第150話 知識
嫌な予感が頭の中をかけめぐる。
その時の私は今世紀で一番頭が冴えていたことだろう。
アレンがシル様のような王族の力を持っているのだとしたら、もしかしなくても、血縁関係なのでは?
もし、そうだったら、なぜ耳とかしっぽとかがついていないのだ?
でも、可能性はなきにしもあらずだよね。
魔族と獣人族のハーフは少し珍しいけど、いないわけではない。
そのことから考えるに、人族と獣人族の……しかも王族の……ハーフがアレンということになるのでは?
食材屋のおばさんは、「妹の子でね〜」とアレンを紹介した。
父親側が獣人?
そういえば、アレンのお父さんって見たことないのだが?
更にいえば、身体能力、学習能力が高く、ドワーフさんに私の武器を作ってもらったときには、私が走ってもちゃんとついてこれてた。
並大抵の努力はしてないんだろうな、とか思ってたけど……もしかしなくても?
…………………………。
気にしないでおこう。
結局、アレンが私の友達であることに変わりはないのだから。
それよりも今は、
「いた」
見たことがあるシルエットが見えた。
それは私よりも少し身長が高く、高貴そうな服を身につけている。
「ルイスさん!」
「え?あ、あぁー!」
私は文句を言ってやろうとその人物に声をかけた。
変に誇張した私の噂を流した本人様、ルイスである。
「ベア、さん。さっきぶりです。奇遇、で、ですね」
「はいそうですね。それよりも!です!」
廊下で、こんなに人を壁際に追いやったのは初めてだった。
そこで、ルイスさんに指を指し、
「私……俺の噂!流したのってルイスさんですよね!」
「え?あ……」
そうだっけー?
みたいな顔しているルイスさん。
イケメンは惚けてもかっこいいからずるいのだ。
まあ、私は女だけどね。
「噂というと?」
「あれですよ!颯爽と駆け抜けてどうのこうのってやつです!」
「あ……その……スミマセン」
ついに罪を認めてしょんぼりした顔になる。
こいつは子犬か?
言い訳がましく「だって、かっこよくて……」と言っている。
やめろ!
ナチュラルに褒めるな!
こいつはあれだ。
獣人君と同じパターンだ。
ナチュラル褒めをして、女子をきゃーきゃー言わすタイプだ。
私とは真反対!
そうしているうちにも、辺りに気配が溢れてくる
落ち込むイケメン……周囲には少しずつ野次馬が広がりつつある。
(これは……また噂が立ちかねない!)
というわけで、私は早急に用事を済ませることにしたのだった。
「と、とにかく!噂を広めるのはやめてくださいね?せめてそれは『心の中』にとどめてください!」
「うぅ……はい」
「わかりましたか?ルイスさんの中だけにしまっておいてくださいね?」
「うん、わかったよ……」
そうして黙りこくるルイスさん。
え?
早くどっか行ってくんない?
なに?
野次馬が溢れ出し、ルイスさんは逃げ出すというか、違う場所に行く気配がない。
なんなのよ!
ここで、私がルイスさんをおいてったら、「ルイスさんにひどいことをした女」……あ、今は男の格好をしているんだった……「(以下同文)……した男」というレッテルが貼られてしまう。
それは嫌だ!
「ちょ、ちょっときてください!」
「え?」
手を掴み、引っ張る。
案外体は軽く、すんなりと持ち上げることができた。
そして、ダッシュで逃げる!
真面目に働けよ、使用人!
私たちのことを目で追うな!
そう心で唱えながら……。
♦︎♢♦︎♢♦︎
王子様に連れまわされたと思ったら、今度は私がルイスさんを連れまわしてしまった。
幸いあまり人には見られていないのでよしとしよう。
「あのですね?人に見られているんだから、少しは恥じらいを持ってくださいよ!」
「スミマセン」
「いいですか?男は堂々としていなきゃいけないんです!メソメソしちゃダメですよ!」
「スミマセン」
本当にわかっているのだろうか?
