第125話 始動(×××視点)

「暇ねー……」


 することがない。

 私は傀儡たちとは違う仕事が割り振られたのだが、それがまあめんどくさくてサボっている。


 協力者としてここにいるが、めんどくさいものはめんどくさいのだ!

 完全に私が悪いのだが、暇なのだ。


 この黒薔薇という組織においてせっせと働いていない奴なんてほとんどいない。


 フォーマの腹心だった奴らは療養中?とかで、休みだけどね。


「早くベアトリスと戦いたいわー」


 それが私が暇してる一番の要因な気がする。

 正直、私は強い。


 どうせ、ベアトリスも私に勝てないんだろうなーとか思ってる。

 だって、所詮は数年の努力。


 私に届くわけない。

 魔術妨害の結界が張られさえしなければ、メアリにだって勝てたんだ。


 その子供如きが私に勝てるわけない。

 だけどね、まともに相手をしてくれる……死ににくいお人形が少ないのよ。


 最近見つけた大賢者は、コソコソと隠れてるし……。

 勇者に手を出したら、私の都合に合わないし。


 だから、最も私の遊び相手に適任なのはベアトリスなのだ。


「あぁ、あの自信に満ちた表情が崩れ去る瞬間が見たいわねー」


 それを待つのがここ最近の楽しみと言っても過言ではない。

 その間に急成長を遂げてくれることに期待している。


 そんなこんなで私が寝転がっているときだった。


「!?」


 ドクンと心臓が鳴る。

 それを感じた私は、周囲を警戒する。


 だが、辺りには誰もいない。


「気のせい?」


 そう思ったが、


「いや、違うわね……。この感じ、まさか魔力が戻ってきたの?」


 急激な魔力の増加は心身に影響を及ぼす。

 一時、心拍数が上がるのもその影響だろう。


 現に、体の力が一部戻ったような感じがする。

 握る手の握力はいつもよりまし、瞑想すれば魔力量が増加したことにも気がついた。


(何かめんどそうなことが起きたっぽわね)


 私は勘を信じるタイプだ。

 きっと、面白いことになっているのだろうな、と察する。


 思いつくのは、私の魔法を誰かが解除したということ。

 現在、外部で使用している魔法……魔力はただ一つ。


「私の“性質“かしら……?」


 性質は、一人一人が魔力に宿す力。

 それは並大抵の力ではない。


 だって、そのただ一人にしかないものなのだもの。

 魔力の性質によって得手不得手はあるだろう。


 だが、仮にもこの“私“の性質の権能を解除した奴がいるの?

 あり得ない。


 普通は不可能だ。

 いくら強力な術師だって、意識を制御する魔力を解除できるわけない。


 だが、私は嫌な予感を覚える。


「でも、二つ目の術には気付かないでしょ」


 私は用心深いのだ。

 性質によって封じ、そこからさらに黒い意志を分離させる。


 つまり何が言いたいのかといえば、支配した人物の負の感情を形として、この世に顕現させるというものだ。


 黒い人影として。

 これは、本人よりも強い。


 どんなに強者であろうとも、自らの深層心理に感じる闇深い感情には勝てない。


 結局は死ぬ運命だ。


「結果は変わらない……か。もう一眠りするかなー?」


 そう思っていた矢先のことだった。


 ドクンと心臓がはねた。

 しかもさっきよりも早く。


「もう!今度は何よ!」


 考えつくのは、私の魔力が弾かれたこと。

 無理やり、あの二つ目の意思を倒したのか?


 だから、一気に戻ってきたのか?


