第166話 旅に出る

 荷物の最終チェックを私は行う。

 荷物といっても、最小限の食料に、最小限の武器、それに薬草で作った傷薬だ。


 作り方はレオ君が知っていた。

 どこまでも女子力が高い……というか、女子力の範疇超えてるよね?


 ここに転移し、私が目覚めてから一週間がほどが経過した。

 二人の身の回りの世話をするにつれ、徐々に私の体調も戻ってきた。


 極度の魔力欠乏は治りが遅くて困る。

 だが、それも完治し、二人から過保護を受ける必要もなくなった。


 そんな二人も、軽いポーチと魔物の毛皮を剥いで作ったローブを着ている。

 身分を証明できるものを何も持っていない私たち。


 それなのに、ローブを着ていたらさらに怪しまれるだろうが、これは必要経費だ。


 あの少女……名前は知らないが、かなり狂ってる。

 もし、あいつの部下とかに見つかった芋づる式で私たち全員の居場所がばれかねない。


 というわけで、ローブとフードは必須なのだ。

 こればっかりはしょうがないが、レオ君とユーリにそのローブを着せてみると、案外似合っていた。


 ローブの素材が魔物の毛皮だったので、相性が良かったのかもしれない。


 茶色のふわふわな毛はジャイアントベアーという少しでかい熊からとった。

 ただ、一つ失敗したのは、二人の耳の分のスペースを取っていなかったことだろうか?


 私用に作ったものなので、獣人の耳のスペースは作っておらず、二人とも窮屈そうだった。


 ユーリに関しては逆にローブがデカすぎで地面ギリギリだ。


 だが、ひとまずは準備完了。


「ようし!出発よ!」


「元気だな〜」


「元気ですね〜」


「な、何よ!早く行くわよ!」


 呆れたような顔がこちらに向く。

「なんだか、この状況を楽しんでいるような……」という後ろから聞こえる声は無視して、私たちは森の中へと入って行くのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 生茂る森は視界を遮り、方向が狂わされる。


「ねえ、ベアトリス?」


「どうしたの?」


 レオ君が後ろから話しかける。

 今はフードをとっているので、はっきりとその顔が見えた。


「これ、どこに向かってるの?」


「さあ?」


「だとは思ってたよ……」


「目処なんて立てられるわけないじゃん。こればっかりは運次第だよ」


「そうなんだけどさー」


 ここの先に街があるかどうかは完全に運。

 なぜなら、ここは深い森の中だから。


 こんなところにいてはいつまで経っても街にたどり着くことはできない。

 だから、どの方向だったとしても早く森を抜ける必要があり、せめて獣道でも見つけられたら、早いのだが……。


「見つける以前に……見て、この足跡」


 雑草が生い茂っている森の中には、自然生物が多数生息している。

 その中には魔物も含まれるわけで……。


「巨大な足跡だね。ジャイアントベアー……よりも大きい?」


 ちなみにジャイアントベアーというのは五メートルくらいの熊。

 それよりでかいとなると、いよいよここは魔界なのかも?


「ふっふっふ!我がいるから安心するがいい!ご主人様……とついでにレオは我が守るのだー!」


 いっていることはものすごくかっこいいが、私よりも小さく少女の見た目をしているユーリ(男)が言うとなんか信用できないんだよなー……可愛いけど。


 でも、この中ではユーリが一番強いんだよね。

 先代魔王だし……。


 魔王ってこんなポンポンいるものなのか?

 私ってば、魔王を飼っていたのか?


 すごくない?

 ユーリより、ユーリの『ご主人様』の私の方がすごくない?


 まあ、ここにいるのは異色の面子だけだけどね。


 前世の記憶がある私、生まれてからずっと野生児として暮らしていたレオ君に、先代魔王様のユーリ。


 キャラが濃すぎる。


「でも、魔物が近くにいるってことは、近くに何かありそうだよね」


「もしかしたら、人間もいるかもね」


「ご主人様、どうする?」


「もちろん行くわ」


 どっち側が森の奥かわからない。

 だが、ここで立ち止まるわけにもいかない。


 地図化……マッピングという魔法もあるので、一度来た場所なら私の魔法で記録できるのが幸いだ。


「こっち行ってみよう」


 魔物の足跡が続いている方向へと向かう。


 そこに進んでいくにつれて、だんだん薄暗くなっていく。


「やっぱり反対だったのかな?」


 さっきの場所から歩いて数分。

 大した距離ではない。


 今思えば、餌にありついた魔物がすみかにそれを持って帰るところだったのかもしれない。


「これは……失敗かなー?」


「うーん……」


 レオ君が鼻をクンクンと鳴らす。

 匂いを嗅ぐために背伸びしているのに癒されつつ、私は言葉の続きを待つ。


「匂いが増えてる。この先にはもしかしたら人もいるかも」


 獣の匂いと、人の匂いも判別ができるであろうレオ君が行っているのだ。


「もう少し、行ってみようかな……」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 再び、歩き出した私たちが目にしたのは巨大な樹だった。


 魔物の足跡を辿って約三十分ほど。

 その場所はそこにあった。


 森が若干開け、私たちはその場所の数メートル手前にいる。


 巨大な樹が何本も連なっていて、そこには小さな家々が建て付けられている。

 そして、申し訳程度の木の柵が周りに敷かれていた。


 だが、しっかりと豪が作られており、昔ながらの方法を使用していることが窺える。


 こんなところにある、村?だから、今の社会と隔絶していても不思議ではない。


「あ!人だ!」


 そこで、私のまあまあ良い目で、人の姿を見つける。


「あれ?でも、なんかおかしい……」


「どうしたの?」


「レオ君、なんか匂いする?」


「匂い?特に変わったのは……」


 あの人たちの匂いに違和感を覚えないなら、人種族なのか?


「ん?ご主人様ー」


「なに?」


「あれ、エルフだよー?」


「エルフ?」


「うん、耳の先がとんがってるのが特徴。長寿の種族で、魔力がうまく使えるの」


 長寿の種族、だからこんな古代的な柵とかがあるのか?


「長寿ってどのくらい?」


「むむ……僕の知り合いだと、七百歳くらいの人がいたよ?」


「ブフッ!」


 思わず吹いてしまった。

 え?


 七百年ですか?

 私の前世合わせても、人生の大先輩じゃないですかやだー!


「ひとまず、話しかけてみようよ」


「わかってるわ。まずここがどこか聞きましょ」


 そうして、私たちは目の前のエルフの街に向かうのだった。

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