第39話 下見でチラッと

 私のテンションはだだ下がりしていた。


 現在、私ことベアトリスは六歳になった。

 辺境伯領に行った時から、これと言って変わらないような、授業に明け暮れる毎日。


 それが、とってもつまらないわけであるが。


 だからといって、何かをしてみようという気はなかった。

 なぜなら、私の計画実行日が着々と近づいていることが全てを物語っている。


 何もしなくても、これからの人生のうちにゆっくりと学んでいくことができる。

 つまりは何もすることがない状態であったのだが………。


「ベアトリス、ちょうど今王家への謁見があるのだが、一緒に来てくれるか?」


 嫌です。


 といいたいのだが、それをいうことはできなかった。


 だってしょうがないじゃないか!?


 家出計画を私は企てている分際で前世も今世も親孝行を全くしないというのは、頭おかしいと思う。


 だから私に拒否権はないため、肯定するしかないのである。


「はい」


 私は家出して自由を得る前に、親孝行を積んでおく必要があるのだよ。

 そういうことである。


「ということで、私は下見にでもいってこようかな?」


 まあ、私って色々経験豊富な女なのです!


 誘拐はもちろん!


 闇討ちに巻き込まれたことだってあるのである!


 そういうわけで、社交の場では必ず下見をしたほうがいいという経験則を得たのだ!


「んじゃまあ、早速行きますかね」


 転移をする。


 現在の時刻。

 大体昼ごろ。


 すなわち、みんなお昼休憩をする時間帯!

 つまりは、誰もいない!


 はず


 というわけでやってきました、王城に!

 下見をするには、やはり入り口からした方がいいだろう。


 そう思ったので、転移したのだが。

 やはり、王城は素晴らしいほどに綺麗だった。


 真っ白の外装に、所々に散りばめられたキラキラ輝く物体。

 宝石を装飾に使いすぎないあたり、権力を強調していないような、品性が溢れていると相変わらずに思う。


 まあ、実際はうちの家(公爵家)よりも圧倒的にお金がかかってそうなのはいうまでもない。


「では、早速行ってみますかね!」


 私は門に向かって歩き出す。

 転移した先は、王城前の通りであったため、人通りは多い。


 だから、私は魔法を行使する。

 不可視化した私に気づくものはいない。


 ミサリー時同様に触ってしまえばバレるだろうが、幸いにも広い通りで、人通りもあるっちゃあるがまばらである。


 そして、私は誰にも気づかれずに門の前まできたのだがーー


「相変わらず寝てるのね」


 門番の男性。


 それは前世からも付き合いがあった人物だ。


 二十歳くらいで、王城の門番というのは貴族からしても凄まじい出世で、私はそれが珍しくて、話しかけてみたのだがーー


「寝ていたんだなぁこれが」


 こいつはいつもサボって寝ている。

 それは私が前世から知っていることなので、気にしない。


「今度起きてたら、話してよね」


 起きているところを見たことないので、前世では“ただの知り合い“だった。

 だから、友達になれとは言わないけど、私が家出するまでの間の暇つぶし相手の一人としたいのだ。


「ま、それは勝手すぎるよね」


 子供のお守りは嫌いそうな顔してるので、それはやめておくことにしよう。


 まあ、なんだかんだ門の奥側に転移して、なんとか侵入成功。


(やっぱり転移ってやればできるものなのね)


 前世では一人では扱うことができない儀式魔法としてカウントされていたが、一人でも余裕である。


 レイだって、探知魔法とかともろもろ併用すれば難なく起動できていたし、存外使い勝手はいいのかな?


 門を通り過ぎた後に続いているのは、長い道。

 王城までたどり着くのはかなりの時間がかかりそうだ。


 元々、馬車で通るべき場所であり、決して歩くような道のりじゃない。

 だが、そこは今世の私。


 脚力がきっもち悪い程に発達しているため、そんなに辛くはない。


(それに、ここを転移しちゃったら、わざわざ偵察に来た意味ほぼ無くなっちゃうしね)


 そういうわけで、私はゆっくりと周囲を警戒しながら進んでいく。


 道のりの中では、警備への影がちらちら見えた。


(こんなところにも………そろそろ熱源の感知魔法でも開発しようかなぁ?)


