第111話 裏切り?
「誰だ!」
トーヤが叫び、前に進み出る。
冒険者たちは横道に逸れ、トーヤが進み出やすいように道を作る。
その目の前にいる男と、トーヤが対峙する。
(あれ?あいつどっかで見たことあるような?)
ひげを生やしていて、妙に偉そうな口調……。
(もしかして!)
思い当たったのは密談をしていた男のうちの片方、魔術師の方だった。
軽装な服……一般的な服よりも豪華だが、防御に関して言えば全くダメな服を着ているその男はトーヤが前に出ても尻込みすることなく話しかける。
「これはこれは勇者様、こんなところでなにを?」
「こっちの質問に答えろ!お前は誰だ!」
「ふふふ、ただのしがない老人ですよ」
そういい、彼もまた一歩前に出る。
「なにが目的だ?」
「いやね。私は今の職を捨て、違う国に行きたいのですよ」
「亡国すると?」
「そうとは言いませんが……、そのためには鉱山にある資源が必要なのです」
売れば相当な値段になりそうな妖精たちの住処にある鉱物。
それを使えば、別の国に逃亡したとして、年単位で仕事をしなくても遊んでいけるかもしれない。
妖精たちが『お宝』と称するほどなんだから、それぐらいの価値はするだろう。
「お前たちには渡さない」
「いいえ、渡してもらいますよ」
睨み合う二人。
それを見守る私たち。
「そう言えば、なんで私がここの洞窟の存在を知っていたと思います?」
「い、いきなりなんの話だ!」
話題が唐突に変わる。
ただ、これには意味があることなのだろう。
「私はね、王国のとある方に教えてもらったのですよ」
「王国だと?」
は?
嘘つけよお前。
思いっきし、帝城にいたじゃんか!
「えー!その方に帝国にこんなお宝があると教えてもらってね!奪わずにはいられなかったのですよ!」
「なんて下賤な……」
ミレーヌも怒りにそんなことを呟く。
「王国の誰だ?」
「教えてあげてもいいですけど……報酬をもらいたいですね」
「いいから教えろ!」
「わかりましたよ。そこの中にいますよ?」
「え?」
ちょっと待て!
こいつさっきから適当なことばっかり言ってるだろ!
ふざけんな!
王国にそんなひどい奴なんかいるもんか!
愛国主義ではないが、さすがに言いがかりをつけるのはやめてほしい。
「まさか……」
そんなことを言ってトーヤがこっちをみる。
「え?」
私?
私が怪しいって!?
「な、なんでこっちをみるの?」
「い、いやだってこの中で一番怪しいのって……」
「そう!その子供ですよ!」
「は!?」
おい!
どういうことだよ!
私はそんなこと教えたつもりはないのだが!?
(なにがしたいんだ?)
そんなことよりも、いい方法……どうにか違うって信じてもらわなくちゃ!
「貴族の子供であり、勇者と行動を共にする……そして王国の民!」
なんで知ってんだよ!
あのクソやろう……ふざけんな!
「ちょっと待て!トーヤ。本気で疑ってるわけないよな!?」
「……………」
「おい!」
黙り込むトーヤ。
周りもそれを止められない。
「そんなことする理由がないだろ!?」
私にそんなことをして利益が出るわけない。
「ありますよ」
そんなことをほざくひげの男。
まじでうざい。
「私はこの国の宰相でした」
「さ、宰相?」
「そんな国のトップの近しい人を王国に引き入れ、鉱山の資源で王国と帝国の戦力バランスは一気に傾く!戦争が起きても問題ないくらいにね!」
ぐぬぬ……。
こいつが言っていることは正しいけど、こんな人の心がない奴が正直なわけがないし、さっきから私に教えてもらっただの、変なことを言っている。
到底信じられない。
だが、本人でないトーヤがどこまで私のことを信じるかによる。
「と、トーヤ?」
いまだに無言。
地面を見つめ、何か考えにたどり着いたのか、サッと顔を上げる。
そして、
「ちょちょ!?なんで剣抜くの!?」
「そ、そうですよ!ベアトリスがそんなことするわけないじゃない!」
「考え直せよ、トーヤ」
「トーヤにしちゃあ気が急いでいるんじゃねーか?」
勇者メンバーも引き止める。
ミレーヌがそんなこと言うとは思ってなかった……。
ありがたく思いつつも、私はトーヤを注視する。
「悪いみんな」
その言葉を言い放ち、剣を完全に抜ききる。
「一応だよ。本気でベアトリスがそんなことするとは思ってないさ。でも、もしかしたらってあるだろ?」
乾いた笑みを漏らす。
(え?なに?やっちゃうの?)
ユーリもトーヤに対して威嚇しだす。
え、嘘でしょ?
「ごめんベアトリス。拘束させてもらうよ」
「ちょ!まじで言ってんの!?」
私も少し身構える。
「あはは!私にはどうでもいいことだ!せいぜい逃げてください!」
関係大アリだよ、ひげ男!
ふざけんなよ!
そんなことを考えながら、
「あ?」
トーヤの振った剣が私をかすめる。
「勝負、しようか」
「っち!もう!後で、絶対に謝らせるんだから!」
私は収納していた大剣に手を伸ばすのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎↓『傀儡』視点↓
「大成功☆」
一人木の上でそんなことを考える。
森の奥になってくると、木々もどんどん高くなっていき、俺がいるのは地上から三十メートルほど離れた木のてっぺんだった。
「ベアトリスは勇者を相手にさせて、俺は優雅に見物。お宝とやらもあの男から奪えばいいし!俺は優雅にメアリを探すかな」
森の中を仲間を連れて進んでいた男を見つけ、なんとなくで操ろうと思い至る。
それが始まり。
捜索が楽になるかなと思って、操ったわけだが、これが思わぬことにベアトリスに出会ってしまった。
ちょうどいいからはめてやろうと思い、言いがかりを言わせて勇者を惑わせる。
そしてその後、揺れ動いた心の隙間に入り込み操れば、完成だ。
「このまま勇者がベアトリスを倒してくれたらユーリ様回収できんだけどなー」
本人に怪我をさせるわけにもいかないので、本気は出さないように設定した。
だが、勇者も大概化け物。
なにが起こるかわからない。
オリビアのように自力で抵抗するのか果たして……。
「ふふん!メアリのついての目星はついているし、俺は跡を辿るかな」
ここの地域では珍しい獣人がいた。
帝国、王国、獣王国と東順に並んでいることからも明らか。
西側に位置する獣王国の民がこんなところにいるわけがない。
何か裏があるだろう。
そう思って、跡を追った結果、一人の女性がいた。
顔までは確認できなかったが、間違いなくメアリだ。
そして、獣人の方はというと、こいつも化け物。
なんとまー、魔力を一切感じないのは当たり前として……覇気が全く無い。
人一倍覇気がある獣人のおいて珍しい。
だが、俺の目はごまかせない。
隠蔽しているのだろう。
力を隠す。
裏社会では常識。
表社会でもやっている人はやっていることだ。
「あいつがメアリから離れたら狩りに行くかな」
これでようやく始まりだ。
懐かしくもあるメアリを殺したと思ってた日。
路地で一人笑っていた。
あの頃の自分がバカに見えてくる。
「さあ、終わりの始まりってやつかな」
俺は、木から飛び降りるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます