第40話 謁見する

 次の日ーー


「ベア、もうすぐだぞ」


「うん、わかってる」


 私は馬車に揺られながら、外を眺める。


「そういえば、ベアは王城に来るのは初めだったな。どうだ?」


 いや、どうだと聞かれましても………。

 私、昨日もここにきたし、なんなら前世から何回も言っているからもはや見慣れてしまっているんだが?


 それに、前世は殿下と婚約が決まってここの近くの別荘に住んでいたぐらいなんだが?


 そんなわけで、私は王城にやってきている。

 そして、先に言っておくと私はものすごく不機嫌である。


 こないだ………というか昨日、苦労して歩いたこの長い道のりをこんなに楽に渡れるなんて………。


 私はどれだけ頑張って隠密行動しながら行ったと思ってるんだ!

 まじで、ひどい。


 いや、ほんと苦労したんだが?


 まぁ、私が魔法を使うのを忘れてたからここまで苦労したわけだけどさぁ!?


 だって、私のオリジナル魔法じゃないと阻害されちゃってさ?

 既存の魔法だと、結界で阻害されてしまうとは誰も思わないでしょ?


 まあ、インビジブル状態……透明化するオリジナル魔法はなんとか使えたから王城に侵入する直前で気づけたから良かったものの………。


 スパイ活動する人には必須と言っておきながらも、実は私が作ったんだよねぇ!

 すごくない?


 それはさておきーー


 それまでは、純粋に見つかりそうになった瞬間に物陰に隠れたり、脚力でどうにかしたりとかなり頑張った。


「よし、もう少しで到着だから、準備をしておくんだぞ?」


「わかった」


 まあ、なんだかんだ侵入ルートは探れたからよしとする。

 私みたいにオリジナル魔法で透明化すればどこからでも侵入可能。


 特に地下から侵入できるような形跡はなかった。

 というわけで、オリジナル魔法対策!


 まずは、私が結界を張ります!


 そしてその結界を少々改造いたしましてーー


 魔法の絶対遮断!


 を付与しましてーー


 ま、これでいいでしょ。


 と、今さっきしたわけですが………機嫌が悪いのと相まってかなり疲れた。


 私もこの中では魔法が使えないため、本気は出せないが十分だろう。

 ここには近衛もいるのだ。


 私が心配しすぎる必要はない。

 それに、個人的には私とその家族さえ狙われなかったら後はどうでもいいというかぁ?


 いまだに前世が抜け切れていないのか、考え方を非情に切り替えることができてしまう。


 あれだ。


 前世では非情モードが常にオンだけで、今世はオンオフ可能になった感じ。


 ある意味では便利になった、気がする。


「よし、ベア。私が先に歩くから、お前もついてきなさい」


「わかりました、父様」


 だが今はそれをオフにしてある。

 ここは社交の場。


 真面目になりきるのだ。

 ほんとは普段の私でいたいけど、さすがにここで砕けた口調になるのはいかんのですよ。


 そういうわけで、私は馬車を降りる。


 父様は迷いなく王城の入り口に入っていくので、私もそれに続く。

 昨日も来たので、ルートは確認済みだ。


 謁見室というのは、玉座の間である。

 その玉座の間には前世に行った記憶がある。


 同じように、私を連れて父様が行ったのだ。

 その時の記憶を辿れば、おそらく最上階だろう。


 そして、私は階段を登っていく。

 なぜ、階段から登るのかといえばーー


 “なぜか“転移装置が故障してしまったらしい。


 いやぁ、ほんとなんでだろうねぇ?


 そんなわけで自業自得ではあるものの、なんとか最上階まで辿りつく。

 最上階といえど、結局は数階上というだけで、普段から体を鍛えている私にしてみれば、たいした距離ではない。


 父様の方はというと、汗一つかいていない。

 流石というべきか。


 王族………王弟なだけあって、厳しい教育をされてきたのだろう。

 その鍛え上げられた肉体と知識が父様が優秀な公爵家である所以なのだ。


 お兄様たちもこんぐらいになるのかな?

 一番下の三男のお兄様は、できればそんな風にはなって欲しくないな。


 理由は私にかまってくれそうにないから。


 忙しくなっちゃうからね。


 次男の方は………あれはあれで可愛いんだけど、もうちょっと痩せようねって感じ。


 いや、可愛いんだよ?


