第110話 口を割らせる

「それで、この妖精どうするの?」


 一旦、みんなが忘れかけている妖精の存在について触れる。

 なんとなく、ミレーヌとトーヤがキラキラしていたものの、手に持っている妖精をどうするのかという問題が残っている。


 すでに、私の魔法と同じような……不可視化の魔法が解け、その姿があらわになっている。


 髪の毛は……三つ編みにしていて所々にキラキラ輝いている。

 精霊の一種で、精霊の中でも魔力の扱いに長けているのが目の前の妖精。


 魔力が漏れているからか……だからキラキラ輝いているのだろうか?

 ともかくとして、妖精は普通、人間の前に姿を現さない。


 だから、精霊種は人間から神扱いされたりするのだ。

 珍しいの一言で済むはずがなく、精霊一匹を崇拝するためだけに、国ができるほどだ。


 過去の歴史書に記述してあった。

 まあ、とっくに滅んだわけだけど。


 そんな妖精が……人間に友好的で、滅多に姿を出さない妖精が、私たちが近づいた途端、襲いかかってきたのだ。


 何かしら理由があるのかもしれない。


「あ、忘れてた」


 手につかんでいた妖精を目線まで持ち上げて、トーヤが呟く。

 ミレーヌは雰囲気を壊されて、殺気が漏れているがこの際気にしない。


「人間は敵!」


 相変わらず物騒なことを唱えている妖精。


「なあ、なんでお前は俺たちを襲ったんだ?」


「言わない!」


 頑なに口を閉ざす妖精。

 がルル、と唸っているので威嚇されているのだろう。


 ただ、トーヤにはそんなの関係なかったっぽい。


「質問に答えてもらわなくちゃこっちが困るんだよ。仕事も残ってるし、できれば早くしてくれないかな?」


 ど直球だね……。

 調査が終わってないし、残業したくないからってか?


 正直すぎるにも程があるが、それがトーヤなんだろうな……。


「絶対に言わない!」


「これは、困ったな……」


 片手で頭を掻き毟る勇者。

 その様子に一同は苦笑い。


 妖精はそんなこと気にしないで、怒り顔を続ける。


「ちょっと見せてみ?」


 時間がかかりそうだなと思った私は救いの手を差し伸べる。


「なんか思いついたの?」


「いいからいいから」


 手渡しで妖精が渡される。

 私の顔を見ても怒り顔のまま。


 それはわかっていたことなので、何も思わないが……。

 そして、そっぽを向くとね……。


 全く、礼儀がなっとらんなー!


「ねえねえ」


「何!」


 呼びかけても、プイッとそっぽを向いている妖精。

 しょうがないので、無理やりこっちをむかせる。


「な、なにする——」


 私の顔を見て黙り込む。


「ちょっとさー?俺たち急いでんの。だから、お前に構ってる暇はないの」


「あわわ……」


「できれば早く話してくれないかなー」


 と、魔力をたっぷり浴びせてあげる。

 威圧というのか?


 格の違いを教えてあげれば、たいていの人も魔物も、大人しくいうことを聞いてくれる。


 この今世で学んだ。


 学んではいけなかったような気もするが、今は置いておくとしよう。

 この妖精よりも魔力をたくさん持っているとにらんだ私は、隠蔽していた魔力を解放してみる。


「あ……。あ……」


「おい……ベアトリス。やりすぎだよ」


「あ、ごめんごめん!」


 単語しか喋れなくなっちゃった妖精さんをトーヤに返す。


「あ、あの〜」


「ひっ!」


 私ではなくトーヤにすら怯えるようになってしまった妖精。

 こちらをジト目で見てくる人物が数名ほどいるが、私は気にしない。


 冒険者さんたちはというと、魔物が来たのかと警戒態勢を取っている。


(魔物じゃないんだけど……)


 若干の怒りを覚えつつ、私はユーリをモフって怒りを解消するのだった。


「で、話してくれるかな?」


「は、はひぃ……」


 情けない声を出しながらも、妖精は喋りだす。


「なんで襲ったの?」


「だ、だって!人間、住処荒らすから……」


「住処だって?」


「ここの近くに洞窟があるの……。でも人間たちが来て、穴を掘ってったの!」


 曰く、自分たちが住む、つまり、妖精の住処が人間たちによって荒らされたと。


「それって鉱夫さんみたいな格好をしていた?」


「わからない……けど、人間たち、私たちのお宝盗んでった!」


 はい、新情報いただきました〜!

 穴掘って荒らされたから襲ったんじゃなかったんですかぁー?


 私の脳はパンクしそうである。


 だが、大体の予想はついた。

 宝を盗られたと、穴を掘って荒らされた……しかも洞窟で。


 ここらでもうみんな分かっただろう?


「トーヤ?」


「うん、そうだね」


 トーヤも理解できたようだ。

 ただし、冒険者たち、勇者パーティの三人はまだ分かっていないようなので、トーヤが代表して説明をする。


「つまり、私たちが探していたのは、妖精の住処だったってことですか?」


 お世話になった女冒険者がスッと手を上げて、トーヤに質問する。


「そういうこと。わからなかった人のためにもう一度説明する。俺らが探していた、『鉱山』は、妖精の棲み家のことだった。そして、帝国の人間が先に訪れて鉱山にある鉱物を掘っていった。だけど、妖精たちに追い出され、俺たちに捜索をさせたんだ」


 帝国の兵士じゃ、妖精に勝てないからって勇者を引っ張ってくんなや!

 私にまで迷惑かかっとるんやぞ!


「じゃあ、帝国は最初から鉱山の場所を知っていたってことですか?」


「そういうこと。騙されたわけだ」


「騙したって……」


 勇者として、トーヤはそんなに帝国に好印象を抱いているわけじゃないっぽい。

 帝国の格差社会を嫌っていて、平等な社会を目指してるらしいよ?


「とりあえず、妖精は解放しようか」


「いいの?」


 不思議そうに妖精が尋ねる。


「当たり前だよ。無意味に捕まえるのは嫌だし」


「あ、ありがと……」


 妖精はとんで何処かへと行ってしまった。


「どうするの?」


 妖精を逃すのはいいとして、その後どうするのだろうか?

 そんな疑問が湧いた私はトーヤに聞いてみる。


「わかんね」


「まさかの無計画!?」


「まあ、でもなんとかしてみるよ」


 一応これでも勇者なのだ。

 少しの融通は通るだろう。


 ただし、鉱山の財宝……帝国であったとしても、そこまでして欲しがったものをみすみす手放すとは考えにくい。


(まあ、なんとかやって見ますかね)


 私もそう決意した時だった。


「それは重畳ですな」


 冒険者たちのさらに後ろからそんな声が聞こえてきたのだった。

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