第38話 生徒会の憂鬱
俺は辺境伯の息子である。
そこまでの権力はないが、国にはかなりの優遇がされている家系であり、この家に生まれたことは幸運だと思っている。
土地は豊かで、誰もが住みたがるような、街だと個人的には思っている。
まぁ、今現在は辺境伯領にはいないのだが………。
何を隠そう、とある学院の初等部に今所属しているのだ。
この学院では、すべて寮制で、普段の日常生活を誰かと共に行うことになる。
この学校に入れるのは一部の優等生、一部の上位貴族の子供だけ。
このことからも、自分はこの学院に入れたことをとても栄誉に感じている。
そして、この学院はすべて生徒会が決定権を握っている。
一年から三年まである、初等部。
四年目から六年の中等部。
残りの三年間を高等部。
このすべての決定権を握るのはそれぞれの生徒会。
生徒会と一括りにすることはできない。
なぜなら、この学院には生徒会が三つ存在するから。
そもそも、この学院では初等部や中等部、高等部の校舎は別々の設置されていて、よほどのことがない限り、会うこともないのだ。
この生徒会に入れるのは成績上位十名の者たち。
入試試験から、今までの中間試験、期末試験に実施試験、実力試験など様々な試験を経て、上位に居続けたものが入れるクラブのようなものだ。
ただし、先ほども言った通り、学校の運営は基本的に生徒会が行うため、初等部は特に毎日てんやわんやしているのはいうまでもなくーー
「グルートさん!この資料まとめておいてくれませんんか!?」
「さん付けはいい、早く資料を渡せ」
「はい!」
同級生の生徒会“候補“から尊敬の念を向けられる。
別にこの学院の所属してからは、権力に頼らずのし上がるつもりだったので、敬語は不要なのだ。
そして、尊敬の念を抱かれるのも珍しいことではない。
生徒会ならば、通りすがるだけでも様々な視線を向けられるのだ。
このような表情には慣れっこである。
なぜ、俺までもがそんな目線などに慣れているかといえばーー
つまり、俺はこの生徒会に所属しているということである。
上位貴族の名は伊達ではない。
弛まぬ努力をしてきてのはいうまでもない。
妹よりも、姉よりも強くなろうと人一倍努力してきた。
そのおかげもあって、どうにか生徒会に入ることができた。
副会長や書記官、そして会長などの役職はもらえなかったものの、生徒会メンバー上位五人には入れたことで、一安心したというのが、“さっきまで“の心情である。
「ん?なんだこれは?」
「どれですか!?」
訂正箇所があるのかと思われたのか、焦った様子の同級生。
「いや、報告書には問題ないんだが………この編入生のことだよ」
「編入生?ああ!二年生の枠に一人女の子が編入してきた話ですね!」
「あぁ、そうなんだが………ここはなんだ?」
「どこですか?」
敬語が取れていないのはこの際、気にしない。
そして、俺は気になった箇所を提示する。
そこにはこう書かれていた。
ーーなお、この生徒の普通科目の授業は完全免除とする。
「これはいったいどういうことだ?」
「さぁ?俺………私にもさっぱりです」
「だが、授業免除というのは何か変だろう?生徒会にも情報は入っていないんだぞ?そこらはちゃんと調査したのか?」
「あ、すみません!今からやります!」
「あと、採点途中の答案があるそうだな?それを持ってきてくれ!」
「はぁい!」
凄まじい速度で駆け抜けていく同級生を眺めながら、報告書の整理に戻る。
だが、今思えば、この報告書にはおかしなことが多すぎる。
まあ、現在丸付けの最中なのにもかかわらず、編入許可が下りたことはもうどうでもいいとして………いや、どうでも良くはないが………いいとして。
「この、部分はいったいどういうことなんだ!?」
ーー王家からの直々の命により、丁重に扱いせよ。
なんなんだ!これは!?
王家と言ったら、この国の一番偉い一族。
そんな誰もがわかりきったことだからこそわからないのである。
何がどうしたら、ただの少女のために、ここまで厳重に注意喚起されなければならないのだ!?