 ぷよぷよしてるから。

 抱きついたら、幸せになれそうだが、健康とは変えられないので、痩せてもらうしかない。


 ちなみに一番上の兄様には会ったことがない。

 学院に入ってから、成人し、さらに“大学院“なる専門教育機関に通ってから何処かの家に婿入りしたとかなんとか?


 それから一回も帰ってきてないみたい。

 故に私はあったことがないのだ。


 っていうか、家族の顔全員知らないって絶対おかしいよね………。


 と、考えているうちに謁見室………玉座の間への扉が開く。


 ギィという重低音が響き、白い光が中から差し込む。

 そこは廊下よりも一層綺麗に輝いており、埃などは一切見当たらない。


 無駄に広いというべきか………とんでもない数の人が中に入れそうなほど広い空間にはメイドさんたち、騎士何名、そして、殿下と国王。


 これだけしかいなかった。

 って、殿下もいるのか。


 これは少々気まずい予感。

 文通相手に久しぶりに会うって嬉しいとかよりも緊張だったり恥ずかしかったりするのだ。


 経験者、絶対いる。


 ま、私の場合は殿下の何から何まで知っているから関係ないんだけどね!


「国王陛下、参りました。公爵家が当主、アグナム・フォン・アナトレスにございます」


「うむ、くるしゅうない。知っているかと思うが、ステイラル・ロイド・フォン・ネイルである」


 よくわからないが、王族限定で、苗字が先に来るらしい。

 私のフルネームは名前が先に来ることからそれがわかるだろう。


 王族であることを強調するためだと私が勝手に思っているのだが、今はどうでも良いことだ。


「っは!」


「と、それはいいとして」


 国王が口を開く。


「ふふ…………あはははは!なんだ、その喋り方は!」


「兄さんこそなんだ!『くるしゅうない』って!」


 いきなり場の空気が緩やかのものへと変わる。


(へ?何この空気?)


 国王との謁見ってこんなにゆるかったっけ?

 というか前世はもっとこう………硬かったし、こんなに柔らかくはなかった。


 これでは、せっかく私が真面目な表情を崩さずにいたのが、全て無駄ではないか!


 よくよく見ると、殿下もキョトン顔をしている。

 メイドさんたちはうふふと笑い、騎士様たちはといえば、はぁ〜、とため息をついている。


「まあ、いいか!」


「それもそうだな、弟よ!」


 何か二人で意気投合したのか、いったん笑いを抑える。


「お前は、ベアトリス、だったな」


「っは!」


 私はすぐさま跪く。

 どうやら前世の感覚は抜けておらず、絶対的な支配者を前にすると、どうしてもこのような態度になってしまう。


 少々、場違いな気もするが、こうなってしまうのでそこはご了承………。


「そう固くなるな、もっと砕けた会話でいいのだぞ?」


「僭越ながら申し上げますが、貴方さまはこの国の王であり、私は一介の配下でしかありません故に、この態度をどうかお許しくださいませ」


「う、うむ。まあ貴殿がそれでいいというのであれば、いいが?」


「はっ!ありがたき幸せに存じ上げます」


 顔を上げて感謝を告げる。

 その様子を見ていた国王は何やら父様と目配せしているようだが、気にしないでおこう。


 それに、殿下。


 その表情はなんですか?


 信じられないものを見たという風な表情をしている殿下が視界に入ってくる。

 それだけではない。


 昨日お風呂にいたメイド軍団。

 この人たちは感心した様子でーー


 騎士様は驚いている人が大半を占めていた。


(え?何、私何かやっちゃった?)


 確かに子供だからこんな丁寧だと驚くかもだけど、言葉遣いも所々間違っていたし………。


 礼儀作法はしっかりとできていたはずだがーー


「そうか、ではベアトリス。聞きたいことがあるのだがいいかね?」


「はい!なんなりとどうぞ!」


 跪いた状態で、私は体を引き締める。


「まず、一つ尋ねたいのだが………貴殿は強いかな?」


「強い?………いえ、私など『雑魚』だと愚考いたします」


「ざ、雑魚……」


 今度は国王が殿下………自身の息子に目配せしている。


(何がしたいんだ、この人たちは?)


「おっほん!それはいいとして本題に入らせてもらう」


 お?


 ここからが本題のようだ。


 今度こそ私は体を引き締め直す。


「“八咫の雲“という組織を潰したのは君かね?」

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