第36話 指導する

「うわあああああぁぁぁ!」


「ちょっと、レイうるさいわよ!」


「そんなこと言ったってぇぇぇ!」


 全く、レイナと戯れあっていた時のあの強さは一体なんだったのだろうか。

 まあ、あの魔法を見た後だと、こんな叫んで取り乱すようには思えないのも仕方ないといえば仕方ないのでは?


 え?


 どうして、レイが叫んでいるかって?


「ちょっと、なにがそんなに怖いのよ?」


「高いとこ無理いいいいいぃぃぃ!」


 だ、そうです。


 現在上空、約二百メートル地点を飛行しております。


 まあ、レイは私の上に乗っているだけなんだけどね。

 そう、今現在私は大鷲になって、上空を飛んでいるのです!


 なんでそんなことをしているかと言われれば、訓練だろう。

 もちろんレイの。


「ほら、なんか変身して見て」


「いや、無理だから!」


 現在は上空にて変身魔法を使用する練習をしている最中なのだ。

 なんでかは知らないが、いまだに変身魔法を使えていないレイ。


 どうすれば、使えるようになるのかと思案した結果、とりあえず私のお手本を見せるという結論に至ったわけで……。


 私が大鷲に変身して、空を飛んでいるというだけである。


「なんで使えないんだろう?」


「失礼だけど、ベアトリスちゃんの教え方が悪いんだと思うんだけど!?」


「そんなことないわよ、失礼ね」


「いや、あるでしょ!?『こうやって、シューん!みたいな?』じゃわかんないよ!?」


 解さない。


 そんなことはないはずだ。

 私だって、思いつきでできるようになっただけなので、特にこれと言ってコツとかわからないわけで………。


「ま、頑張りなさい」


「無理!」


 う〜む、でもどう指導したらいいものか。

 正直に先生の才能はない。


 なにを教えるにしても、私が理解できるやり方でしか教えられないからだ。

 そう考えると、レイは別の方法の方が分かりやすかったりするのだろうか?


 でもなぁ〜。

 結局、このやり方しか私わからないんだけど。


 誰かがやってるのを真似すれば、紛い物なれどできるはずだ。

 何しろレイの方が魔法の才能があるから。


 私ってば、天性の才能………つまり適正職業は魔術師でも魔導師でも魔法使いでもない。


 職業にも色々あるのだ。

 魔術師と魔導師でいえば、魔術師が出世したら魔導師、みたいな?


 ナチュラルに言っているけど、魔術師が魔導師になるにはとてつもない訓練が必要みたい。


 まあ、私には一生縁がないけど。


 天性の才能が魔法ではない私がここまで覚えられるのだから、レイにできないはずがないのである。


 つまりーー


「真面目にやってる?」


「やってるよ!」


 怒られてしまった。

 えぇ、どうしてできないんですかぁ?


 決して煽ってはいない。

 決して……。


「う〜ん、こうするかなぁ?」


 一応試行錯誤しているレイ。

 どうせなら私は空の旅を満喫するとしよう。


 一面に広がる青い空!

 なんて清々しいんだろう!


 いやぁ、私が前世で死んだ日は思いっきり曇ってたんだよね〜。

 だからか、案外こういう何気ない光が嬉しく感じる。


「いやぁ、いいもんですなぁ」


「うぇ?なんかいった?」


「なんでもなーい!」


 上空にいるせいか、声がかすれて、そこまで聞こえないらしい。


 外の光に気を取られているだけかもしれないけど。


 そんなことを考えているとーー


「え?あ、ベアトリスちゃん!前、前!」


「え?」


 視界から若干外れた位置に目を向けて首の角度を戻す。

 そこには、私と同じくらい………それ以上の大鷲がいた。


「はぁ!?なんでここにいんの!?ってか、こっちくんな!」


 大鷲が私たちに向かって突進してくる。


「わ!?もう少し、ゆっくり動いてよ、ベアちゃん!」


「うっさいなぁ……これ以上は無理なんですけどぉ?」


 嫌味ったらしく言い返して、その場を乗り切る。


 相変わらず、大鷲の突撃は続いて………。


 思わず、私が体勢を崩してしまった。


「しまっーー」


「あああぁぁ!」


 体の上にあったはずの重量がなくなり、体が軽くなる。


「あ!レイ!今助けるから!って、お前は邪魔だ!」


 大鷲は一瞬人間に戻った私の蹴りをくらい、たちまち逃げていく。

 再び、大鷲に変身する。


「レイ!もう少し頑張って!」


「そんなこと言っても!」


 そこで再びくる大鷲の突撃。


(なんでさっきので逃げないわけ!?)


