第78話 作戦は慎重に(×××視点)

「あーあ。計画失敗か」


 “迷い宮の王女“と称されていた自分の部下が死んだ。


「あんた、自分の部下が邪魔だっただけでしょ?」


「あはは!本気でベアトリスを殺せるなんて思ってもいないさ!それに、殺しちゃったら、逆に俺が殺されてただろうよ!」


 目の前の少女の手によって……。


「あそこまであんたにご執心だったのに、もったいないわね」


「大丈夫さ。損害といえば、幹部候補一人とデスドラゴン一匹だけだからね」


「結構な被害じゃない?」


「Sランクモンスターが一匹と、不屈の迷宮の主人である“No.12“が死んだだけ。ああ見えてもS級の部下だったよ」


「あら、災害認定はされてないのね」


 国で決められるモンスターの評価は、


 Eランク

 Dランク

 Cランク

 Bランク

 Aランク

 Sランク


 そして、災害認定の七段階評価である。


 ただし、これは大きく分けた分類であり、まだまだ分けようと思えば、評価段階は増えるのである。


「災害認定されていたら、俺の部下なんてやってないよ」


「災害認定されている傀儡が言うとなんだか笑えるわね」


「君も言えた話じゃないけど……」


 自分よりも明らかに強い人程、言われてむかつくものはない。


「それを言ったら、勇者も災害級に足を踏み込んでいるよね」


 あとは心の強さの問題となっている勇者。

 そのうち、俺よりも強くなるかもしれない。


「私はベアトリスにしか興味ないから」


「はいはい、そうですか」


「迷宮がなくなったんなら、新たな情報獲得経路を作る必要がありそうね」


 公爵領に関する情報は全て自分の部下一人の手によって本部まで運ばれていた。


「また俺の部下を配置するかな」


「それはいいんだけどさ、なんかベアトリスが入学させられそうになってるんだけど?」


 その少女が覗くは水晶。

 その奥には、きっちりと試験中に頬杖をついているベアトリスの姿が写っていた。


「これじゃ、成長が遅くなるじゃない」


「いっそのこと、この学院を潰してみようか?」


「あ!それいいかも!」


「まあ、そう言うと思って、モンスターのストックはあるんだ」


 魔物はかなりの数を飼い慣らしているので、ストックも何もないのだが……。


「これで、当初の物量レベルアップの計画が進めそうね」


「迷宮でたくさん殺してるみたいだから、すぐに上がるかは分からないけどね」


「いいのよ!どうせ、転職するための布石でしかないんだから!」


 正直に言って、体を鍛え、魔力を鍛えているベアトリスにとって、レベルアップというのは必要ないと言っても過言ではない。


 それは全ての生物に当てはまる。

 レベルアップで増える増加率は誰も彼も一定である。


 例外はあるが……。


 つまり、子供の頃から強さの基準値を大きく上回っている人にとって、大した変化はないのである。


「職業は何かなぁ?」


「本人曰く、魔法は苦手らしいよ?」


「なんであんたが知ってんの?」


「さぁ?なんででしょう?」


「まあいいけど、近接職業かな?それだと、面倒だな」


 少女は完全遠距離型なため、近距離戦は逆に戦いづらいのだ。


「それはいいとして、学院を潰すってところまで話戻すわ。んで、スタンピードに見せかけたいんだけど、誰がいいと思う?」


 スタンピード


 つまり、魔物の群れを暴走させる件を誰に一任するか。

 それなりに強くて、それなりに指揮ができる者。


「“狂信嬢“で良くなぁい?」


「うげ……俺あいつ嫌いなんだけど……」


 思い出すは、白い髪の常に目を瞑っている女。

 自分と同じ組織に所属し、幹部をやっている女だ。


「私、呼ばれた?」


「お?タイミングばっちし!」


「そ」


 噂話に異常に敏感で、こうやって察知してくるのである。


「なんで、ここにいるんだよ!」


「ことごとく計画が失敗している傀儡を嘲笑いにきた」


「質悪すぎだろ!」


「負け犬の遠吠え」


「っく!まあいい!そのうち、ボスにしばいてもらうからな!」


 安定の白装束を着て、目を閉じ、姿勢を正した姿は若干の恐怖を煽られる。

 だが、俺は長年共に働いているうちに性格を把握しだした。


 からかうことが大好きだが、口下手なので喋れない女だと!


 なんとももどかしい性格だが、同じく俺の性格も把握していることだろうな。

 お互い様というやつである。


「それで、協力者。私を呼んだ?」


「今度スタンピードを起こすんだけど、そいつらの指揮をしてもらっていい?」


「構わない」


「期待してるわ。せいぜい、生き残るのね」


 少女は偉そうに手を仰ぐ。


「んで、ここに今作戦の指導者三人が集まったわけだが、計画実行はいつにする?」


「「いつでも?」」


「こいつら……!」


 いっそのこと、相打ちでもいいから片方殺したい……。


「というか、お前は担当の区域離れていいのか?」


 狂信嬢の担当区域は、王都である。


「大丈夫、丸投げしてきた」


「何が大丈夫なんだよ!?」


 ツッコむべきところだろうが、今はそんな気力が残っていないので、これ以上はやめておく。


「まあ、お前の能力は知ってる。だけど、戦闘向きじゃないだろ」


 狂信嬢の能力は戦闘というよりも、探知に特化している。

 彼女に死角というものは存在しない。


 故に、“情報部門“の幹部なのだ。


「問題ない、能力なしでもS級上位」


「微妙ねぇ。もしちょうど騎士団の近衛隊隊長がいたらどうするつもり?」


 そんなことほぼねえよ。

 そう言いたい気持ちを抑える。


「そいつ、S?」


「確かね」


「確認、私に死角は?」


「ない、って、それうざいからやめて?」


「理解した」


 彼女の視界を持ってすれば、スタンピード勢全軍を見渡して、適切な判断を下せるだろう。


「じゃあ、狂信嬢。勝手にタイミングは調整してくれ」


「了解した、サンドワームの輸送中に二匹取り逃した無能」


「どんどん呼び名がひどくなってるぞ?」


「すまない、ばか」


「ただの罵倒だよ?」


 その言葉を残して、転移していく。


「騒がしいやつね」


「それだけには同感だわ」


「でも、あんたたちの組織にベアトリスを育てる必要ってあるの?」


 確かにそうだ。

 ベアトリスを育ててしまえば、こちらが不利になるのは目に見えている。


 だが、それでいいのだ。


「問題ないよ。それが“上の人“を守ることにつながるのだからさ!」


「上の人って……あんたらのボスじゃないの?」


「それはどうだろうねぇ?」


 その組織の頂点が一番偉いとは限らない。

 その組織よりも上の人物がいるかもしれない。


 つまりはそういうことだ。

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