第168話 追い返される
「あーあ、せっかく見つけた街だったのに……」
「ごめんなさいご主人様……エルフたちが人族嫌ってるとは思わなくて……」
森の中へ帰るが否や、ユーリはそう謝罪する。
「いいのよ。別にあそこにとどまるつもりはなかったから」
結局、あのエルフの街からは追い出された。
いや、足止めをくらって中にすら入れなかったわけだけど……。
ちょうどよく、エルフの中でも偉そうな人が出てきて、囲んでいた衛兵たちが横に並んで跪いたものだから、チャンスと思って出てきてしまった。
いきなり槍を向けられて少し不機嫌な態度になってしまったからかもしれないけど、そこは許容して欲しいものだ。
それに、あの街に入らなければならない理由があるわけでもない。
元々、この度の目的は家族と仲間を探すためのものだ。
公爵家……公爵領を焼き払ったあの悪魔の少女。
あいつのせいで、今は居場所が分からなくなった私の大切な人を集めるための旅。
しかも、あいつはヘレナの皮を被って……。
思わず、握る拳が強くなる。
「ご主人様?」
「!いや、なんでもないわ」
なんで私は怒ってるんだろう?
ヘレナは……私を騙してたのよ?
なのに、
『よく、頑張ってわね』
なんでだ?
なんであんなことを言ったんだ?
私は……私はヘレナを殺そうとして、実際に殺したんだぞ?
家族を十年間も裏切り続けていたのに……最後の言葉は、まるで……!
頭を振って考えつきそうになったことを忘れる。
今はそんなことを考えている場合じゃなかった。
「今日は野宿になるのかなー」
「そういうことになるね」
「レオ君は別にいいでしょ?だって、ずっと森で暮らしてたんだから」
「まあ、そうなんだけど……」
レオ君は森暮らしだったので、野営とかそういうのに慣れている。
だから、いざとなったらレオ君に基本をレクチャーして貰えばいいだろう。
「いや、ベアトリスが嫌じゃないかなって思って……」
「私?」
「僕とか、ユーリはそういう環境に慣れているかもしれない。けど、ベアトリスはお貴族様だったわけだし……」
ユーリは魔王。
そして、呪いをかけられたそうだ。
そのかけられた呪いの正体こそ、『魔力封じの呪い』。
これは、魔力が生命の源といえる『魔族』にとって天敵の呪いだった。
だが、そこは魔王様。
最低限の魔力だけ体内に貯めることができたそうだ。
だから、弱った肉体……キツネの姿になって、森の中を彷徨っていた。
弱体化して、キツネになって、そこで森の中を彷徨い続けること、数十年。
私に見つかり、拾われたというわけらしい。
そのまま、私が飼い始めて色々あって今に至る。
つまり、ユーリも野生を経験済みというわけ。
「私のことは気にしなくていいよ」
この中では、私が一番足手まといかもしれない。
野営をすることもままならず、たいして強くもないし、二人から心配されてばかり。
だから、わがままを言うつもりはない。
「でも……」
「いいの!……ひとまず、もう少し先に進んでみましょ?」
私たちはとある魔物の足跡を辿って、エルフの街までやってきた。
追い返されてしまったが、魔物の足跡はまだ続いている。
もしかしたら、この先には人間の街があったり!
淡い希望かもしれないが、行ってみるしかないのだ。
♦︎♢♦︎♢♦︎
森の中を進んでいく。
しかし、一向に足跡が途絶えることはない。
「ねえ、これ引き返したほうがいいのかな?」
「「……………」」
どこへ行こうと、私たちの勝手。
だが、もし、この先に私たちが求めているものがあるのだとしたらと考えると引き返す気もなくなってくる。
無言のまま、進んでいくこと十分ほど。
時計がないから正確な時刻が分からないが、おそらく夕方の五時前後。
「そろそろ野営の準備をしないと……」
「ご主人様ぁ〜お腹すいたぁ〜」
「うーん、ここらへんで今日は野宿かな?」
私はそう思い、荷物を下ろそうとする。
その時、
「あ、向こうを見て!」
レオ君が何かを叫んで、私も指差された方向を見る。
「洞窟?」
「足跡、あの中に入ってるよ?」
私たちが追っていた巨大な足跡は、その洞窟の中に入っていき、暗がりにまで進んでいる。
「行ってみる?」
「でも、危ないんじゃ?」
「大丈夫じゃない?ほら、うちのパーティ……魔王様いるもん」
「『我』の出番!」
目に見えて、嬉しそうにしているユーリ。
魔王としては失格だが、頼りになるのは確かだ。
「じゃあ、洞窟まで行ってみようか。なにもなかったらあそこで野宿ってことで」
私たちは、荷物が入ったポーチを肩にかけ、再び進む。
ちなみに、私は『異納庫』と言う超絶便利な魔法を持っているので、ここに食料や必要なものを入れている。
だからこそ、全員ポーチ一つでいるわけだが……。
洞窟はすぐ側なので、すんなりと入口部分までやってくることができた。
ユーリが魔法を展開し、中を照らす。
中は普通の穴。
なにもなく、すぐに行き止まりが見えた。
私は安心する反面少しがっかりした。
ここに何か面白いものがあるかも!と思っていた、期待感がデカすぎたのかもしれない。
「じゃあ、ここで野宿——」
そう言おうとした時、
「ご主人様、この先に何かいるよ」
ユーリが警戒したような声を出した。
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