第79話 オリビアは笑う

 見学をして、その次の日には入部をする。

 そして、数日——


 クラブに入部して一つ気づいたことがある。

 それは、豚が極度なめんどくさがり屋であるということである。


 もちろん授業以外に生徒に顔を出したりすることは稀であり、ほぼないに等しい。


 副クラブ長の話は半分真実であり、半分間違っていたということだ。


 久しぶりに顔を出したときは、とにかく怖いが、基本的に足を踏み込まないので、今のところ平和が続いている。


 そんな平和の中で最近、私を悩ませるものがあった。


「ああ!まただ!」


 そう叫ぶのはレイである。

 その叫んだ理由は視線の先にあった。


「落書き……」


 私の斜め前の席……つまり、オリビアの席に落書きがされている。


「ずる……インチキ……偽物……?」


 オリビアは書かれた単語を一語一語丁寧に読み上げる。


「何、これ……」


 ひどく悲しそうな様子のオリビア。

 それはそうだ。


 こんなのただのいじめである。

 それをわかってやっているのだろうか?


 七歳……わかってないかも……。


 そんなのは関係ないんだけれどね……。


「書いた人は誰かわかってる?」


「ベアトリスさん……いや、分からないです」


「へー。わかったら教えてね?ぶっ飛ばしてあげるから」


「あはは、ありがとう」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 というわけで、犯人探しにやってまいりました!


 どこにいるかと言われれば、錬金クラブの部室である。


 いや、ちゃんと探してるからね!?


 錬金術というのは便利なものである。

 形跡となる証拠を発見すれば、それを使って犯人を辿ることができるのだ。


 探知魔法だと、個人を特定することはできない。


「何をしているんだい?」


「ちょっと探し物です」


 クラブにいるのは、副長だけ。

 許可を私のために取ってきてくれたのだ。


 錬金術っていうのは種類が多いみたいだ。


 窯を使うものもあれば、天秤を使うものもある。


 今回は窯を使っている。

 そこに私が、魔法で抽出した机についた指紋と、必要な素材を混合させてどうにか、やってみた。


 だが、なかなかうまくいかないので、結局は魔法の補助を入れてあげる。


 始めたてなのだ!

 しょうがないでしょ!


 そんなわけで、魔法で錬金術の術式を模倣し、それで術式を整えた上で、窯にペーストする。


 そうして窯に変化が現れる。

 毒々しい色をした中身が徐々に薄くなり、景色を映し出す。


 だが、そこには、


「何も……ない?」


 結果、発見できなかった。


「なんで……術式は訂正したはずなのに」


 私が失敗したのか……?

 でも、そうでないとありえない。


 映し出されるはずの犯人の顔はなく、すすり泣くオリビアの顔が見えた。


「どうして……」


 私が、もう一度やり直そうとしたその時、画面が再び動く。


 廊下を歩くオリビアさん。

 誰かと話しながら、歩いているとき、どこからともなく水が飛んでくる。


 それを食らって尻餅をつくオリビアさん。

 話している相手に、何かを伝える。


 その瞬間、いつもの笑顔が消えうせ、さっき見たすすり泣く様子が再び映し出される。


「まさか……」


 錬金術を解除して、私は走っていく。


「どうしたの?」


「あ、ありがとうございました!もう結構です!」


「なんだか良く分からないけど、どういたしましてー!」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 私は廊下をかけていく。


 そして、


「オリビアさん!」


「ベアトリス、さん?」


「大丈夫!?」


 案の定ちょうどびしょ濡れになったオリビアさんがそこにいた。


 つまり、さっきの映像は未来を映していたのだ。


 でも、肝心な誰がやるかは見えなかった。


(もう、もどかしいわね)


力が入っていないオリビアさんの肩を支えながら、私はずっと考える。

 どうしたら、犯人が見つかるのか、と。 


 私はオリビアさんを一応医務室に連れて行き、その日は何もなく過ごしたのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「どうするべきか……」


 びしょ濡れ事件から二日後、元気にまた教室に戻ってきたものの、やっぱり、クラスメートとして、心配なのは当然である。


 なので、探ってみてはいるのだが、未だ見つからないと……。


 どうしたものか……。


 私としたことがいい方法が思い浮かばない。

 助けようがないのだ。


 正直、こんなことに時間を割いているわけにはいかないが、もやもやしたまま、いなくなるのもどうかと思うので、授業中も常にそのことを考えている。


 そして、だいたいの時間はオリビアさんを監視している。

 言い方は悪いけど、そのほうがいい。


 そう思ったはいいものの、私が見張り出したら、今度は一切嫌がらせの類がなくなった。


 はぁ?

 もうわけわかんない。


 私はそこで考えることをやめた。

 とにかく気を配りながら過ごすとしよう。


 私にとって、そんなの気苦労にうちに入らないのだから。

 そして今日も一日がすぎていくのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓オリビア視点↓



 悲しい。


 ただただ、悲しかった。


 何が起きてるのか分からなかった。


「誰がやったの?」


 嫌がらせを受けることは初めてだった。


 転校してくる前でもそんなことはなかった。

 仮にも聖女候補しかいない施設。


 悪しき心を持った人はいるわけなかった。


 それを考えると、ベアトリスは聖女と言える。


 私は何度も気にかけてくれる。

 それがどれだけ嬉しいことか……。


 なのに、クラスのみんなは見ないふりをしている。

 めんどくさいのだろう。


 気づかないふりをするくらいならこっちを見ないでほしい。


 本当はそう思っていた。


 私は善人なんかじゃないんだから。


 え?


(じゃあ、なんで私は聖女候補なんかに……)


 おかしい。

 善人じゃないとなれないはずの聖女候補に私が?


 何かがずれている。

 まるで、感情が私のものではないみたい……


 私はそれを探る。

 そう思うには、何かの要因があると思って……。


 魔法を使って脳を調べる。


 探っていく中で、その内側にあった何かを発見し、


(あれ?私、何をしていたんだっけ?)


 自身の体内を魔法なんかで探るなんて……。


「まあ、いいや」


 いじめでも嫌がらせでも、耐えれる自信が私はあった。


「笑顔でいれば、どうってことないの」


 あの人に教わった。

 だから私は、廊下で水をかけられた時も、「常に笑顔だった」。


(明日はどんな日になるのかな?)


 今日も今日とて、楽しく過ごすのだった。

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