第169話 お願いしたら何とかなる

「何かいるって……誰もいないわよ?」


 灯で照らしても、奥には誰一人としていないようにしか見えない。

 それは、レオ君も同じに感じているようで、首を傾げている。


「あ!ユーリ、ちょっと待って!」


 少しずつ前に進んでいくユーリ。

 私とレオ君もそれを後ろから見守る。


 きっと、私たちには分からない何かがあるのだろう。

 根拠はないが、ユーリが言っているのだから多分そうだ。


 そして、ユーリが一番奥まで到着する。

 私たちは、洞窟の真ん中辺りに立って、その様子を見る。


 ユーリはなにやら、壁をいじくっている。

 上から、下へ……何かを探すように。


「あった!」


 それを見つけたユーリは、そこに向かって魔力を流し始める。

 そして、その魔力は壁に流れ始めたと思ったら、一気に光だした。


「!」


 壁に様々な紋様が浮かび上がる。

 それらが青く発光していて、浮かび上がった文字を際立たせる。


「これ、何語?」


 私にはその文字が読めなかった。

 至る所に広がって、つながっている文字。


 しかし、それは私の知らない文字だった。


「これは、古代文字だよ」


「古代?」


 ユーリが教えてくれる。

 古代文字というのが何かはわからないが、私が気にする必要はない。


 なぜなら、ユーリという私よりも長生きしている友達がいるのだ。

 私が知らなくても、ユーリが知っている。


 協力していくだけなのだ。


「ここに……あと一つか」


 何かを探りあて、


「ご主人様!こっちに来て!」


「え、私?」


 よくわからないが、私もその壁に近づく。

 近づくにつれ、眩しく輝きが強くなっているように感じた。


「そっちの反対側……そう、そこに魔力を流して」


「ここ?」


 よく見ると、ユーリが魔力を流したところは、壁の左側、そこに小さな円ができていた。


(反対側も同じようにやれってことね)


 そう思った私は魔力を流し始める。


 すると、再び、壁が発光したかと思うと、私の手の周りに文字が浮かび始めた。


 それは、壁全体にまで行き渡り、やがて、


「開いたよ」


「え?これ、開くの!?」


 壁が真ん中から割れ、扉のように開いた。


「ユーリ、この先に何かあるの?」


「僕の感覚が間違ってなければだけど」


 先に進んでいくユーリを私たちも追いかける。


 そしての、その中に入った瞬間、


「なにここ?」


「綺麗だね」


 同じ森の姿があった。

 しかし、それはただの木々ではなかった。


「これは、精霊樹だよ」


「精霊樹?」


「精霊から加護を受けた木……もしくは……」


 そして、言葉の続きを聞く前にそれは現れた。


「珍しいお客さんね」


 光っている木々の明かりを吸収して、それが現れた。

 光の粒が人の形を型取り、やがてそれは、


「精霊?」


「ええ、人は私たちをそう呼ぶわ」


 精霊の形を取った、それは緑色の髪をしていて、服装もどこか神聖だ。


「やあ、君は新顔かな?」


「ちょっと、ユーリ!」


 いきなりのユーリのセリフに驚いていると、


「うふふ、これはこれは魔王様。お元気そうですね」


 精霊が優しく微笑む。


「え、知り合いなの?」


「魔王様と私に、直接的な関わりはございません。しかし、こちらの魔王様は、長年我々と友好的な関係を築かれてきた方なんです」


「ほへー……」


 感心しつつも、このユーリが?という思考がどうしても回ってきてしまう。


「それで、魔王様。こちらの方々は?」


 私たち二人の方を見てくる精霊。

 その表情は興味本位に満ちていた。


「うん、こっちはレオっていうんだ。僕の友達だよ!」


「……………」


 改めて、目の前で『友達』と言われると、恥ずかしいようでレオ君は黙りこくっている。


「そしてこっちは、ベアトリスって言って、僕のご主人様なんだ!」


「ご主人……?」


 初めて精霊の顔に疑問符が浮かんだ。

 だが、


「ふむ、そうですか」


 それだけいって、にこやかな表情に戻った。


「お三方はなにしにこちらへ?」


「この先には入れないの?」


 どうやら、この空間にはまだまだ先があるらしい。


「すみません、長老会の方々が、拒否されてしまい、新米の私がここに出向かせてもらったのです」


「そう……ならいいや!それで、聞きたいことがあるんだけど……」


 ユーリが私と顔を合わせる。

 それを見て、私はうなずく。


「僕たちの仲間とか、家族がみんなバラバラに散っちゃったんだ」


「ふむ」


「それで、どうにか居場所を教えてもらえないかな?」



 私は精霊について無知だが、できるかもしれない。

 精霊は伝説の生き物だしね。


 誰かの英雄譚に、力を授けたり、魔を滅ぼしたりしていたのを覚えている。


「お願いします!」


「……構いませんよ」


「ほんと!?」


 思わず私が叫んでしまった。


「ただ……条件があります」


「条件?」


 そして、精霊が難しい顔をする。


「最近、エルフの森近辺に発生する魔物の数が急増しています」


「エルフの森……」


 さっきのエルフたちか。

 私たち的にはあんまり好印象じゃないけど……。


「その原因を突き止めて、魔物の急増を食い止めて欲しいのです」


「なるほど……」


 交換条件……だが、その内容は悪いものじゃない。

 私はもう決めていた。


「わかりました」


「そういうだろうと思ったよ……」


「やっぱりご主人様だね!」


 一方は呆れたように、もう一方は元気一杯に私と同じく同意の意思を見せた。


「では、それを突き止めてください。そしたら、あなたたちの欲しい情報を与えてあげましょう」


「あ、ちょっと待ってください!」


「……はい?」


 私は今にも消えそうな精霊を引き留めて、もう一つの小さなお願いをする。


「ここで寝てもいいですか?」


 と……。

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