 嫌な予感は増幅する。


 そして、


「いた!」


 私の頭に頭痛がやってくる。

 それは並大抵の痛みではない。


 だが、私にかかれば、こんな痛み、気にならないも同然だ。

 メアリレベルだと、余裕で戦えるのだろう、この痛みでも。


 それは私もできることだ。


「って、ちょっと待って!?これは……!?」


 再び、流れてくる痛み。

 それとともに、もうすでに持っているメアリに関しての記憶が流れてきた。


「記憶!?でも、どうして……」


 思い当たるのは一つだけだった。

 なぜ、記憶が戻ってきたのか。


「傀儡のやつ、しくじったわね!」


 メアリを捜索していた傀儡。

 あいつがやらかしたのだろう。


 でないと、彼の性質の権能が解除されることはないはずだ。

 彼の性質は“操作“……それは記憶すら操る。


 全世界にいる人間の記憶からメアリの情報を抜き取ったのだ。

 そのおかげで、メアリがいなくなったことによる騒動は起こることなくことは済んだ。


 それが頭痛とともに戻ってきたということは、術者が能力を解除したか、あるいは……


「死んだ?」


 あの傀儡ならそんなことないだろうとは思うが、他に思いつかない。

 そこで、私の嫌な予感はピークに達する。


「待って!?もしかして、メアリが傀儡を……」


 全てが繋がったような気がした。


 当然、彼の実力でメアリに勝てるかと聞かれれば、無理だと私は即答できる。

 私よりも弱いくせに勝てるわけないのだ。


 もし、メアリに正面から出くわしたならば、傀儡が生きて帰れる保証はない。


「クッソ!どうなってるのよ!」


 私は苛立ちを覚え、すぐに傀儡の元へ向かわせたオリビアの意識を辿る。

 が、


「嘘……ない?」


 意識の波が、途中で途絶えていた。

 それはつまり、私の術が解除されていることを意味する。


「もしかして、さっき魔力が戻ってきたのって……」


 つまりはこういうこと?


 メアリと出くわした傀儡が応援を呼ぶ。

 オリビアを送り出したのだが、その後二人とも死亡か気絶し、オリビアは意思を縛る私の結界を解除されたと……。


「とんだ被害ね」


 正直に言えば、私には関係ないことだ。

 どうせ傀儡のことだから、すぐにひょっこり帰ってくるだろうし。


 オリビアは、別に私のお気に入りではないし。


「でもなー……。失うくらいなら初めから私が操縦しておけばよかった」


 そう後悔する。

 そんな私の元に、


「失礼します」


「……入りなさい」


 音もなく静かに開けられたその扉の奥からは一人の女性が出てきた。

 私もよく知る人物だ。


「何しにきたの?“ごっこ遊び“は?」


「まだ続けていますとも。それで、何かあったらしいですね?」


ニヤニヤと笑う茶髪の女性。


「あんたはなんでそんなに勘が鋭いのかしらね。……傀儡が死んだわ」


 その女性はさも知っていたかのように相槌を打つ。


「へー、そうなんですね!」


「いいから。で、何しにきたの?」


「一応定期報告ですよ。アグナム……公爵家当主に目立った動きはありません」


「そ。それで?」


「ベアトリスの方ですが……何やら面白いことになっていますね」


 結局こいつ、ことの顛末を見ていたわけか……。


「メアリさん、死んだっぽいですよ?」


「死んだ?あのゴリラ女が?」


 あのタフな女が死ぬだと?

 傀儡がやったのか?


「どうやら自爆ですね」


「はあ!?」


「あなたの術を破るために、ね?」


「意味がわからないわ」


 私の術程度でメアリが死ぬとは思えない。

 自爆する意味もわからない。


 なぜだ?

 まさかとは思うが、そうせざるを得ない状況だったいうのか?


 どうしてもそれをやる必要があったとか?


「まあ、もしそれが本当ならば、重畳ね」


「ええ!本当に!」


「あなたは喜びすぎよ、


 その女性、ヘレナは不気味な笑いをする。


「いいけどさ、家族ごっこもほどほどにね?」


「ふふふ、わかってますとも……」


 そう言って報告を終え、公爵家へ帰っていく。

 その表情はいつまでも邪悪な笑みのままだった。


「まあ、いいわ。この展開は私のとってだもの」


(この状況を利用して、私は……!)

 

 そう独り言を残し、私は再び眠る。

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