精霊と、力を欲する悪魔。その悪魔がこの森にもやってきているのです」
「悪魔……なんでここに……?」
「お分かりでしょう?」
聞きたくなかった。
私の中で、答えは出ていたから。
「あなたのせいです」
精霊の目つきが変わった。
厳しい目つきは私を恨むかのようだった。
「ただ、あなたに怒っても仕方ありません。あなたの境遇は……なんとも悲惨ですので」
「精霊さん……」
表情は和らぎ、説明が始まる。
「悪魔たちがなんらかの方法によって召喚され、あなたを捜索しています。その捜索範囲がついにここまで広がったのです」
私は一ヶ月寝たきりだったらしい。
だったら、私を探す範囲が広がってもおかしくない。
あの悪魔……屋敷にいた少女は、私を殺したがっていた。
ここがどこなのかは知らないけど、怖い。
あの悪魔が私を探している。
それだけで怖いのだ。
「悪魔は魔物たちを放ちました。この森に魔物を放った悪魔を倒せば、魔物たちは散り散りになり、自然と死ぬでしょう」
「じゃあ、その悪魔を殺せばいいの?」
「そうなりますね」
「エルフたちじゃ対処できないわけだ……」
「精霊も、悪魔も……人の世では伝説の生物ですもの。その実力もまた伝説……御伽噺の域です」
つまり、この精霊もまた悪魔と同じくらい強いはずだ。
「自分から出向かないのは?」
「その理由ですか……。しょうがないですね。私は精霊の中でも下っ端。精霊の中には長老会というものが存在します。その臆病な上位精霊たちのせいで、下界に降りることは許可されていません」
「無理やり出たら……」
「上位精霊たちは、私たち下位の精霊に対して、絶対の命令権を有しています。すなわち、私がここから出ることは現実的にも不可能なのです」
とても残念そうにしている精霊。
だが、下位とは言っても人の形を保っていることから、精霊全体の枠組みで見れば上位のはずなんだが……。
それよりも上の長老会の連中とは一体……。
「そこで、私は考えたのです」
「何を?」
「ちょうどよく現れた一人の少女。その少女はとても強い。時期にあのメアリにも並ぶでしょう」
「メアリって、母様……!」
「少女を森に取り込めば、エルフたちも森の生物たちも安心して暮らせるんです」
「でも、それだったらいつか悪魔たちにバレるんじゃ?」
「私の計算では、悪魔共に気づかれた頃には、あなたの実力はそれを遥かに越しているはず。結果的に、あなたは悪魔を倒したのち家族探しの旅に出て、エルフは平穏を取り戻す。私は命令違反をせずに、森を守れる。全員が得するはずでした……」
表情は暗く、私はその意味を理解した。
自分で言うのもなんだが、精霊の予想よりかは私の頭は良かったようだ。
私がなぜ『私にお願いしたのか?』と言うことに気づいてしまったのが、精霊の予想外だったのだろう。
「私は、この森を守りたい。我々が愛した自然を守りたいのです。それにはあなたの力が必要なんです」
「……………」
「お願いします、ベアトリス様」
「!」
「我々に力を貸してくださいませ」
精霊が深々とお辞儀をする。
「私は……」
正直迷っていた。
ここで足止めを食らっている間に家族の身柄が危ないかもしれない。
それに、私がエルフたちを守る義理はない。
ただ……。
精霊は本気だった。
私に対して……ただの人間如きに頭を下げてお願いしている。
「ベアトリス……」
「ご主人様?」
二人が私の方を見る。
全ては私の判断か……。
「もう、そんな目で見ないでよ」
仲間にまでそんな顔させておいて、私のメンツが持たないよ……。
「しょうがないわね。その依頼、受けるわ」
「本当ですか?」
「女に二言はないのよ」
「ありがとうございます!あなたは……私はあなたを騙していたのに、なんてお優しい方なんでしょうか」
「ほ、褒めても何も出ないわよ」
ふと、トレイルの方を見る。
状況はわかっていなさそうなトレイル。
だが、エルフのために何かしようとしていることは伝わったようだ。
よくもわからず、嬉しそうな顔をしている。
「本当にありがとうございます」
「森が破壊されたりしたら、寝覚めが悪いしね」
「精霊、ご主人様は素直じゃないだけだから、気にしないでね」
「うふふ、わかっていますわ魔王様」
「ちょっと!」
あはは、という笑いが起き、そして、精霊が口を開く。
「ああ、すみません。忘れていました」
「ん?何が?」
「真実をお話しして、なのになんの手助けもなしにお願いするのは申し訳ない」
「手助け?」
「そう手助けです。私は直接的に森を守ることはできません。しかし、間接的に森を助けることはできます」
「え?」
そう言った途端、精霊が突然輝きを増した。
若干発光していた精霊が眩しくて直視できないレベルで光り始める。
「あなたに精霊の加護があらんことを……」
そう言われ、手をかざされ、私の体も発光し始めるのだった。
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