第149話 心配
やばいやばいやばいやばい!
何がヤバいかって!?
それはだね……。
「こっちきて」
「ちょ、おやめください……」
「だーめ」
らしいです。
これだけじゃわかんないだろうけど、一旦話を聞い欲しい。
というわけで、私は獣王国国王の自室……その入り口でこの国の第二王子であるシル様、という方に見つかってしまったのだ。
シル様、そう様呼びなのだ。
つまり、とっても偉いのだ!
何を隠そう、この国の王族なのだ。
事前情報として、そこらへんはカイラスさんとかに教えてもらっていたから助かった。
ここで無礼を働くものなら、即刻首ちょんぱっぱされるとこだった。
言い忘れていたが、何がヤバいかっていうと、自室入り口に手をかけている私と見つけたシル様、何を考えたのか、私の手を引いて宮殿内あちこちを行き来している。
この子はいったい何がしたいのだ?
年齢的には同い年に思えるが、何を考えているのかつかめない。
いわゆる不思議ちゃんなのだ!
人間寄りの見た目に、銀色の髪、そして目。
それは王族を象徴するものであり、そのせいで宮殿に仕えている使用人さんたちには異常に映ったことだろう。
ちなみにだが、宮殿は半分に分かれていて、ここは右側部分。
国王含め王族の自室があるのが、右側で、謁見の間が真ん中中央にあり、左側は主に会議室などである。
面白い構造をしているな。
って、関心する暇はなく、さらに言うと、
「きゃー!ベア様よ!こっち向いて-!」
と言われる始末である。
は?
お前ら、どこで私の存在を知ったのだ?
情報漏洩していた。
よくよく耳を澄ますと、「ルイス様が言っていたわ!颯爽と草原を駆け回る黒髪猫獣人様だって!」「そうそう!魔物の群れを一人で壊滅させたんでしょ?」という会話が聞こえてきた。
あんにゃろー!
覚えておけ!
どうやらルイスさんがすべて、誇張してばらしたらしい。
あの人にはきちんとして教育が必要なようね!
……なお、ルイスが大公爵家の長男だとは知らないベアトリスであった。
颯爽と駆け抜けるなんて言わないで!
恥ずかしいから!
神童ともてはやされている私……今更な話であった。
「あの、殿下?どこへ向かうので?」
「……」
そろそろ噂よりも、こちらを何とかしなくてはならない。
引っ張られて、あっちこっち歩き回っているがこの人はどうしたいのだろうか?
私を捕まえた時、そのまま国王の元へと連れて行けばよかったものを。
それはそれで、私が困るのでぜひともやめてほしいがね。
そして、噂は拡大していった。
「ねえねえ!第二王子殿下と親しげな様子よ!」
「いいえ!滅多に褒めないルイスさんが熱弁していたほどなのよ?」
「ってことは、恋敵!?」
おい、なんだその拡大解釈は。
いい加減、そろそろ私も怒ってきたぞ。
それもこれも大衆の面前で引っ張るシル様のせいだ!
と思い、顔を覗くと、
「……………」
なんと本人も顔を赤くして、それを隠していた。
まあ、耳まで赤くなっているからバレバレなんだけどね。
ってそうじゃなくて!
恥ずかしいんだったら、引き釣り回すなや!
「ここ」
「え?」
そんなとんでもなく失礼なことを考えているうちに、目的地?に到着したのか、とある場所を指さす。
そこは、宮殿内部ではなく、外に位置し、敷地内の柵一歩手前の、小さな木の陰だった。
小さな木の陰といっても、何本も生えているそこは誰にも見られることはないだろう。
私のことをあちこち引きまわしていたのは、使用人たちこと野次馬を撒くため?
「あの、なんでしょうか?」
「あなた、人間?」
「!?」
唐突に発せられたその言葉に私は驚愕を隠せないでいた。
絶対にばれないと思っていたのもあり、警戒していなかったのである。
「どうしてそれを……」
表情に出してしまったので、隠す必要はないと思い、腰に携えた剣に手をかける。
「あ、ちが……!」
「違う?何がです?」
「僕は心配しただけなんだ!」
ポケッとしてしまった。
放心状態の私を元に戻したのは鳥のさえずりだった。
「へ?心配?」
「だって、獣人の国にこんなに小さい他種族が一人でいるなんて……」
その言葉に私はあることを察した。
こいつはバカだ・・・と。
だって、普通だったら潜入捜査とか!
なにかそういうやましいことが想像されるはずでしょ?
なのに、この子は心配してきた。
だが、
「心配される筋合いはありません」
そう言って、剣から手を放す。
「わたくしめは一人で身を守っていけますので」
「でも……」
突き放しても心配そうにしてくるところを見ると将来が不安になってくるな。
木々の陰から出ようとするが、ふと気になってシル様に尋ねる。
「ですが、どうして人間であるとわかったのですか?」
「え?」
振り返った私の目の中に、少しうれしそうにしているシル様の姿があった。
(どういうこと?)
その感情の変化がいまいちわからず、私は返答を待つ。
「ふふん!それは僕の目です!」
「目?」
はい!と大きくうなずく。
「この目は魔力や気力などを見分けることが出来る、いわゆる『魔眼』なんです!」
ものすごい極秘情報っぽいこと聞いちゃったんだが?
魔力や気力を視る、か。
それがもし本当に見えるとしたら、魔力がある私と獣人はきちんと見分けを付けることが出来るだろうな。
「え?ちょっとまって!てことは、陛下とかも持っているの!?」
「は、はい」
しまった!
ってことは、もうすでにばれたんじゃないだろうか?
私の存在が、隣国の人間であると……。
ばれてしまったら少々面倒くさいことになるぞ。
私のほうからの情報収集が出来なくなるってだけで、伯爵家の娘さん捜索に遅れが出かねない。
「あの、何を心配されているのかはわからないですけど、普段は魔力なんて見えないですからね?」
「は?」
「僕のような目は王族だけが持つもの。そして、それをむやみやたらに使うとかなり目に負担がかかってしまうんです。だから常時発動するのはできないんですよ」
そうきっぱり言った。
(だけど、やっぱり謁見の時に使っていなかったという保証はない。警戒は必須ってことね)
ひとまずは安堵し、私はその答えに満足し、歩き出す。
「殿下も早くお戻りになられたほうがよろしいのでは?」
「な、なんで?もっと話そうよ」
「あのですね、私も仕事がございますので!これで!失礼します」
そう念押しして、私は立ち去った。
そして冷静になった私の思考はあることに疑念を抱き始める。
(あれ?アレンって確か似たようなな能力なかったっけ?)
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