第30話 もしかして詰んだ?

「ーー頼みがあってだな。少し、ベアの戦っているところを見せてほしいのだ」


「え?」


「ダメか?」


 いや、別に嫌ってわけじゃないけどさ………。


(これって、まずい状況?)


 あの、私ってさ、実際の戦っている姿は基本的に誰にも見せないようにしているんよ。


 見せたらいろいろと面倒なことになりかねんのだよ。

 無理に隠そうとしているわけではないけど、あまり見せたくはないというのが私の心情である。


 主な理由としては、この国の徴兵制度にある。


 徴兵制度とは、簡単にいえば戦争時に行われる、兵を領民から集う制度である。

 戦争においては、数がものを言う。


 いくらその一人が強かったとしても、数の暴力の前では守るものも守れず、攻めるものも攻めきれない。


 数を多く揃えるために弱くてもいいからちょっと戦争行ってくんね?


 って言う、死の宣告だ。


 そして、徴兵対象には貴族も入る。

 力の強い人物は国王でなくても、地位が高い権力者などに徴兵されることが多々ある。


 私が力あるとは思わないけど、ここでもし才能あるんじゃねこいつ?


 みたいな風に思われちゃったら、私の計画にいろいろと支障が出る。


 一つ目


 私の家出が妨害されるかもしれない


 二つ目


 学院の初等部に入れられる可能性もある


 一つ目に関してはまじでやめてほしい。

 有能な人員を逃さんと、上層部連中が乗り出してくるかもしれない。


 自信過剰だとは思うけど、今までの経験上私レベルの五歳児ってレイくらいしか知らない。


 五歳かは知らないけど、少なくとも普通の大人よりかはまともに戦える。

 心が私みたく成長していないからレイは多分徴兵されない。


 っていうか、子供は使える人材でなければ徴兵なんてされない。

 使えるというのは戦場で怯えないという意味もある。


 まあ、私の場合は普段の立ち居振る舞いで、肝は座っていると思われていることだろうから多分、私の場合は徴兵される。


 そこそこ強くて、肝も座っていて、貴族家の娘というのが少々ネックだが、徴兵しない理由はない。


 別に権力者というのは貴族だけのことを指さない。

 故に私のことをなんとも思っていないような連中はいくらでもいるというわけだ。


 二つ目に関していえば、なんとかなる。

 私が悪役ムーブをかませば、どうにでもなるだろう。


 ただし、学院を追放されたと、地位とかいろいろな人との関係が全て崩れ去るけれど………。


 だが、だからといってそれをやりたいわけではないのは、わかるだろう?

 前世の私なら喜んでいたかもしれないけど、今世ではそんなことない。


 人間関係に関しては悪くなるのは別にいいんだ。

 ただ、そのせいで多方面から変な噂をされると面倒なのだ。


 別に人間好き嫌いあるからしょうがないんだけど、私情で私の人生を終わらせるのは是非ともやめてほしい……………。


 というわけで、できることなら二つ目もやめてほしい。


「嫌なら嫌と言ってくれていいのだぞ?」


「いえ、やらせてもらいます」


 だからと言って、私に反抗する権限はないのだ。

 前世では、親孝行がそんなにできなかった私。


 今世でもそうなるだろうけど、それまでに少しだけでも父様の描く“いい子“になりたいという思いが私の思考を邪魔してくる。


 “嫌だ“というだけで、すべての可能性をゼロにすることができるが、私にその選択をすることはない。


「そうか、では領内にある訓練場まで一緒に来てくれるかな?」


「え?」


 リュース辺境伯が私に向かってそう言葉を放つ。


(え、待って待って?領内の?訓練場って………)


 いや、きっと気のせいだろう。

 私の予想が正しければ、私が行ったことがある場所だが、きっとそんなことはないだろう。


 だが、きっと違うだろう。


 私はそれを信じて、二人についていく。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 そんなことを思ってた時期が私にもありました………。


「おお!さっきの嬢ちゃんじゃないか!またきたのか?」


「「ん?」」


 二人の視線が私に向かう。


「いや、きっと気のせいですよ!ほら早く中入りましょう!」


 私は二人を抜いて先に進んでく。


「それで、私は何をすればいいのですか?」


 ついてきているであろう二人に向かって、振り返りがながら問う。


「ああ、私の娘と戦ってもらおうかなと思ってな」


「娘…………ですか?」


 娘ってことは私と同じような年齢なのだろうか?


