第167話 街に入る

 私はそのエルフの街まで向かっていく。

 後から、レオ君とユーリがついてくる。


 一応、二人はフードを取って、顔を出しておく。

 全員顔を隠していたらさすがに怪しい。


 だから、一番バレそうな私はフードを取らず、二人にとってもらった。

 二人とも獣人の見た目してるから、運が良かったら私も獣人だと思ってもらえるかもしれない。


 そうなれば、楽なんだけどなー。

 魔法での変身はダメらしい。


 ユーリが言うには、エルフという種族はどんな他種族よりも魔力感知能力が高いそうだ。


 森の中で私が変身魔法をかけてから、向かえば確実に怪しまれる。

 かといって、きた道を戻って魔法をかけ、再度ここにやってくるのは少々面倒くさい。


 それに獣人って思われる必要はないのだ。

 あくまで友好的に接しよう。


 私は堂々と、エルフの街に近づいた。

 近くに連れ、幻想的な明かりが私たちを照らしてくる。


「これ、精霊の鱗粉っていうんです」


「なにそれ?」


「この街を守護する精霊が、エルフに与えた加護のことですよ」


 エルフの知り合いがいるというユーリに説明を受ける。

 精霊の加護か……。


 なかなかに珍しいはずなんだけど、もう驚けない……。

 目の前に魔王様いらっしゃるし……今更感が半端ないんだよねー……。


 そうしているうちに町の入り口部分まで到着し、


「そこの者!止まれ!」


 衛兵らしき人物に呼び止められる。


「顔を出せ」


「顔……ですか?」


「そうだ、そしてそこの獣人。ここはエルフの国。他種族の立ち入りは禁じている」


「うぇー!?僕たちは入れないの!?」


「当たり前だ」


 衛兵の話を聞く限り、この国はエルフ以外立ち入り禁止なのか?

 じゃあ、私が顔を出す意味もないか……。


「あの、そこをなんとかなりませんか?」


「ならぬ!エルフの国を汚されるわけにはいかないのでな」


「そ、そうですか……」


 これは……無理そうか?

 獣人コンビが入れないなら、私が一人で入っても意味がない。


 というか、逆に二人と別れてしまうと、戦力分散的な意味で危ない。

 ここは一旦、他の道を探した方が良さそうだ。


「すみません、二人が入れないのでしたら、私も失礼します……」


 私が身を翻して帰ろうとした時だった。


「待て!顔を見せたからにしろ!」


「え?でも、入らないですけど……」


「人種族だった場合は、この場で殺さねばならないのだ」


 !?


 待って?

 今すんごい爆弾発言が聞こえたんだけど!?


「あの、失礼しま——」


 私がすぐにこの場をさろうとすると、突如として腕が掴まれた。

 捕まったらまずいと思ったのが裏目に出て、勢いでフードが取れてしまった。


「あ……」


「貴様!人種族か!」


 いきなり手にしていた槍をこちらに向ける。


「え!?ちょっとちょっと、待ってください!私、悪いことしてません!」


「そんな言葉に騙されるか、この悪魔め!今ここで串刺しにしてくれる!」


 物凄い物騒な単語を大声でするものだから、どんどん野次馬や衛兵の増援が集まり始める。


 そして、私の姿を見た途端、野次馬たちは血の気が引き、衛兵たちは殺気だった。


(そんなに人族嫌われているの?)


 早く逃げた方が良さそう。


「逃げるな、人種族が!」


 槍の突きが放たれる。

 しかし、それは遅くてゆっくりだった。


 いや、最後に戦ったあの戦闘……本物の悪魔と戦った時と比べてしまうからそう感じるだけか。


 人種族と比べたら十分に早い一撃だった。


 だが、


『動くな』


「!?」


 私の言葉は空気をどよめかせ、槍を突き出した衛兵の動きを止めた。


「な、なにが……起きてるんだ?」


「すみません、いきなりやられたもので……つい」


「貴様の仕業か!早くこの呪いを解け!」


 呪いじゃないんです……私の話術師のスキルなんです……。


 私の持つ話術師という職業は不遇。


 だが、それは一般人、市民に限った話だった。

 詳しく説明するならば、こうだ。


 平民は基本的に魔力が使えない。

 その平民が話術師になることで、最大の恩恵であるスキルの『話術』が使えなくなるのだ。


 この『話術』というスキルは魔力を必要とする珍しいスキルで、その分強制力が強いものなのだ。


 つまり、魔力を使えない市民が話術師になることで、それは『喋ることができるだけ』の職業……通称、不遇職と呼ばれるようになる。


 私は貴族で、魔力の扱いにも慣れている……なんなら人並み以上にはもともと持っていたのだ。


 そんな私だからこそ、うまく扱えたのかもしれない。

 ちなみにだが、貴族の中で話術師を探しても、おそらく私しかいないだろう。


 なぜなら、貴族は普通の場合、子供の頃から様々な技術を叩き込まれる。

 剣だったり、魔法だったり、裁縫だったり……そういう、子供の頃学んだ技術が職業となるのだ。


 私の場合、前世ではなにを学ぶこともせずに甘やかされ、周囲のご機嫌とりというか……なんというか。


 そういうことだけをしてきたので、『話術師』になったのも納得である。

 もちろん、媚びへつらうことを教える教師や親がいるわけでもないので、『話術師』に貴族がなる可能性はほとんどないのだ。


 つまり、ある意味で私はレアなのだ!


「囲め!その人種族を囲んで殺せ!」


「あ……」


 職業について考えていたら、いつの間にか周囲を囲まれていた。

 その全員が衛兵の男で、それなりに鍛えられている。


「ご主人様」


「どうしたの?」


「こいつら、全員殺しますか?」


 ぶはっ!


「な!貴様!やはり人種族は悪魔だ!」


「ちょっと、ユーリ!余計に勘違いされるからやめてよ!」


「でも、ご主人様を邪魔するなら、僕が個人的に殺しますけど……」


「そういう話じゃなーい!」


 いつの間にこんなにも狂っていたのか……。

 勇者が言っていたぞ……『狂っている人のことはサイコパス』ということを私は知っている。


 よって、ユーリはサイコパスだ!


「ご主人様、今何か変なこと考えてました?」


「……さて、どうしたのものかね」


「無視しないでください!」


 とりあえず、この状況は普通にまずい。

 なにがまずいかって、ここで殴ったり対抗手段に出て仕舞えば、絶対に入れてもらえないからだ。


 それなしにしても、私は……というか、人種族は相当に嫌われているようなので、早々に退散したい。


 だけど、囲まれたら、逃げられないんだよなー。

 殴ったら絶対に追撃してきそうだし……。


 その時のことだった。


「なにをしているのです!」


 そんな透き通る声が、衛兵たちの奥から聞こえてくるのだった。

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