 またまた体勢を崩す。


「あー、レイ?もうちょい頑張って?」


「えええぇぇ!?」


 落下していくレイ。

 元々、アルビノだったこともあり、余計に肌が白くなる。


 そして、日光が苦手な彼女にとって、上空はかなり辛い場所だったろう。

 私もそれがわかっていたから、低空飛行していたわけだけど。


 だから、体力もそんなに残ってないと思われる。


 だが、やるしかないのである。


 大鷲が振り切れない私は、満を辞して叫ぶ。


「変身!変身して!」


「でも………」


「大丈夫!レイならできるから!」


「もう、どうなっても知らないんだからぁぁ!」


 レイが再び、魔法を行使する。


 さっきまでなら淡く光っておしまいだったが、今回は違った。

 その光が全身を包み込み、直視できないほど発光する。


 そして、その光がどんどん縮んでいきーー


「で、できたー!」


「よっし!レイは先に降りてて!日光があたらなさそうな場所に行って!」


「わかったー!」


 先ほどとは打って変わって上機嫌になっている様子の“スズメ“。


 なぜ私が変身していた大鷲ではなく、スズメになったのかはさておきーー


「ちょっと!そろそろやめろや!」


 再び人間に変身して、今度は大鷲の上に乗る。

 そしてーー


「どりゃあああぁぁ!」


 重たい拳の一撃。

 その衝撃で大鷲は真下に墜落していく。


「よし、レイはどこ言ったかな………あ、結構ほぼ下か」


 大鷲が落下してくるとは思うが、レイなら大丈夫だと信じ、私はゆっくりと降下する。


 冷たい空気が徐々に温暖な空気へと変わっていき、ついには真下にあった森の中に入り、地面に足をつける。


 訂正 地面ではなく大鷲の上


「ふぅ。なんとかなったわね」


「なんとかなったわね、じゃないよ!死にかけたんですけど!?」


「叫べるようだから問題ないんじゃない?」


「それとこれとは話が別じゃあぁ!」


「まあ、まあ。とりあえず、変身はできたから許してよ」


「ほとんどこの大鷲のおかげなような気もするけど………?」


 私の下でぐったりとしている大鷲。


「私のおかげでしょ?」


「………そういうことにしとく」


「そ、あんがと。で、いつになったら人間に戻るわけ?」


 ずっと、思っていたがスズメになったはいいものの、一向に人間の姿に戻ろうとしないレイ。


 確かにさっき初めて成功したばっかりだし、スズメが好きなのかもしれないけど、そろそろ一回くらい戻ってもいいのでは?


 正直、変身中は魔力をかなり消耗するので、レイや、私でないと、すぐに使えなくなってしまうだろう。


「いや、戻り方わからないんだけど?」


「え?教えなかった?」


「あの、擬音語を教えたとカウントしてるの?」


「うん」


 なぜだろう。

 目の前の雀がため息をついている気がする。


「これどうやったら戻るの?」


「う〜ん、戻れないのであれば、魔力無くなるまで変身していたら?」


「ちょっと、それ死んじゃうじゃん」


 魔力欠乏症


 それは、魔術師とかでもなくても死活問題になってくる。

 魔力が体から無くなるというのは血が全身から抜けるようなもの。


 今の時代、魔力が体から無くなれば、体の機能が著しく低下し、最悪機能不全を引き起こす。


 あとは言わなくもわかるだろう。


「冗談、冗談だって。普通に体の遺伝子の改変を魔力で促して、その魔力を操作して元の体を作り直せば?」


「え?」


「え?」


 なにを驚いているというのだ。

 私がこんな真面目に答えているというのに。


 そして、レイの体が再び淡い光に包まれ、体が元の大きさに戻る。

 人の姿に戻ったレイが私に向かって最初に放った言葉がーー


「最初からそう言って教えればよかったんじゃ………?」


「……………あ」


 ーーこの後、レイに説教された。

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