「十五になるのだがーー」


 全然違った!


 わたしと十歳差もあるじゃないの!

 いや、さすがに私のことを過大評価しすぎである。


「それで、その方は今どこに?」


「ああ、ここで訓練でもしてるんじゃないか?」


 いや、居場所知らんのかい。

 娘の居場所知らんとか、どんな放置教育や。


「お?いたぞ」


「?」


 二人の視線の方向に私も視線を向ける。

 そこにいたのはーー


「あ、ヴェール……………さん?」


 嫌な予感がする。

 いや、きっと周りにいる人たちの誰かだ!


 きっとそうに決まってーー


「おーい!ヴェール!」


 はい、乙でした帰ります!


 あざした、じゃねばい!


「どこにいくんだ?ベア」


 まあ、父様に見つかるんですけどね!


「いや、なんでもないですヨー」


 私はヴェールさんの方に向かう。


「おお!父上じゃないか!それとーー」


 私がヴェールさんの視界に入り、一瞬口ごもる。


「お嬢さん……………お嬢様もいるじゃないか!」


 そこ敬語にしないで!

 気まずくなるから!


「む?もう知り合いだったのか?」


「ああ、すまんすまん。言い忘れていたんだが、今回の旅で護衛につけたのが彼女だったんだ」


「そうだったのか、それは都合がいい。だったら早速やってもらおうか」


「何をですか、父上?」


 あぁ、話がどんどん進んでいってしまう………。


「少し模擬戦をして欲しくてな」


「模擬戦………ですか?」


 ヴェールさんが苦い表情になる。

 ああ、もうほんとすみません………勝手に試合終わらせておいて図々しいですよね、できたら断ってほしい………っていうか、断ってくれません?


「すみません父上。もうすでに模擬戦はしてしまいました」


「む?そ、そうか」


 ナイスです!ヴェールさん!

 まじでありがたい!


 と、残念でしたねお二人さん!

 私は試合に“負けて“しまったので、さっさと興味なくしてください。


 結果を聞こうとするタイミングを見計らう。


「結果はーー」


「私の負けです!」


 食い気味すぎただろうか、三人とも驚いた表情をしている。

 だが、このぐらい強調しないと二人は興味を無くさないだろう。


「いや、でも見てーー」


「負けです!」


「しかし、この目でーー」


「負けです!」


「いやーー」


「負けです!」


「でーー」


「負けです!」


「……………」


 よし、これでいいだろう。

 そろそろ興味がなくなっただろう。


 自分の娘に負けた時点でそこまで使えないとな!


「いえ、決してお嬢様が負けたわけではありません!」


「何?」


 いや、口挟まんといてくれますかな、ヴェールさん!?


「私は本気を出して戦いました。得意なレイピアも使ったんです!」


「ほう?」


「それでも攻めきれませんでした………それに負けというのは、お嬢様が勝手に言っただけで私は決して彼女が負けたとは思ってーー」


「ストップです!」


 私は止める。

 やめてーや!


 その言い方だと、私が実力隠しているみたいじゃん!


「ほほう?」


 疑いの視線が私に集まる。


 待ってください誤解です!


 なんて言ってしまえば、最後、信じてくれなくなる予感がする。

 あれだけ、負けですと豪語してしまった手前下手にそれを口にすることができないのが憎たらしい………。


「Aランクにも届きそうな私の娘と互角とは………得意とするのは魔法ではなかったかな?」


「あ、えっとーー」


「確か、そう言っていたな」


 父様が口を挟んでくる。


(勘弁してください!)


 私の計画が………。


 と、そうしているうちに何かを考え込んでいたリュース辺境伯が顔を上げる。


「ふむ、今はベアトリス嬢のいうことを信じよう」


「え!?」


 ありがとうございます!

 一生ついて………はいかないけど、精一杯尊敬します!


「代わりにだが………」


 代わり?


 再び嫌な予感がしてくる。

 こういう時の間はだいたい当たるのが非常に残念なところ。


 今回もまたーー


「では、もう一人の私の娘とも戦ってもらおうか」


「あの、拒否権はーー」


「よし、では早速向かうとしよう」


 ……………。


 私の人生、もしかして詰んだ?

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