第37話 別れを告げる

 まあ、あの後何やかんやありまして、一日が経過いたしました。

 昨日起きた出来事といえば、レイが変身魔法を習得して、その後私が説教されて、気づいたら夕方になってて、急いで帰って、親たちに説教されて(二回目)、で就寝といった感じの流れである。


 大体こんな感じ。


 なんやかんやあって、二回も怒られるというね。

 ひどくない?


 なんで私が一日に二回も怒られなくちゃいけないの?

 私はただ優しく変身魔法を教えていただけなのに………。


 それに帰るのが遅れたのは私ではなくてレイの説教が長かったからなのだが?


 全く、私は被害を被ってばかりなので、なんとなくムカつく。


 だが、最初を辿れば私が要因だったので、許してやろう。


 そして、私と父様は今日公爵領に帰るのだ。

 つまりは辺境伯領も今日でお別れなのだ。


 レイともお別れなので、最後に挨拶でもしておこうかな。


 ということで、レイの部屋までやってきました。


 ノックをすると快く歓迎してくれたレイを尻目に、私は部屋を見渡す。


「結構暗いんだね」


「うん、私、肌が弱いから暗くしてないと光に耐えられないらしいんだけど………」


 口籠ったのは、きっと昨日の件についてだろう。

 これに関しては、私が魔法で保護をかけてあげてたからでもある。


「まあ、それはいいよ」


 雰囲気的には闇を抱えてそうなベットルーム。

 黒いカーテンに、大きめなベットが真ん中にあり、それにもカーテンがかかっている。


 よく見る貴族のベットなんだけど、なんとなく暗い。

 それに、包帯が所々巻かれていて、可愛いくまちゃんの人形を抱いているところもまたそれを助長させている。


「んで、とりあえず私帰ることになったんだけどーー」


「ちょっと待って!?」


「ん?どうしたの?」


「いやいやいや!一番大事なとこ簡単に説明終わらせてない!?」


「え?」


「私、今日帰るなんて聞いてないんだけど!?」


 そういえば、説明してなかったか?

 そもそも、私がさっき帰る旨を聞かされたばっかりだからしょうがないか、知らないのも。


 私は一応最初から教える。


「そうなのかぁ〜。もう帰っちゃうのかぁ〜」


「ふふふ、寂しかったりする?」


「いや、魔法教えてもらえないのか〜って」


 そこかい!


 私が期待して聞いてみたんだが、予想の斜め上の回答をいただいた。

 解せぬ。


「まあ、とにかくそういうわけなので、ばいちゃ!」


「うんうん、ばいちゃ!」


 私はレイの部屋を出る。

 なぜ、二人ともこんなにテンションが高いかといえば、私たちはしっかりと魔法でその点対策済みなのである。


 つまり、すでに魔法で思念をつなげることができるようにしておいたのだ!


 まあ、いつでも連絡が取り合えるってわけね。

 だから、離れ離れと言ってもそんなに悲しくない。


 形式上、挨拶しただけで、私がやろうと思えば、転移して会いに行くこともできるので、問題はない。


 ということで、私は挨拶を済ませ、荷物の整理に取り掛かる。


 荷物の整理といっても、大して大変ではない。

 なぜなら空間に収納………インベントリにぶち込んでしまえばいいだけなのである。


「んなわけで、さよなら!」


 廊下に出て大声で叫んで、私は屋敷の外に待機している馬車に向かっていく。


「そういえば、殿下………シュラウルだっけ?ロイドだっけ?どっちでもいいけど。手紙をそろそろ書かないとなぁ」


 シュラウルというのが、名前でロイドっていうのが称号?だったような気がする。


 王家というのは案外単純なものではない。


 王家に所属するものは、なんらかの武勲を立てて、称号を得る必要があるのだ。

 多分権威の問題だけど………。


 でも、子供は武勲を立てることなんてできないため、父親の称号を借り受けるのだ。


 それで、武勲を自分で立てて返却するといった流れらしい。

 っていうわけで、ロイドっていうのは名前ではなく父親、現国王の持つ称号であると言えるだろう。


 ロイドって称号はどんな意味があったかな?


