第77話 クラブ見学

 編入してからというもの、何が起こるのかと身構える部分もあった。

 だが、蓋を開けてみればどうだろう?


 結論


 何もない!


 ので、特にこれといってイベントはなく、約一週間が過ぎていた。


(はっ!?私は何をやっているんだ!?)


 なんか普通に学院生活をエンジョイしようとしていた自分がいた。


(違うだろ、私!そうじゃないだろう!脱出するんだよ!)


 でも、その前にやっておきたいことがある。


 それは、錬金術を学ぶということ。


 これによって、私が輪廻転生みたいな事態を解明できるかもしれないのだ。

 もちろん、誰かに話せるような内容ではないので、結果的には独り作業になることは確定している。


 では、どのタイミングで行うか……。


 授業中?


 論外である。


 放課後?


 レイとルーネに私のことを探しかねない。


 だったらどうするか……。


 それは、


「三人にはクラブを決めてもらいます」


 先生がオリビアさんとレイ、そして私は集めてそう告げる。


 クラブ


 これが全ての答えとなる!


「クラブというものを簡単に説明すると、自主学習のようなものですね。気に入った科目を専攻して取り組むということです。中等部では部活、高等部ではサークルと呼びます」


 つまり、自由に研究をしていいということだ!

 もちろん錬金クラブの部屋やセットを使うには豚先生の許可がいるため、いつまでも研究をというわけにはいかない。


 一人になって、数十分経ったとして、豚が何をしてくるか分からない。

 私も多分幼子という部類には入るだろうし……!


 だが、それをどうこうするとなると骨が折れる。


 記憶操作して支配すると、いつか他の教師にバレそうだし、追放となると、かなりの期間が必要となる。


 無断で研究してもバレれば何をされるか分からない。

 利用するのが一番である。


 どのように利用するか……。

 それは、


「私が女じゃなければいいんだ……」


 あのロリコン豚はその名の通り、幼女好きなので、私が男になってしまえば良いのである。


 何が言いたいかといえば、クラブ活動を行うときだけ、男の格好をして、男の名前でやっていけば良いのである。


 実に簡単で単純だが、効果的面の作戦である。

 いやぁ、ターニャには感謝しかないわ。


 ターニャと一緒に観光させられたとき、マジで誰にも女だと気づかれなかった。


 若干悲しくなったのはいうまでもない。


 悔しいが、私は変装すれば男と言っても違和感ない。

 つり上がった目、七歳だから当たり前のペッタン胸、それなりについている筋肉……。


 筋肉に関しては肌を直視しても分からないが、触ってみれば、あるのはわかると思う。


 私は男だったのか?


 って思うほど、男子でしょ?

 これを利用するのである。


「ベアちゃん、どこにする?」


「錬金術!」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「見学は今日からオッケーだったよね?」


「うん、そうだけど……」


 レイが口籠る。


「その見た目は何?」


「変装よ」


「どうしてそうなんの!?」


 レイは豚野郎のことを知らないから、呑気に女になってんだ。

 気をつけるのだ、レイよ……!


 変なところで真面目なレイだ。

 夜中まで研究して豚と二人っきりとかになったら何されるか分からんぞ!


「気分よ気分」


「そんな気分ある?」


「とにかくクラブ中は男っていう設定でよろしく!」


 声を一段階下げる。


「あれ?ベアちゃんって男だったの?」


「いや、今から乗らなくて良いから!」


「これが噂のショタボか……」


「どんな噂だよ!」


 そんなこんなで錬金クラブの入り口までやってくる。


「失礼しまーす」


 もちろん声は作り声。

 魔法で声帯を広げて、無理のないようにしている。


「おん?どちら様ー?」


 出てきたのは、自分やレイよりも一回り大きい男の人だった。


(良かった豚じゃない……)


 茶色の髪の毛が短髪にカットされていて、陸上部っぽさがある。

 身長は男子にしては低いのが特徴だ。


「えっと、体験に来たんですけど……」


「ああ、編入生だね!歓迎するよ!」


 快く入室を許可してくれる少年。


(こんな優しい人が、豚のクラブに通っているなんて納得がいかない!)


 本人の自由であるため、なんともいえないが……。


「ここは見ての通り、錬金術を取り扱ってるんだ」


「なんだか、毒々しいですね」


 レイもなぜか私について錬金術を選択したようだ。

 故に見学に一緒に来たわけだが、こんなにビクビクしていて大丈夫だろうか?


「あはは!触れなければどうってことないよ!」


「触れたら何かあるってことですよね、それ!?」


「う〜ん、ちょっと当たった部分が溶けるくらいだよ」


「うえぇ!?」


 溶けるとはいかに……。

 窯に入ったあの毒々しい色をしている液体のことだろう。


 確かに触れたらヤバそうな雰囲気をしている。


「溶ける程度だったら、わた……俺が治せるから良かったじゃん」


「良くはないですよ!」


 危ない危ない。

 早速ボロが出そうだったが、バレてなさそうなので、よしとしよう。


「まあ、ここら辺は薬品が置いてあるから基本的に触らないでね。それで、こっちの奥が休憩室みたいになってるんだ」


 目の前の扉が開き、中から数名の姿が見えた。


「基本的には同じタイミングで休憩を入れたりするから、ここが溜まり場みたいになってるんだけどね」


「賑やかで良いじゃん」


「君は元気がいいんだね。僕はちょっと苦手かな」


 元気は別にないと思いますよ。

 豚がいるだろうから……。


「そして、クラブのメンバーなんだけど、残念なことに二年生が0人なんだよね」


「え?どうしてですか?」


「まあ、それは気にしない方がいと思うよ」


 ああ、絶対何かあるんですね分かりますよ。


「二年生って全員女子だったりしたか?」


「良くわかるね。そういう魔法でもあるのかい?」


 やっぱそうだったー!

 男子しかいないと思って嫌な予感はしていたけど、やっぱそうだったー!


 つまり、また二年生女子として、私たちがホイホイやってきたわけだ。

 一年は六歳……んで、私たちは七歳。


 つまり、そういうこと。


「こいつは大丈夫なのか?」


 レイを指差す。


「微妙だよね。その分、仲が良さそうな君が守ってあげてほしいな」


「え、私を守る?そんなぁ〜、私を守るだなんてぇ」


 何を照れているんだろう。

 赤くなってクネクネすんなし!


「んで、三年生は全員男子だね。一年には一人女の子が……。僕は三年で、クラブの副長なんだ」


「へーすげーじゃん!」


 ちょっと棒読みになりそうなのを頑張って堪える。


「それで、うちの顧問なんだけど」


 来た!


「基本的に男子には厳しいかな」


「………まじで?」


「大真面目だよ」


「………ま?」


「ま〜、だよ」


 マジだった!

 あの豚野郎!


 男女差別いいところだよ!

 どんだけ女子に甘々なんだ!


 そして、なんで私は男に変装してしまったんだ!

 帽子をかぶっていて、その中でお団子にしている髪の毛を触る。


 あれ?


 もしかして、失敗した?

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