第174話 脅迫する

 一夜が明けた。

 昨日は何も進展がなく、トレイルと出会ったことくらいだ。


 トレイルと再び出会ってから一日が経過して、即興で作った家はほぼほぼ崩壊しつつあった。


 そこから外に出て、一行は昨日と同じことを繰り返す。

 まあ、とってもつまらない短調作業だよね。


 少し歩いて、笛を吹き、私が知恵の魔物がその中にいるか探す。

 何回もそれを繰り返していくうちに、


「これ、効率悪くない?」


「……………」


「ねえねえ」


「うるさい!私の部隊がいないんだから、当たり前じゃん!」


 効率の悪さは、流石にトレイルも理解していたらしく、逆ギレしてくる。

 だが、これ以上効率の良い方法があるかと聞かれても思い浮かばない……。


 いくら四人いるとは言っても、そのうち二人はすることない状態が続いている。


「しょうがない。一旦あの場所に行ってみたら?」


「あ、あの場所ってどこよ……?」


 私の提案にトレイルは疑問符を浮かべる。

 そうだった。


「トレイルは行ったことないのか」


「だからどこなの!」


「まあまあ、ついてきなさいな」


 私は一つの方法を思いつき、その場所にまで足を運ぶ。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「ってことで、精霊さん。ヒントでもくれない?」


「困りましたね……条件が不釣り合いになりますよ?」


 私たちがやってきたのは、旅に出て最初に寝泊まりしたこの洞窟。

 その奥にある、精霊の住処だ。


「せせせせ、精霊!?」


「あなたはハイエルフですね?森の均衡を保っていただいてありがとうございます」


「と、とんでもないです!」


 私はマッピングの魔法で一度行った場所は記録できるので、道に迷うことはない。


 ただし、かなり距離があったので、転移で移動した。

 反則級なこの技ができるのは、四人の中ではユーリと私なので、ユーリがレオ君と手と繋ぎ、私はトレイルの体に触れて全員で移動した。


 流石に魔力消費がどうのこうのと言っていたら、かなり時間がかかりそうだったので、これくらいはしょうがない。


「それで精霊さん。教えてもらえない?」


「なれなれしいぞ、人間!」


 一人ブチ切れているが、気にしない。


「そうですね。私が依頼を出したのは確かですが、それだと条件が合いませんよ?」


「はい、それはわかっています」


 私たちが精霊と交わした条件に、『魔物急増の原因に関するヒントを与える』という内容はない。


 こればっかりは真実。

 だが、これでも私は一人の貴族だった者。


 少しは交渉もできるところを見せてやろう。


「ところで精霊さん」


「はい、なんでしょうか?」


「なんで自ら出向いて解決しないんですか?」


「……そうですね、少々この場から動けない事情がありまして……」


「その理由はなんですか?」


「そ、それは……」


 貴族は商人ともやり取りすることがある。

 例え、私が女であろうと、貴族たる者、交渉術を学んでおくものだ。


 私はそれを二回繰り返した。

 一回目は前世で、今世で二回目。


「その理由を話してくれませんか?」


「なぜ、あなたに話す必要があるのですか?これは私たち精霊の話。あなたが首を突っ込む必要はありません」


「そうですか。じゃあ、私たちがあなたたちの森の危機に首を突っ込む必要はないですね」


「な!そんなわけがないでしょう?私が、あなたのご家族の居場所を教えて差し上げるのですよ?」


「確かに私たちが勝手に聞いてきただけの話ですね。それこそ一番の謎だという自覚はないのですか?」


「え?」


 なぜ、精霊は私の家族の居場所を知っている?

 どこで知った?


 なぜ、こうも魔物の急増の原因のヒントを与えることを渋る?

 己が抱える問題が解決するのを早めることに近づくはずなのに。


 怪しい。


 ただの希望的観測で聞いただけの内容、それを瞬時に理解し条件を提示してきた。


 まるで、聞かれることをわかっていたかのように。


「——などなどの理由ですね」


「ですが、あなたにとって有益なのは間違いないでしょう?」


「私は、家族を探しに行きたい。こんなところで足止めを食っているわけにもいかないのです。それに、ヒントがなくてもすぐに家族が見つかるかもしれない」


「そんなのわからないじゃないですか?」


「家族を探すのは時間がかかる。だけど、いつかは見つかるでしょう。私がこの森を離れた場合、あなたが抱えている問題は果たして解決しますか?」


「!?」


「解決しませんよね。わざわざハイエルフたちに説明もろくにしていないところを考えると、これは私たちレベルの実力がないと不可能な案件なんですよね」


 自慢じゃないが、この三人はかなりの腕利きだ。

 かたや、私たちにも引け劣らない獣人……かたや、本物の魔王。


 この三人で世界を征服できるのでは?というレベルである。


 ちらりと、トレイルの方を見る。

 私と精霊の口論の内容を理解しようと必死に頭を回していた。


 しかし、この精霊はなぜ話していない?

 直接ハイエルフたちにこの問題の解決方法を教えて任せればいいのに。


 いくらエルフたちじゃ解決できない案件だったとしても、普通は教えるだろう?


 その疑問を精霊にぶつける。


「わかりますか、精霊さん。今、条件が悪いのは私たちの方なんです。教えてくれるのは居場所だけ。それだけで、この森の危機を救えと?馬鹿にしないでください」


「……………」


 家族を探すなら、世界各地を回って、探知魔法を使い、いなかったら即転移。

 それを繰り返していけば、いつかは確実に探知に引っかかる。


 もし、家族たちが既に一か所に集まりつつあるのであれば、尚更だ。


 ただ、この森の中にもいるかもしれない。

 私の家族が。


 それを言ってしまえば、私が不利になるのは目に見えているのでここでは言わない。

 せいぜい、この精霊が気付かないことを祈っている。


 それが理由で、転移を使ってこんな森さっさとでないわけだけど……。

 魔力感知……探知魔法を展開している理由の半分はそれである。


「では、これ以上の時間をかけたくないので、森を出ますね」


 そう言って脅しをかければ、あら不思議。


「待ってください!わかりました。解決法を話します!」


「それを待っていましたよ」


 この台詞を待っていた!


「あ、ちなみに、今のセリフは私の魔法で録音済みですから。後から言い訳しないでくださいね?」


「!」


 どんな引き止めたい理由があるのかは知らないが、後から『そんなこと言ったっけ?』となると面倒だ。


 後ろの方から、『鬼畜だ……』『ベアトリス……恐ろしい子』『なんて非道なんだ……精霊相手に脅迫だなんて……』という言葉が聞こえるが、私は褒め言葉として受け取るのだった。

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