第31話 逃げ道はどこだ

「おそらくこの近くに、“霊体“がいるはず………」


 ちょっと待って。

 今、ものすっごい単語が聞こえたような気がするんですけど!?


 霊体という単語が聞こえた時点で、もうやばいやつだと確信してしまった私。

 いや、なんでそんな単語が口から出てきますの?


 私はまだ霊体なんて操ったことないので、多分そのお嬢さんに勝つことはほぼほぼ不可能だと思うのですが………。


 そもそもの問題として、霊体にダメージって通らないと思うのですが?

 それよりも驚きなのが、霊体を操れる子がいるということだろう。


 どんなことをしようと思い立ったら、霊体を飛ばそうなんていう考えに至るのだろうか?


(あ、でもそういえば、辺境伯の娘さんには体が弱い子がいるとかいないとか……………)


 それならば納得がいく。


 少し動くだけで、体に激痛が走る………なんて、激しいものではないものの、死人のように肌が白く色素が抜け落ちていて、体調を崩しやすいというだけであるようだが、リュース辺境伯にとっては一大事なのだろう。


 それって、ただの眼皮膚白皮症……………アルビノであるだけなのでは?


 ただのといっても、症状が出るのはごくわずかな人に限るが


 私は病気に詳しいわけではないが、多少の知識くらいは頭に入れている。

 メラニン色素が足りず、全身が白色調になるやつでしょ?


 先天性症状で非進行性なのが幸いだろう。


 ただ、症状的には視力の低下とかかなり面倒そうだと思う。

 視力がかなり低くなる……………とは言っても個人差があるし、私からは結局なんともいえないんだけどね…。


 病気にかかりやすいというのは、皮膚の病気のことかな?

 それだったら、やっぱりこの病気で間違いない。


「あの、リュース辺境伯。その霊体を操っているのは体が弱いというーー」


「そうだ、かわいそうなことだ。だから、暇つぶしに本を読ませていたんだが、いつの間にか魔術書を全て読破していたようだな」


 諦めてような乾いた笑いが辺境伯の口からもれる。


「どんな症状なんですか?」


「ん?」


「あ、いえお気になさらず………」


「いいとも。視力が低下していることが第一に………皮膚病のリスクも高いということくらいしか私からはいえないな」


「羞明や眼振といった症状は?」


「あると思うぞ?」


 やっぱり完全アルビノじゃん!


 それだったら、治し方は知らないが気をつけるべきことぐらいは記憶している。

 前世の医療知識に感謝する。


「えっと、それってアルビノですよね?」


「む?“アルビノ“とはなんだ?」


 はぁ!?


 この人医療知識全くないの?

 貴族として一応必修科目のはずなんだけど?


「眼皮膚白皮症です、知らないんですか?」


 私が若干軽蔑したような眼差しを向けようとするがーー


「ああ、知らない!是非とも教えてくれ!」


「……………」


 あ、開き直る方針でいくんですねはい。


 私はその症状と、対策を辺境伯に伝える。


「お、おぉ………これで娘も外に出れるのだな!?」


「あ、はい。私の記憶が間違っていなければですが………」


「おぉ、神よ………」


 この人反応がいちいち大げさなんだよね。

 別にこれぐらい貴族なら知ってると思うんだけどな〜。


「あぁ………っと、いけない。失礼したベアトリス嬢」


「あ、いえお気になさらず」


「それにしても君は物知りだな。いったいどこからその知識を見つけたのかね?」


「それはーー」


 前世の記憶ですとは流石にいえないな………。


「えっと、家にあった本で読みました!」


「そうか、そうか!アグナムは医療に関しての本もおいていたんだな!」


 視線が父様に集まる。

 すると、父様は一瞬口籠ったが、すぐに『そうだ』と正解の意を述べる。


 これで、一応その霊体少女は外にも出れるようになったと!

 いやー、人助けする恩を売るのは楽しいな〜!


 これで、私の脱出計画がまた簡単になったわけである!


(でも結局は………)


「お?いたようだ」


 霊体少女と戦わなければならないんだなーこれが。

 頼むから、解決方法提示してあげたから見逃してはくれませんかね?


 そして、私の嫌な予感はいまだ現在進行形で感じている。

 ってことはーー


「おーい!レイナー!」


 ですよネー!