相手はーー
公爵家か。
だが、この学院には権力などというものは意味をなさない。
この学院にいる限り、親の栄光にすがりつくことはできないのである。
つまりは、完全実力主義ということである。
扱いとしては、普通の女子生徒として、扱うのが普通なのだがーー
「どうして、王家が?」
権力が意味をなさないはずのこの学院に、この国で最も権力の高い王族から直々に命令が下されるとは。
しかもこれは、学院長への“命令“にあたるので、生徒会が文句を言うことはできない。
一体のこの女子生徒何があるというのだ!?
報告書に目を通しながら四苦八苦しているとーー
「持ってきました!」
「あぁ、ありがとう」
同級生がとある少女のテストの答案を持ってくる。
本来、生徒が勝手に他人の回答を見ることはおろか、採点をすることはできないが、そこは生徒会。
一人一人が、教師以上の権力を有しているため、そんな無茶振りも可能なのである。
会長に至っては、学院長の次ぐ権力を持っているのだ。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「なんだ?この点数は?」
「はぁ、私にもわかりません」
そのテストに答案は、すべて“間違っていた“。
「よほどの…………その、勉強をしてこなかったのでしょうか?」
いや、そんなはずがない!
貴族である自分は同級生とは違う。
貴族は勉強が必須。
ましては抜け出すなど論外。
そんな人物などいるはずがない!
つまりは、こんな点数……………さらにいえば、簡単な問題ですら間違えるなんて絶対にあり得ないのである。
(何か裏があるのか?)
王族といい、この点数といい。
何かがあると思った方がいいだろう。
そもそも全問不正解の方がおかしいのである。
マークシートと言って、選択式の問題が数多くあるというのに、間違えるなんて狙ってやっているようにしか思えないのである。
「ふむふむ、これは?」
「え?この問題ですか?私には良くわかりませんでしたが、この生徒は何か回答しているようですね」
その問題は編入試験において、難関の問題である。
その問題の内容はーー
問 転移魔法における一般的な計算の仕方を答えなさい。
この問題だ。
普通なら、飛びたい景色を思い浮かべて、その景色を強く魔力に込めて、発動する、というのが一般的な回答なんだがーー
だが、その回答では不正解である。
「座標が……………その場で行使?いったい何を言っているんだ?」
答えとしては、複数人にて情報を交換しあい、座標の整理を行なった上で、景色を魔力に記憶させる、というもの。
だが、その編入生の回答はーー
解 思い浮かばせた景色の座標をその場で計算し、その計算をもとに術式に当てはめて、行使する。
その場での座標計算は、思い描く情景の描写を汲み取り情報配列を分解したのち再度整理、自身の知識や地図で得た知識を照らし合わせて、その情報をもとに、座標の細かい分布を取り決め、それを魔力にトレースする。
情報が足りない場合は探知魔法で、自身の座標を割り出した上で計算を行う。
記憶化させた情報から自身の座標の情報を追加し、位置関係の修復をする。
「こんな回答、思い浮かぶか?」
「正直言って何を言っているのかわかりませんね」
「というか、これ答えなのか?」
地図などの情報をすべて記憶している前提で話を進めている時点で何かおかしい。
普通の子供ならば、地図まで覚えているということは絶対にない。
どんな天才でも、地図を記憶しようなどとは思わないからだ。
「それになんだ?座標をのその場で計算って」
そもそも転移魔法は大規模な儀式のもと、行使しする魔法であって、個人で行うようなものではない。
それに座標を計算するというのはどれだけ大変なことか。
俺だったら自身の座標の割り出しに、数分。
計算した術式を当てはめるのに、十分ほどかかり、とてもじゃないが使えない。
「それなのに、なんなんだ?この魔法を一人でできるとでも?」
「さぁ?」
嘘八百なのかもしれない。
そう思うと、後輩の可愛いウソと思えて、なんとなく悪い気はーー
「………嘘ではなさそうだな」
「ですね」
俺はしっかりとそいつの名前を覚えた。
「おもしろいじゃないか……………是非とも勝負して欲しいな、ベアトリス・フォン・アナトレス!」
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