第76話 共同生活
「んがぁ〜……」
「よし、討伐完了」
「私は魔物じゃないです!」
「なんとでもいうがいいわ!私の勝ちには変わりないのよ!」
勝ち誇る私。
いやぁ、気分がいいとはまさにこの時のためにある言葉なのだ!
「え、えぇ〜。勝者、ベアトリス」
「イエーイ」
なぜか声が小さくなった体育の先生。
(んで、優勝がオリビアさんか……まあ、そうだよね)
順位で言えば、オリビアさんが一位。
ルーネが二位。
私が三位と……。
悪くはない。
そこまで目立たなず、悪い準備でもなければいい順位でもない。
ちょうどいい順位であるといえよう。
四位か五位が一番よかったものの、レイを倒すためなので仕方ない。
「きょ、今日の授業はここまでとする!各自試合を見直し、実力を高めるように!」
「「「はい……」」」
みんなの元気がないような……?
どうしたんだろうか?
——その後の授業でもみんなは元気がなかったように思ったが、どうでもいいことかと、無視するのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「うはぁ!終わったぁ!」
「ベアちゃん、疲れたの?」
「もうだるいのなんの!早く寝たいわぁ」
「ベアちゃん!先生に聞こえちゃうよぉ!」
えぇ〜?
見るは先ほどまで授業を行なっていた教師。
特に好きな教師ではないので、別にどうでもいい。
「あの先生、ロリコンだからなぁ」
秘密を知っている身としては……。
マジでキモい。
「ロリ……何?」
太った体で豚みたいな教師。
金色の髪に毛先をくるっと巻いて、髭を伸ばしている。
いやぁ、ロリコンはどんなに着飾ろうとも無駄なのよ。
なぜそんなことを知っているかと言えば、私の前世に秘密がある。
元男爵の豚がさぁ、私が中等部の時にロリコンだという噂が広まったんよ。
だから、私が調査に乗り出したわけです!
そこで、出るわ出るわの豚の秘密。
いやぁ、ここでは言えないようなキッモい内容もあったので、その日のうちに理事長に直接言いに行ってやった。
その後どうなったのかはいうまでもない。
だが、今回は違う。
「あの先生……。担当はなんだっけ?」
「錬金術じゃない?」
ここが重要なのだ。
錬金術は魔術などに分類されない、不思議な力である。
その力を使えば、新たなアイテムの開発もたやすくなってくる。
そして、それは様々な非物質能力にも当てはまる。
結論を言おう。
私の転生……過去戻りについて何かわかるかもしれないということだ。
明らかに普通ではない力が発動したのは明らかだ。
だが、知識だけではどうしてもこの謎を解けることはできない。
そこで必要なのは、錬金術。
多くの力を生み出してきた錬金術。
だが、その装置はうちにはない。
家の中に錬金台があるはずもなく……。
だから、私はここで研究をしたいのだ。
だが、するためには、どうしても担当の教師の許可がいる。
そう
あの豚である。
本当最悪だ。
世界は私を嫌っているのだろう。
(いっそのこと、あいつを追い出して、新しい先生に入ってもらおうかな?)
だが、それは難しい。
証拠がないからだ。
なので、ここはあの豚をどうにか手名付けなければならないのである。
それが今後の悩みだな……。
そんなことを考えながら、
「とりあえず、部屋に帰ろ」
「うん、そうだね」
私は自分の部屋に間接的に案内してもらう。
だって、昨日は自分の家に帰ってしまったので、自分の部屋がどこか分からないのである。
寮生活であるため、きっと誰かと同部屋になることだろうが、それは妥協しよう。
一緒に生活してくれるだけで十分ありがたい。
前世は全員が退居してった。
おかげで広い一人部屋である。
そんなことにはなりたくないので、しばらくは少なくとも大人しく過ごすことにする。
「ここだと思う」
「本当?」
「確か、私の同部屋だったと思うんだけど」
一応知り合いが同部屋にいることに安堵する。
「中、入ってみよっか」
「うん」
ドアを開けてみれば、そこには、
「あ、ベアじゃん」
「ルーネ?」
これはありがたい!
同部屋に常識人がいるなんて!
ここで、知り合いでもない人と一緒になったら、ものすごい気まずいことになっていただろう。
最後の授業後、速攻でどっかへ行ってしまったと思ったら、ご帰宅なさってたんですね。
真面目で何より。
「今日から、ここで一緒に住むことになったんだけど……」
「ああ!そうなのね、じゃあ、悪いけど、この下の段で寝てもらっていい?」
ルーネが座っているベットと、反対側にあるベット。
誰も使った形跡がない白い布団がかかっている。
「わかった」
「今日からよろしくね!」
「うん」
そうして、今日からここで過ごすことになったのである。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「う〜ん、もう二人とも寝ちゃったかな?」
部屋にいる人数は三人。
私を含めてベアトリスとルーネアさんがいる。
そして、消灯時間は九時であり、現在の時刻は九時十分。
布団に入り、寝るには十分な時間である。
「失礼しまーす……」
静かにドアを開ければ、やはり電気は消えていた。
「私も早く寝なければ……」
大浴場から帰った私の服装はパジャマであり、このまま寝てしまってもなんの問題もないのだ。
それにしても大浴場があるってすごいよなぁ。
もちろん男子女子別れていて、それでいて設備がすごいなんて!
堪能していたら、つい寝落ちしてしまったのだ。
だから遅くなったわけだが……。
そして、私はベアトリスの上のベット……自分の寝床まで戻ろうとする。
「あれ?」
ベアトリスの横に何かがあるのに気づく。
枕元に紙が置いてあり、それは半分に折られていた。
「今日の試合の恨み……えい!」
手に取り、開いてみる。
そこにはとんでもない内容が書いてあった。
(豚の扱いについて……計画書?)
豚とは一体なんのことだろうか?
きっとベアトリスのことだから、誰かのことを勝手にそう呼んでいるのだろう。
それに、書かれている内容も不気味である。
確実に何か企んでいると思って間違いない。
どうやら、私にもまだ秘密を残しているようだし……。
私は知っている。
初めて会った日……その次の日には理解した。
(まだ、だめなのね)
まだ仲良くなれていない。
だから、話してくれないのだ。
(大丈夫、いつかもっと仲良くなれる……!)
親友と呼ばれるまで、私は一緒に続けたい。
私の命の恩人と言っても過言ではないから。
私にまともに生きることを許可してくれたような……私にとっては信仰してもおかしくない人。
生きる楽しみを見つけてくれたのだ。
だから、私はずっと仲良くしていたいのだ……!
(それにしても……)
紙を再度読み直す。
「……私じゃありませんように……」
——その日の夜、私が眠ることはなかった。
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