第70話 落ちたい受験②
「先生も大剣使いでしょう?早く武器を出してください」
目の前にいるこの人も大剣使いということは明白。
背中にでかい剣を背負っているのだ。
大きさ的には、私の剣よりもでかいと思う。
当たり前だ。
大人用に作られた剣なのだから。
私の場合は扱いやすいように大きさを調整してあるため、リーチは短い。
だからこそ、スピードがある攻撃を繰り出せると思う。
「おっと、これは失礼」
大剣を背中からゆっくりと抜く様子を確認する。
それと同時に私も構える。
そして、合図もなしにその戦いは始まる。
というか、私が勝手に始めた。
だって、これって実戦試験らしいからね。
実戦なら実戦らしく、合図なしで始めないと。
相手も多少驚いた様子だったが、すぐに切り替えガードに移る。
私の振った大剣は相手の大剣に激突し——
「は?」
相手の大剣を砕く。
「はい、私の勝ちですね」
「え、いや、ちょっと待てよ!」
「なんですか?」
「なんですかって……どうやったら武器が砕けんだよ!」
大剣は文字通りでかい。
一点に力を加えればすぐに折れてしまうことは分かりきっているだろうに……。
「ちょっと、その武器を見せてもらってもいいか?」
「別にそれはいいですけど……」
私は渋々武器を渡した。
それを持ってその先生は別に試験監督のところにまでいくと、それを見せる。
その監督が何やら魔法で何かを調べている様子。
それを視認した次の瞬間、
「な、なんだこれは!?」
監督の絶叫が聞こえる。
「なんという強度なんだ!?こんな武器が存在するのか!?」
「だよな!めっちゃ固いと思ったよ!」
何やら二人で武器の強度について語り合っている。
「おい、嬢ちゃん!」
「なんですか?」
「この武器、なんて言う素材でできてるか知ってるか?」
「え、普通の素材ですよ?」
「んなわけあるか!」
全く、疑い深いったらありゃしない。
「ドラゴンの卵の鱗です」
「「「どこが普通なんだよ!?」」」
いつの間にか試験そっちのけで話を聞いていた受験生と監督たちの声が揃う。
「ドラゴンの卵の鱗って……ドラゴンの巣まで侵入したのか?誰がこんなものをとってこれるんだ……」
「とってこれる人物なんて、有名な冒険者……それもSランクパーティとか、そこら辺りじゃないですか?」
「あ、すみません。それ私がとってきた素材で作ったんですけど?」
「「「は?」」」
再び揃う声。
なんだ、このシンクロ率は?
「その親ドラゴンは倒したのか?」
「いいえ?」
「なるほど、つまり親がいなかったからとってこれ——」
「親ドラゴンから全力疾走で逃げましたね」
「あのなぁ……まあいい。とりあえず、武器は返す」
「あ、どうも」
手元に大剣が戻ったことを確認すると、私はそれをしまう。
一瞬にして現れた黒紫色の穴にびっくりした様子の一同だったが、何か思ったのか、みんな気にしないようにしているのがうかがえた。
「とりあえず、合格でいいですか?」
「まあ、俺に勝ったんだ。合格ってことだろうよ」
ああ、それ合格になんのね。
あわよくば、教師の私物を壊したと言うことで退学……にはならないか。
「やったねベアちゃん!」
「いやぁ、ギリギリだったなぁ!」
「余裕の圧勝じゃん!」
「それは言わないお約束よ」
辺りの視線で見る。
ほぼ全員と視線が合い、一瞬にして避けられる。
(どうしてこうなるの……)
まあよしとしよう。
どうせ、すぐに退学するつもりだ。
どうやって退学するかは決めてないが……。
退学するから気にしてない。
気にしてないんだから!
まあ、いい。
最初から、受験で落ちるとは思ってはいなかった。
私は編入試験に無理やり、国王にねじ込まれた身だ。
つまり、いくら貴族たちの権力が関係ないとは言ってもあくまで貴族の話。
結局、我が国の国王の命令には逆らえないのである。
つまり、ほぼ確定で受かってしまうというね。
だから試験は適当に受けると決めたのだ。
中途半端な成績を目指して……!
「ベアトリスさん」
「はい!」
試験監督に名前を呼ばれる。
「次の魔法試験に移ってください」
「わかりました」
「では、こちらまでお越しください」
私はその試験監督についていく。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「こちらです」
私は目の前に並べられた人形を眺めながら、説明を聞く。
「先ほどもいましたが、ご自分が一番得意な魔法であの人形を攻撃してください。補足なんですが、あの人形はオリハルコン製なので、壊れたりしなくても落ち込まないでくださいね」
あれにかすり傷すら与えられずに落ち込む生徒が年々多いので……、と試験監督は頭を振ってやれやれと苦笑いをする。
といいますか、それ以前に私の一番得意な魔法が攻撃魔法じゃない件について……。
「あの、すみません」
「はい、なんですか?」
「私が得意な魔法は空間系の魔法なんですけど……」
「く、空間系……ですか?」
一応攻撃にも応用できるが、基本的には転移とかがメインとなる系統である。
「あのどうすれば……」
「それで攻撃魔法みたいなのは放てますか?」
「それはできます」
「なら、それでやってみください。無理そうならもう一回別の魔法でやってみてもらって結構です」
案外ゆるいんだな。
もっと鬼畜な試験が来るかと思っていたが……。
「ま、いっか」
私は腕を前に突き出す。
「『空間破裂スペースバースト』」
こういう時のオリジナル魔法!
惜しげなく私はそれを放つ。
一見すると何も起こっていないように見える。
だが、次の瞬間にそれは起こる。
空間が若干歪み、一瞬にして的を木っ端微塵にする。
ついでと言わんばかりに、地面と後ろの壁が少しえぐれるが許容範囲だろう。
「はい?」
「あの、これでいいですか?」
「あ、あの今の魔法は一体……私の知識にはない魔法なのですが?」
「まあそうでしょうね。私のオリジナルですもの」
「オリジナル!?」
何を驚く必要があるというのか?
今までにある魔法……既存の魔法だって誰かのオリジナルだろうに……。
「あの、先生?」
「あ、ひゃい!」
かんだ……。
いや、ここは先生の尊厳を守るために気にしないでおこう。
「えっと、試験は終了ということでいいですか?」
「もちろんです!」
「じゃあ、私は帰りますね」
「え?帰るってどこに——」
最後まで先生が言い切る前に私はさっさと転移していくのだった。
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