 ヴェールさんときたら今度はレイですよね!

 そうくるとはなんとなく思ってたよ!


「はーい!父様ー!って、あれ?ベア……ちゃん……さん……様も!」


 言葉詰まりすぎでしょ!

 と言いたいところだが、家の中にいるのであれば、社交界に出たこともないだろうし、今回はしょうがないということにしといてやろうじゃないの!


「なんだ、ここも知り合いだったのか」


「あの、一つ質問なんですが………」


「なんだね?」


 私の必殺“話題逸らし“!


 これでどうにかーー


「アルビノの割に髪の色彩豊かすぎません?」


「あぁ〜!えっとね、霊体だから自由自在に操れるの。だからこんなふうにーー」


 髪の色が変化し、青紫色に変化する。


「レイナさんの色!」


 レイナってそんな髪の色だっけ?

 もっと濃かったような………。


「へー、そうなんだね。というわけで、じゃあーー」


「手合わせをしてもらうとするか」


 勝手に話を被せないで!

 逃げ道が再び途絶える。


「手合わせって?」


「あぁえっと、私とレイで手合わせをすることになったらしい………嫌なら断ってくれてーー」


「いいよ!」


 元気よく返事をするレイを尻目にわたああしは軽く絶望していた。


(いいや、まだだ!私がわざと負けてしまえば!)


 レイの方が私よりも強い可能性だってあるのだ。

 だから、きっと大丈夫なはず!


「レイ!思う存分私をいたぶりなさい!」


「え?それはちょっと……」


「言い方が不味かったね。思う存分痛めつけなさい!」


「あんまり変わってないよ!?」


 そうして戦いのゴングは鳴った。


 わけなんだけど、これってどうすればいいかな………。

 魔法で相手を傷つけるというのは剣よりも危険な行為なのだ。


 剣であれば、多少の切り傷程度で済むかもしれない。

 無論、大怪我をする可能性もあるわけだが、魔法と比べてら、模擬戦の難易度はグッと下がることだろう。


 魔法は一歩間違えれば即死のデスゲームである。

 火魔法を使うとしよう。


 それがもし、被弾したらそこでほぼ確実に死ぬ………もしくは重体。


 水魔法なら比較的安全だが、窒息しかねない。

 他系統も同様に一発当たればほぼ確実に死というのが現実である。


 人間なんて所詮をそんなものだと、魔法使いは皆わかっているため、むやみやたらに魔法を行使しない。


 それがレイもわかっているからこそ、私に攻撃できないで、両者見つめあった状態になっているわけだけど………。


 そんなことなど知らない、魔法使いでない二人からすれば、今ここに重たい空気が流れているのは嵐の前触れとでも思っているのかもしれない。


(私が先に攻撃する?でも、そしたら攻撃できないでいるレイをいたぶっているみたいで気分悪いのよね)


 つまりどうするか………。


 そこが問題である。


 先手を取るというのは私の勝率が上がってしまうということでもある。

 それではダメなのだ。


 だからと言って、このまま何もしないと試合が始まらない。

 二人もそれをただ黙って見ているとは思えないため、私かレイに魔法を使わせようとするだろう。


 そんな賭けには出たくない………。


「どうしたの、レイ?かかってきなさい!」


「うぐっ!」


 どうにか、言葉で考える時間を引き伸ばそうと思い、少々威圧する。

 だが、どうしてかな?


 まだ攻撃していないにもかかわらず、レイがダメージを負っているようなんですけど?


 私ってそんなに怖かった?


 って、そんなのはいいんだ。

 どうしよう………余計不利になった気がする。


 何かいい逃げ道はないのか………。

 ーーそこで私は“アレ“を思い出す。


(これならいける?やるしかないかな………絶対疑われるけど………)


「攻撃してこないのね?」


「……………」


 だったら、もう取る手段は一つである。

 この方法であれば、父様たちとの戦っている姿を見せ………られてはいないが、約束は守ったことになり、かつ!


 レイも傷つけることがないだろう。


(もうこうするしかないんだ!)


 私は意を決して言葉を絞り出す。


「そう、わかった。じゃあーー」


「!?」


 手を振り上げた私はその“魔法の呪文“を放つ。

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