心配しながらも、私は本来の目的について考える。
(殿下にバレたばっかりじゃん。やっぱり、王族の自室に侵入するのはリスクもでかいしなー)
書物庫に大事な書類がしまっているわけでもなく、すべてのここ最近の資料は王族の部屋に保管されている。
だが、先ほどはそうして見つかった。
じゃあ、どうするのか?
「代わりを見つけるしか……」
代わりというのは、王族という国全土の情報を持っているような人たちと同等の資料を有する人という意味。
公爵家とかだ。
王族に次ぐ地位を持っている公爵ならきっと、かなりの手掛かりを持っているはず……。
「あの、ルイスさん」
「はひ……」
「……さっきのは許します。っていうか、俺も怒りすぎましたね」
そう言って優しく微笑む。
ここは倉庫のような部屋で、「なんで宮殿にそんな場所が?」と思いつつも逃げるために飛び込んだ。
その薄暗い部屋の中でも、私の微笑みが見えたのか、パッと顔を明るくする。
しっぽ子そ揺れていなかったが、表情で丸わかりだった。
貴族たるもの、感情の抑制はできて当然、らしいよ?
すぐに感情がしっぽでわかってしまうからだ。
そのはずだけど、
(表情が出たら意味ないよ……)
器用なルイスさんを見ながら、聞きたかったことを問いかける。
「すみません、ルイスさんって公爵家さんの知り合いがいたりしませんか?」
「あ、はい!私は公爵家の獣人なので同じ公爵家の知り合いはたくさんいます!」
元気に彼はそう告げる。
「は?」
「?」
「え、それ本当ですか?」
「はい!こう見えても公爵家長年、十五歳です!」
…………………………。
「すんませんしたー!」
「ええ!?」
私はすぐさま人が取れる最大限の誠意の体勢、『土下座』をする。
確か、勇者はそう言っていた。
滅多に使うことはなかったそうだけど……。
「ど、どうしたんですか!?」
「公爵家の方とは知らず、無礼を働いてしまい!」
「?」
頭の上にハテナを浮かべるルイスさん、いや、様。
それは当然だよね。
公爵家ともあろう人の名前を覚えていないというのはまずあり得ないもん。
そりゃあそんな表情になるよね……。
一応偉い人の名前とかは事前情報として、カイラスさんが教えてくれた。
その中にルイスなんて名前、なかったから油断した!
公爵家の長男……実質的な権力を持っていない彼は確かに『偉い人』とは呼べないからある意味カイラスさんは間違っていないわけだけど。
「あの、頭をあげてください!」
「ほんっとうにすみませんでした!なんでもしますから!」
「なんでも……。あ!じゃなくて、いいから顔を……」
そう言って、私の顔を持ち上げる。
無理やり持ち上げられた顔は、顎クイされた状態になるがちっともときめかなかったのは少々悲しかった。
「とにかく、私はそんなに怒ってるとか、悲しいとか思ってませんから、大丈夫です、むしろさっきまで見たく気軽に話してください!」
「いいんですか?」
「はい!対等に接してくれる人なんていなかったですし……」
その気持ちはよくわかるよ。
私も公爵家の人間だし……違う国だけど……。
「ありがとう、ルイスさん」
満面の笑みを浮かべて見せたが、なぜか顔を逸らされてしまった。
疑問に思いつつ、そこは気にしないでおく。
「それと、ルイスさんって呼ばなくていいですよ?」
「え?」
「ルイスで結構ですので!」
「は、はあ……じゃあ、ルイス?」
「!」
今度は尻尾まで振って喜んでいる。
幸せそうで何よりです。
「私にできることがあったらなんでも言ってくださいね!」
「あ」
そこで、考える。
公爵家の長男であれば、それなりに情勢について知識があるのでは?
だったらやるべきことは一つだ。
「あの、ルイス」
「はい!」
「あなたが持つ知識で『三大派閥の争いを止める方法』はありますか?」
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