第173話 調査の仕方

 トレイルが懐から取り出したのは、笛だった。

 それを手に持ち、あたりを確認してから……。


「ピッー!」


 と、音を鳴らす。

 そして、


「構えて!」


「え……?」


 訳もわからず、私たちは戦闘態勢に入る。

 笛を鳴らし、トレイルは何やら緊張した様子で、あたりを見渡す。


 そして、すぐに異変がやってくる。


「ベアトリス……」


「気付いてるわ」


 レオ君の問いの意味はすぐにわかった。

 そして、それらはすぐに現れた。


「来たわ!魔物よ!」


 トレイルも一応、扇子を広げる。

 それは、果たして武器なのかどうかはさておいて……。


 現れた魔物は種類様々。

 獣系もあれば、人系の魔物も。


 合計で言えば、数十匹。


 だが、私にかかれば……


『平伏しなさい』


 その一言で、すべての魔物が襲い掛かるのをやめる。

 それに困惑するのは、トレイルだけ。


 そして、魔物たちは私の周りに集まり、平伏した。


「な!?人間は、魔物も従えるのか!?」


 トレイルが驚愕する。

 私の周りに平伏している魔物たちを、マジマジと眺め、「まじかよ、こいつ……」という、若干引いている表情を私に向ける。


「トレイルさん……。これは、ベアトリスだけだから安心して」


「この人間だけ……だと?」


「ご主人様……とっても強いからね!」


 私の知らないところで、何やら盛り上がっている。

 どうやらエルフという種族は、人間を嫌ってはいるものの、獣人には嫌悪感などを抱いていないようだ。


「ちょっと!男子!仕事しなさいよ!」


「やることないじゃ〜ん」


「ユーリは私より強いでしょ!」


 私のその爆弾発言で、さらにトレイルが顔を青ざめさせている。


「それにしても、この魔物たちはなぜ人間に平伏しているのだ?」


「まあ、それはこの際置いておきましょうよ」


「それもそうですね」


 そう微笑まじりに会話するレオ君とトレイル。

 なぜか一番レオ君とトレイルの仲が良くなっているのは一体……。


「ベアトリスが、なんとかしてくれると思うから」


「そうなのか……」


「納得しないのそこ!」


 とても爽やかな笑顔でそう告げるレオ君と納得するトレイルにムカつきつつ、私の考えを話す。


「……こんなかに知恵のある魔物がいたら、そいつに原因を話させれば、わかるかもしれないわ」


「さっすがご主人様!やっていることが残虐だぁ!」


「失礼ね……」


 そして、知恵のありそうな魔物を探す。


「う〜ん、いないわね」


「なんで、一気にこんなに魔物がやってきたのかな?」


 魔物がいきなり集まり出したのも謎だ。

 統率を取れそう生物がいないのも不自然……。


「あ、それは私のせいだ」


「トレイルの?」


「あんまり馴れ馴れしく呼ばないで。……私が“魔物呼びの笛“を鳴らしたから、周辺にいた魔物が全て集まったってこと」


「トレイルのせいだったのか……」


 魔物呼びの笛というとんでもない笛を持っていたとは……。


「とりあえず、この中に知恵がある奴はいなさそう」


「だね」


「じゃあ、どうするの?」


 二人に言われているのは、この魔物をどうするのかという話である。

 わざわざスキルを使ってまで捕獲した訳だが、もはや利用価値は無くなった。


「殺せばいい」


 トレイルがそんなことを言い出す。


「殺せば、食糧にもなるし、邪魔にもならない。放っておくと増える一方だし、ここで始末するべきだ」


「まあ、正論ね」


「申し訳ないけど、魔物たちには異納庫にしまっておこう」


 私は手をかざして、目の前に平伏している魔物たちを吸収する。

 私が開いた闇の空間の中に吸い込まれて、その場から消え伏せる。


 あたりに数十匹いた魔物は一匹も残らず消え去った。


「また不思議な魔法を……」


 トレイルが私の手に展開している異納庫を凝視している。

 その表情は不思議そうであり、警戒してもいて、どこか羨ましそうだった。


「とにかく、いろんなところでこれを繰り返したら、そのうち知恵のある魔物と出会う確率は高い。先にいくぞ」


「あ!ちょっと待って!」


 先に進んでいくトレイルを追いかけて、同じことを一日中繰り返すのだった。

 だが、知恵ある魔物が見つかることはなかった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「ねえ、トレイル。一日中街に帰らなくていいの?」


「何も成果なしに帰るわけにはいかない。必ず成果を出さなくちゃ」


「そう……」


 時刻は着々と進んでいき、時刻は夕方を過ぎ、夜になった。

 私たちはテントを張り、森の一角で寝ることにした。


 テントと言っても、うまい具合に木を切り取って即興で家を作ったのだ。

 もちろんボロボロで、住むなら一日が限界だ。


 そこの近くに焚き火を焚いて、私とトレイルが座る。


「なんで……」


「ん?」


「なんで人間が、この森に来たの……」


「なんでと言われても……」


 転移して、いつの間にかここにいただけ。

 あの時、どうしてレオ君が転移を使えたのか、悪魔がなぜ現れたのか……ここは一体どこなのか。


 何もわからない。


 ユーリの言っている知り合いというのは旅人なのだろうか?

 エルフの知り合いがいて、その出身地と思われる街を見てもここがどこかわかっていなさそうだった。


「私たちエルフを……蹂躙しにきたの?」


「そんな訳ないじゃない」


「じゃあなんで、またこの森にきたのよ!」


 突然、怒りに満ちた表情で私の方を指差してくる。

 ただ、私はそれになんと答えていいのかわからない。


(エルフたちに過去、何かあったの?)


 私にはわからなかった。


「先に……寝る」


 そう言って、トレイルは即興で作った家に戻っていくのだった。

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