第109話 助けられる?

 当たり前のように湧いて出てくる魔物たち。

 ゴブリン、スライムを筆頭にオークやら角ウサギ……ホーンラビットなど、大量の魔物が出てくる。


 こんなに湧いて出てくると流石に冒険者たちには負担が大きいのでは?

 そう思っていた時期が私にもありましたとさ。


「かかってこい!」


 トーヤ一人で余裕なんですわー。

 私たち、外から眺めてるだけなんですわー。


 悲しいことに、勇者パーティのメンバーでさえ、仕事ナッシング!な状態なので……。


 面白いほどになぎ倒されていく魔物たち。

 可哀想なことにほとんどが一刀両断され、一部の魔物はコアまで粉々にされているではありませんか!


 コアは魔力の供給システムとでも考えておいて欲しい。

 魔物版の心臓というわけ。


 それを粉砕しながらどんどん道を切り開いていく勇者様!


 と、一部の冒険者からは尊敬の眼差しを贈られている。


 羨ましい……。

 と思わなくもないが、こればっかりはしょうがない。


 勇者という輝かしい称号はトーヤのもの。

 いくら強くてもダメなのだ。


 まあいいけどさ。


「みんな!先に進もう!」


 剣を鞘にしまいながら、勇者はそう口にする。

 それを聞いて、一同は先まで進んでいく。


 進んで行こうとした時、


「な、なんだ!?」


 大きいというほどでもないが、揺れを感じ取った。

 何かがこっちに向かってくるようなドスドスという揺れる音。


「みんな!下がって!」


 勇者としてのトーヤの声を聞き、全員が一歩ずつ後ろに後退する。

 何かが歩く音は徐々に近づいてきて、姿を現す。


「これは……」


 出てきたのは私でも知っている魔物だった。


 その魔物は主に土竜と呼ばれている魔物だ。


 ただ、竜と言っても、体長は三メートルと小柄で、翼もなく、蜥蜴のような見た目をしている。


 だから、舐めてかかった冒険者が何度も返り討ちにあったりと、それなりに被害者を出している凶悪な生物である。


 特に危険なのはかぎ爪だ。

 引き裂かれたら痛そうな、っていうか、死にそうなほど尖っている。


 鱗の強度も高く、魔物として考えると上位に位置すると思う。

 トーヤ相手じゃなければの話だが……。


「よし、やるか……」


 鞘に手を伸ばすトーヤ。

 そして、剣を抜こうとした時、


「!?」


 再び、異変が起こる。

 今度は土竜が引き裂かれた。


 一瞬のことだったので、血が飛び散って気持ち悪いとか、そんなの一切感じない程の早業だった。


 勇者がやったのかと思えば、トーヤも驚いているため、違う人物がやったことになる。


 でも、冒険者組の中ではそんなことできそうな人はいないはずだけど……。


 そう思考を巡らせていた時、


「うわ!」


 今度は私に向かって何かが飛んでくる。


(風魔法?)


 飛んできたそれは魔力を帯びていた。

 そして、目に見えないということは風魔法と考えてもいいだろう。


『風刃エアスラッシュ』という魔法かな?

 この魔法は名前の通り風の刃で敵を真っ二つ、もしくは粉々に切り刻む、そんな技。


 威力としても非常に高く、扱う術師によっては、かなりの脅威となる魔法だ。


「大丈夫か!?」


「問題ない……」


 そう言おうとした時、今度はトーヤが何かを感じ取りそれを避ける。


 きっと冒険者たちには今何が起こっているのかわからないことだろう。

 大丈夫、私もわからない。


「なんなんだ?」


「風系統の魔法だと思うよ」


「遠距離で放ってるのか、それとも、隠れながらなのか……。どっちにしろ、相当な腕だよね」


 魔法が放たれていると思われる方向を向いても何もいない、それが術師のレベルを表している。


 相当な時間、訓練された術師なのだろう。


「みんな!しゃがんで!」


 冒険者とひとまず、縮め込ませ、被弾を減らすように指示する。

 冒険者たちは訳もわからず、しゃがんだ。


 一応勇者パーティの面々もしゃがませる。

 私とトーヤだけがその場に立つ。


 そして、


「これ、どっから飛んできてんだ?」


「さあ?みんなを守りながらだと、わかんね」


 飛んでくる風魔法はもちろんの如く、冒険者たちにも飛んでくる。

 当の本人たちは気づけていないので、私とトーヤで防いでいるのが現状だ。


 そして、再び風魔法が襲いかかり、私たちが魔法、剣によってそれを弾いた次の瞬間。


「えい!」


 そんな声が聞こえたかと思うと、空中から水が落ちてくる。

 それもすごい勢いで。


「あそこにいる!」


(この声、ミレーヌ?)


 みんなびしょびしょになったものの、その一言で冷静さを取り戻した。

 何もないはずの空中で、一箇所だけ水が滴り落ちる場所があった。


 人の形に水がよけ、ゆっくりと流れ落ちている。


(ちいさ!少なくても人ではなさそうね)


 人の形をしているとは言ったが、大きさ的には手のひらサイズもいいところだった。


「トーヤ」


「わかってる」


 それに受かってトーヤが走っていき、斬りかかる。


「!?」


 その誰かは剣を受け止める。

 見た感じ素手?


 両手を前に出しているのか、水が流れ落ちる方向が変わった。


 ん?


 待って、ごめん。


 今さらっと流したんだけど、素手?

 トーヤの攻撃を素手で受け止めたん?


 勇者の攻撃を、全力じゃないにしろ、受け止めたの?

 いくら高位の魔物だったとしても、防ぐのは不可能でしょ!


 一体どんな化け物なのかと固唾を飲んでいたら、それはすぐに姿を現した。


「人間!敵!」


 そう言いながら、トーヤの剣を押し返す。

 その衝撃か何かの要因でその何かが見えるようになった。


 見た目は完全に人間。

 ただし、背中から光る羽が生えていて、森の草木をイメージできるような服を着ている。


「妖精か?」


 妖精


 それは天使から堕とされた存在とか伝承では言われている存在。

 実際のところはわからないが、魔物ではなく亜人として見られることが多く、人間に対しても友好的な存在のはずだが……。


 なんでだろう怒り浸透のご様子。


「とりあえず……」


 と言いながら、トーヤがヒョイと妖精の翼を摘む。

 当たり前のことながら、妖精を飛ぶことができずに、トーヤに捕まった。


 そして、トーヤの実力を理解しているのか、それとも慌てて忘れていたのかはわからないが、魔法を放つこともなくなった。


「これで一応安全だな」


 みんなを立ち上がらせる。


「ミレーヌ」


「は、はい!」


 トーヤに呼ばれたミレーヌは緊張した顔で、返事を返した。


「俺、しゃがんでろって言ったよね?」


「それは……ごめん……」


 ガチ凹みしてるミレーヌ。

 若干泣きそうである。


 それを見て呆れながらも、


「でも」


「?」


「お前のおかげで助かったよ。ありがとな」


 首を触りながら、トーヤが照れたように謝る。


「……うん!」


 ミレーヌもその言葉が聞けて嬉しくなったのか、照れながらも笑う。


(まあ、一件落着……かな?)


 私はその様子を見ながら微笑ましさを感じるのだった。

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