 ナイト………騎士がどうのこうのだった気がする………。


「ま、いっか!」


 いつの間にか馬車についていた。

 そして、ミサリーに挨拶をして、私は馬車に乗り込むのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「いっちゃったぁ〜」


 私はその場で寝っ転がる。


「いくらなんでも早すぎでしょ」


 もう少し………後数日くらいは一緒に遊びたかったな、と若干引き留めれば良かったと後悔する。


 でも、これでいいのだ。


「迷惑をかけたくないし、どうせすぐに会話できるんだし」


 交換した思念………そこにベアトリスの魔力を感じる。


「魔力の波動強いんですけど」


 性質の問題?


 わからないけど、私の魔力の強く反応を示している。


「ふふ、やっぱりすごいなぁ。ほんとびっくりだよ!」


 面白いことに、力が増したような気がする。

 もちろん私の。


 なんとなく、私の今の実力が増した。

 というわけではない。


 ただ、才能が増したような気がした。


 詰まるところ、才能の限界が増したような感覚である。


 人には限界がある。

 それは子供ながらにも全員が理解するものだった。


 他種族との差異の限界をいやというほど叩き込まれる。

 その限界が、今なくなった。


 なくなったというわけではないのだろうが、限界値が上昇しては手が見えなくなったのは確かである。


「ほんとに化け物じゃん……」


 そういうところが好きなんだけどね。

 きっと、ベアトリスの方が私よりも才能があると思う。


 人の才能限界を取っ払う“性質“なんて聞いたことがない。

 が、実際に彼女は自身の限界すら遥か先にしているはずだ。


 だって、私ですらこんなに限界がとっぱらわれたのだ。

 本物の彼女の魔力が体に満たされた時、その限界はどこまで広がるのだろう。


「でも、結局は違うんだな〜」


 重要なのは魔力云々の話ではない。

 いかに彼女が優れているという話ではない。


「重要なのは、知識………記憶だよね」


 彼女の言動には時々おかしいものが見受けられたのだ。

 何が言いたいのかといえば、彼女の言葉には真実と嘘が混同しているということ。


 例えば、私にこの病気についてだ。


 彼女は私の病気のことをアルビノと呼んだ。


 だが、それは私の“記憶“にない。

 私の魔力の性質は“記憶“。


 私は一度見たものは絶対に忘れない。

 だからこその魔法である。


 術式を一度本で読めば記憶できる。

 だから、一般人からしてみれば才能豊かに見えるだろう。


 魔力に頼っているだけで私自身は才能なんてない。

 そして、彼女は私を試すかの如く、本などを読ませずに魔法を教えてきた。


 みたものを全て記憶できる。

 だが、内包された魔力の流れまでは読み取れなかった。


 つまり、私の才能の限界が垣間見られてしまったのだ。

 だから、魔力を分けて思念を繋げてくれたのだろう。


「もう、余計なお世話なんだから………」


 話が逸れてしまったが、アルビノという病気はそもそも存在しない。

 なぜなら、家の本を全て読破している私が読んだこともないのだ。


 この家には、この国で一番多くの本が集まっている。

 これは国王にも認められていて、王宮に保管されている本よりも多い。


 歴史もそれなりにあるため、病気に関しても様々なものが書かれているのだが………。


「読み直してみたけど、やっぱないんだよね」


 昨日会いに行った時にクマができていたのはそういうことである。

 元々寝てなかったので、日中寝るという生活リズムを崩して探ってみたが、やはりなかった。


「やっぱり何か隠してるよね」


 ベアトリスが何かを隠しているのは、わかっている。

 だが、それでも私は気にしない。


 なぜなら、私たちは友達だから。


 いつか、親友となって、話してくれることを私は待ち続ける。


「待ってるからね、ベア」

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