第69話 落ちたい受験


 この日がやってきてしまった……。

 何がって?


 入学だよ!


 どっちかといえば、編入だけど……。


 まじでふざけんなって話だよ!

 どうしてそんなことになったかといえば、謁見の時まで話は遡る。


 あれかだ一ヶ月ほど経過し、勇者との迷宮の件から二、三週間くらいが経った。

 父様に迷宮の勝負はなんとか引き分けと報告することができたので、多分国王にもそう伝わっているはず……。


 なんとか家の尊厳は守れたのだ!


 それだけはよかった。

 だが、その裏で私の編入が進んでいるとは誰が想像できただろう?


 絶対に無理。


 っていうか、どうして私がそんなところに入らなきゃいけないわけ?

 と思わなくもないが、普通の貴族はみんな通る道なので仕方ないのだろう。


 ステイノード学院


 それは、貴族が通る道として長らく栄えている学院のうちの一つ。

 有名な学者や、宮廷魔導師、後世に名を残すような偉人が育っていった学院。


 私も前世に通ったのだが、とにかく生徒会優先、生徒会が絶対みたいな環境だったので、私が生徒会の奴らを蹴落としてやったのを今でも覚えている。


 最後まで辺境伯の息子が抵抗していた……。

 今思い出せばレイの兄貴じゃね?


 辺境伯が少ないからなぁ?

 辺境伯の称号を持つ人物は四人しかいない。


 可能性は十分にあるだろう。

 だからと言って、何か仕掛けてくるのであれば容赦はしない。


 なぜなら、私は早く退学したいのだ。

 これじゃ計画に支障をきたしてしまう。


 家出するためには、私が自由に動ける環境下にあることが大前提なのだ。

 なので寮生活を強いられてしまえば、それが難しくなる。


 ので!


 もし、喧嘩を売るようだったら、遠慮なくボッコボコにしてあげるつもりだ。

 学院生活は悪いものではないだろう。


 きっと今世では友達ができたり?


 するかもしれないが、私はとにかく自由を欲しているのだ。

 どっちを選ぶかは明白である。


 友達なら家出した後でも作れるしね。

 人生に一度の大博打だが、それを学院生活でなしにするっていうのは、私のプライド的にも嫌なのでね!


「試験終了!」


 みんなの手が止まる。

 と言っても、十数人しかいないけど……。


 え?


 誰が、試験中じゃないって言った?


 もちろん今はばちばち筆記試験中ですが?

 まあ、問題はちゃんと答えてないけどね。


 あわよくばこれで落ちればなぁ〜。

 そんな気分で最後の一問以外は適当に書いた。


 流石に0点は嫌なのでね……。


「次に、実戦試験に移ります!会場までついてきてください!」


 問題が回収され、みんなが席から立ち上がる。

 段差を下り、先生の元へ歩を進める中、私は密かにワクワクしていた。


(ついに、まともに大剣を使う時が来たのね!)


 実戦試験というだけあって、木刀、木剣は使わずに、真剣で戦うのだ。

 しかも持ち込み自由だから、どんな武器でもいい!


 一番得意な武器でいい!

 大剣は別に得意ではないが、使ってみたいのでいいだろう?


 それに、得意じゃない武器を使うことによって、もしかしたら不合格になるかもしれないし……!


「あ!いた!」


 背後から声がする。

 もう全員が次なる試験会場に行ったものかと思っていたで少し驚きながら振り返る。


「え、レイ?」


「うん!」


 見上げればそこには、元気なレイの姿があった。


「それは……霊体?」


「う〜んと、半分正解かな!まあ、ベアちゃんならすぐにわかるよ!」


 レイとは時々会っているので、そこまで懐かしいとかいう気分はないが、初めて会った時よりも仲良くなったなとは感じた。


 それは少し……嬉しいかな。


「ベアちゃん、会場早く行こうよ!」


「えぇ〜?もう少し休も?」


「なんのための編入試験だと思ってるの?早くしないと試験始まっちゃうから!」


「はいは〜い」


 渋々私は少し早めに会場へと向かうのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 会場にいるのは試験官数人と、受験生十数人。

 その中には私とレイの姿もある。


「二次試験のルール説明です!まず、各々、武器を持ってきましたね?」


 みんな自分の武器を片手に会場に来ている。

 私だけ『なんであいつは持ってないの?』みたいな目で見られているが気にしない。


 前世で見られるのにはなれているからね。


「二次試験最初の科目は物理部門!片手剣、両手剣、槍に斧。なんでもいいです!それで好きな試験監督に挑んでください!」


 ざわざわと声が聞こえてくる。


 みんなの視線は一人のマッチョな先生に向けられていた。


 多分、あのマッチョな先生はきっと人気なさそうだなぁ。

 見るからに物理です、と主張しているかのような筋肉。


 見るからに戦士ですって言わんばかりの古傷がそれを助長させている。


 かわいそうなので、私はあの人にしようと心の中で決めるのだった。


「その後、魔法部門で、最も得意な魔法を見せてもらいます!ただし、他人を馬鹿にするような発言はしないように!した者から即刻出てってもらいます!」


 あらま、案外厳しいな。

 したら即刻退学……。


 非常に興味を引くが、そんなことをすれば、親にまで迷惑をかけることになるので、やめておこう。


「では、各自始めてください!」


 試験官の元へとみんな足並みを揃えて進む。


「ベアちゃん。誰にする?」


「私はあのおじさん」


「強そうじゃない?大丈夫?」


「私を誰だと思ってんの?」


「勇者と引き分けた“神童“」


「それは言わないで……」


 なぜか噂が立ってしまっているのだが?

 辺境伯領と、公爵領って結構離れているはずなんだけどなぁ?


 どうして知ってんのかな?


 まあ、気にしないでそのまま私も歩いていく。

 レイは普通に強いと思う。


 あれが霊体ではないのかはわからないが、もしそうなら敵なしだろう。

 攻撃はすり抜けるので、ほぼ勝ちが確定しているとして……。


 私は、


「まあ、頑張りますかね」


「お?嬢ちゃんが相手か?」


「はい、そうなりますね」


 周りからはなんか頭おかしいのかあいつ、みたいな目で見られている。


 解せぬ。


「嬢ちゃん。武器はどうしたんだ?」


「あ、そうですね。取り出すの忘れてました」


 私は大剣を取り出す。


「な!?」


「どっから出てきた!?」


「どうなってんだ!?」


 各々好き勝手に反応する。


「ただの収納魔法ですよ?」


「「「どこがだよ!」」」


 ちなみに、彼女の言う収納魔法は空間系魔法の応用であり、一般的に知られている収納魔法は魔法のポーチなど、プロが作ったアイテムのことを指す。


 プロが作ったポーチ……すなわち、宮廷魔導師級の人物が作ったポーチは素晴らしい代物ではあるが、大剣などという大きなものは収納できない。


 もちろんのことながら、ベアトリスはそんなこと知らない。


 そして、この時点で周りにいた人々は確信する。


『こいつはヤベェ』


 と……。

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