第108話 森での探索
「みんなー!ご飯は食べ終えたかなー?」
「「「はーい」」」
という、なんとも言えない会話がトーヤと冒険者たちの間で行われた。
なんていうか……子供っぽい。
どことなく、お昼ご飯を食べ終えたお子様たちが大人一人についていく様が想像できる。
「幼稚園っぽいな……」
と、トーヤも漏らしていた。
意味はわからないが、私の感じている想いと酷似しているのは伝わった。
ひとまずは私もりんごを食べ、少しながら空腹も満たせたため、なんとか午後の調査もやっていけるだろうとは思う。
ただし、それがいつまで続くかによるが……。
私たちは冒険者とともに、森の奥に入っていく。
だんだんと、明かりが消えていく。
だが、それは夜になりつつあるという意味ではなく、森が太陽の光を遮っているのだ。
奥に進むにつれてそうなっていくが、依然としてユーリは余裕そうである。
可愛げを求めるのであれば、ビビってくっついてくれたら飼い主として最高なんだがなあ……。
これがユーリである。
私や、家族(+フォーマ)のこと以外では大して関心を示さないというか、どうでもいいかのように気にしないのである。
おもちゃとかそういうのをあげてもあんま気にしないみたい。
だけど、私もあまり見たことないようなほど、珍しいものには興味津々な様子だった。
帝都で借りた私の部屋にあった珍しい形の箱だったり、椅子だったり……そういうのをぶっ壊しまくっていたのが記憶に出てくる。
(大丈夫……壊れてても、きっと許してくれるさ!)
お部屋を返上したのちのことを考えると胃が重たくなるが、それまでの間に修復魔法を完成させようかな……。
密談していたあの二人の男みたいに。
片方の老けている魔術師はどうやら物を直せるみたい。
あんな感じにね!
話が若干それたが、他にもシャワーだったりと珍しいアイテムには興味を持つユーリ。
今は手をペロペロとなめ、毛繕いをしている。
猫かよ!って思わなくもない。
サイズ感を考えれば猫よりひと回り小さいけどね。
そんなこんなで私はユーリの様子を気にしながら、走る。
うん。
トーヤこと勇者は爆速でかけていくため、私の小さな足では小走りしないと追いつけない。
さすがは大人といったところか……。
冒険者一同はギリギリ走らなくても追いつくようで。
私の歩幅なんて成人男性の三分の一くらいじゃね?
その分走らなくちゃいけないので、一番大変なのは私だろう。
現在は、勇者と並走していて、横を見ればトーヤがいるという状況。
改めて見ると、ちゃんと勇者っぽいなーと思う。
豪勢な装備に、キリッとして力のある目。
歩く姿も様になっていて、人間として完璧に近い。
逆に言えば生き物じゃないみたい。
誰かに操られるようなほど歩幅とか一切ブレないし。
そんなどうでもいいことを考えながら、歩いていたら、
「ん?どうした?」
トーヤが足を止める。
いきなりだったので、ちょっと私は転びそうになってしまった。
が、そこは誰も気にしてないようで何より……。
「ここからはまだ探索してなくてさ」
「どういうこと?」
「昨日は主に、ここまでの森をくまなく探したんだよね。ここまでなら魔物もほとんどいないし、安全だからさ」
「じゃあ、ここは未開の地って感じ?」
「完全にそうというわけじゃないけど、そういう認識でお願い」
今日の調査はここからが本番らしい。
もうすぐ終わるかなーとか、甘いことを考えていた自分は、軽く絶望している。
「よし!みんな気張っていこう!」
「「「おう!」」」
気合を入れ直し、さらに暗い森の奥へと足を運んでいくのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎↓『傀儡』視点↓
曲がりくねった路地の中。
「肉体ゲット!」
魂だけとなった俺は新たな肉体の元へと辿り着いた。
とあるキツネによって肉体が滅ぼされてしまったのでね……。
ちょうど用意してあった人の死体。
それをちょっと操作すればこの通り。
「新たな肉体の出来上がり!」
どうやら貧相な生活をしていた男みたい。
死体からイメージできたのはそれだけだ。
「特徴ないなー。だったら!俺色にペイントしちゃおっと」
魔力とは便利なものだ。
魔法以外にも性質によって個々の使える能力が異なるのだから。
イメージとしては、
魔法が共通の……。
スキルが職業の……。
性質は個人専用の……。
誰でも使える魔法。
適性のある職業であれば誰でも使えるスキル。
その人個人にしか扱えない“性質“。
俺の性質は便利で、いろんなものを操れる。
肉体の見た目もこの通り……
「こんな感じでいっかな」
前の肉体とは少し違う。
白い髪と黒い目にして、身長を伸ばしてみた。
伸ばしたといっても、一般的に見れば低いが……。
「これでいっかな」
これに加え、
「おいしょっと」
組織の服を着用する。
現在きている服の構造を変化させただけのお手軽な品であるがな!
「そんでもってほいっと!」
自らの陰に潜っていく。
そして、
「森、到着!」
俺には転移なんてめんどくさいことしなくても、陰に潜れば行きたいところへすぐ行ける。
計算がめんどくさい時は陰潜り。
時間がない時は転移って感じに使い分けている。
「とりあえず、ベアトリスがいるっぽいから注意しないとな……」
危険度で言ったら間違いなく災害認定級。
災害だよ?
この意味みんなわかるよね?
たった一人の実力が、災害と言われてるんだよ?
そりゃ化け物だわな。
狂信嬢、あいつも一応災害の一人なわけだけどね。
負けちゃったが……。
あいつは実力としてはSから脱せていないが、全ての警戒網をくぐり抜けて情報を手に入れられる力は、一国を滅ぼす……下手したら、あいつ一人で戦争を引き起こすこともできるのだ。
裏方の役割ではトップだろうなあ。
実力を言えば、あの少女、もといクソババア。
協力者とか頭おかしい。
あの戦い大好き、いたぶるの大好き、いじめるの大好きとかいう、やばいやつが、なんでうちの組織に協力をかって出たのか。
今思えば不思議である。
あの少女、メアリに一度負けてるんよ。
でも、それは死んでない方が不思議っていう状況だった。
俺は直接はみてないけど、狂信嬢の一つ前の情報部門の幹部だったやつは見たらしい。
先代勇者パーティと、追加でメアリにボコされてたらしいよ?
笑っちゃうよね!
とか冗談を言っていたら、いつか殺されそうなのでここらでやめる。
二次聖戦くらいの時のことかな?
王国と帝国が魔族に対して共同戦線をはった戦いのことだったらしい。
あの少女のことだから魔族側につくだろうとは予想していたが、案の定向こう側に付いていたらしい。
その時俺はガキも同然だったので、そんな戦争とも無縁の生活を送っていたわけだが……。
「俺もこっちサイドきちゃたしなー」
成り行きでここまできちゃったわけだが、後悔はしていない。
そしてついでに言うと、メアリや勇者たちにも特別な恨みがあるわけじゃない。
ただ、目的に邪魔だからと言うだけである。
「だから、潰す」
俺には俺の目的があるんだ。
そのためには誰であろうと……。
「待っててくれ……」
一人、森の中そんな声を漏らす。
悲しくも、森にその声は響くことなく、脳の中で響くだけだった。
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