 それはまた今度にするとしよう。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 まあ、いろいろありまして………。


 王城の中到着でございまーす!


 いやぁ、ここまで何分かかったと思っているんですか?

 三十分ですよ?


 なんでですか?

 なんでこんなにあるかなあかんのですか?


 まあ、私が下見をしようとか思ったのが原因なわけだけどもこれは許せない。


(まじで、転移の魔法が阻害されるとは思ってなかった)


 いや、警備が厳重なのはなんとなくわかっていたが、魔法を阻害されると思ってなかった。


 転移の魔法も万能ではないってことだな。


「まあ、とりあえず侵入できたのは良いとして」


 どの部屋が何で、どうなっているのかよくわからない。


「とりあえず、いろいろ回ってみるかな」


 私は王城の一階部分を探索する。


「ここは………訓練場」


 訓練場って一階部分にあるんだ。


 中庭の、真ん中ら辺にアリーナのような形で訓練場がある。


 中を覗くためには、入るしかないのだが、そこは侵入者の私。

 遠慮なくズカズカ入り込んでいくスタイル。


「ん?」


 一人の騎士らしき人物がこちらの方を向く。


(やっば!この距離でバレんの?)


 さすがは王城、王宮勤めの騎士というところだろう。


(ここは、もういいや。次の場所!)


 私は中庭を離れ廊下を渡っていく。


「次はどこかなぁ?」


 どこに危険があるのか、侵入可能ルートを探る上に当たって、どこの部屋を通るのか………なんで私がこんなことをしなくちゃいけないのだろうか?


 今更だが、そう思った。


「次の部屋、ここ!」


 私はドアを開ける。


「おぉ!図書室!」


 さまざまな大量の本が並べられ、本棚がいくつも並んでいる。

 その数は辺境伯領と同じくらいあり、公爵家よりも圧倒的に多かった。


「おお!これ読んだことない!」


 私は、本を開きーー


 本を閉じーー


 本を開きーー


 本を閉じーー


 本を開きーー


 本を閉じーー


 本を開きーー


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 気づけば夕方にーー


「あぁ………やらかした!」


 いや、私の持ってない本がたくさんあったからね?

 これはしょうがないからね?


 だから、私は悪くないんだからね?


 まあ、言い訳をしても無駄だろう。

 早く一階部分だけでも探索しなければ………。


 どうせ侵入するんだったら、上からとかあり得ないだろう。

 飛行魔法は、王城に張られている。


 魔法障壁で妨害されるだろう。


 というわけで、今日は一階で…………ね?


「多分これが最後の部屋かな?」


 いろいろ回ってみて、最後の部屋までやってきた。


 この部屋はなんかな?


 私はドアを開ける。


「う〜ん?ここなに?」


 なんか蒸し蒸しする。

 それにーー


 何人かのメイドがドアの前で待機している。


(ドユコト?)


 まあ、ここの警備は厳重なのか?


 わからないが、一応入ってみよう!


(侵入だぁ!)


 スキップをしながら、中に入ってみるのだがーー


「!?」


 私は体を硬直させて後ろを向いて、その部屋から出ていく。


「……………」


 私は何もみていない。


 殿・下・の・裸・なんてみていない。


 っていうか、お風呂ならお風呂ってかいてくれよ!?

 やめろよ!?


 別に肌綺麗だなぁ、とか思ってないからね!?


 それに侵入しづらいだろ!?


 そういえば、夕方だったからお風呂に入っているのは当たり前か………。


 もう、なんなんだよ………。


 私は顔を熱くしながらも、転移していく。


 いや、殿下には申し訳ない………です。


 殿下なんにも悪くないのにね。


 でもまあ、所詮は子供だから!

 異性でも子供の体には興味ないから!


 ってことで………許してね、殿下。


 ーーこのことを殿下が知ることはまだまだ先である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る