第13話 ミサリーのこれまで(ミサリー視点)

「え、えと、新番組!ミサリーのこれまでー!って、私は一体何をさせられているんだか………」


 誰もいない部屋の中で一人で壁に向かって話しかける。

 正確にはお嬢様の魔法の媒体があるのだが。


 媒体を通して、内容を記録できるかの実験らしい。


(誕生日プレゼント、何が欲しいか聞いただけなのに………)


 何が欲しいかと聞いたところ、実験に付き合って欲しいと言われ、提示されたお題が、私のメイドになる前のことだそうだ。


 冒険者をやっていたことはもちろん省かせてもらう。

 傭兵に一度誘拐されたお嬢様。


 傭兵に近しい、冒険者という職業を嫌っている可能性があるため、口にはできない。


 さらにいえば、嫌われてしまうかもしれないので、絶対に言うつもりはない。


 いやいや!

 でも配下として話しておかなければ!


 少しだけ内容を改変すればなんとか………。


(あぁ〜不安だぁ)


 何か違うことを考えなくては!

 あ、そうそう、ちなみに番組という言葉はある恩人に教えてもらったのだ。


(あ!このことで釈を埋めよう!)


 話す内容を決めて、私は息を吸う。


「えぇ〜っと、では話しますね、お嬢様」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「じゃあね、ミサリー」


「え、え?」


 いきなり、両親から家を追い出された。

 別に悪さをしたというわけではない。


(強くなれって、どういうこと?)


 うちの家系は代々?ある公爵家に仕えているらしい。

 だが、私はまだ公爵家に仕える条件を満たしてないらしい。


 だから強くなれだそうだ。


「…………とりあえず、冒険者組合いくか」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「登録が完了しました。何か依頼を受けますか?」


「はい、えっと簡単な依頼を受けたいんですけど……」


「では薬草採取の常設依頼でいいですか?」


「は、はい」


「森のほうにある薬草ですので、最低限の装備はしておいてくださいね」


 その声を聞き、私は組合を出る。


「はぁ〜。そういえば、森ってどこの話だろう?」


 公爵領の周りには獣王国との国境にある森と、反対側にある森の二つがある。


「適当にいくかな」


 私は獣王国側にある森………ではなく、その反対側にある森に行くことにした。

 反対側の森の奥には魔族領あるとかなんとか。


 西に獣王国、東に魔族、南に王国の王都、北には誰も入ることができないと言われている“凍てつく大地“というのが、この公爵領の立ち位置だ。


「魔族か〜。まあ平気っしょ!」


 この時私は魔族を舐めていた。

 魔族領に近づくにつれて魔物も活性化していくことを私は知らない。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 実験中の補足


「あ!魔族領の近くにある森なんですが、プロの冒険者チームでも、油断すれば死ぬとか言われるほど危険なんですよね。だから、あそこから帰還できたのは運がよかったですよぉ〜」


 私は話に入り込み、媒体の向こう側にいるであろうお嬢様に向かって熱弁する。

 お嬢様が私の熱弁に若干引いていることを知らずに………。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「この森、複雑ですね………帰れるかな?」


 後ろを向き、不安ながらも進んでいく。


「本当にこんなところに薬草が生えているのかな?」


 受付からもらった写本を見ながら、草花を見渡す。


「ここらにはなさそう………もう少し奥に行ってみるかな」


 その判断が間違っていたのかもしれない。

 私はそのまま奥に進んでいく。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「いやああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 私は逃げていた。


 たくさんの魔物から………。


 状況を簡単に話す。


 1 森の奥に入る


 2 魔物に見つかる


 3 逃げる


 4 他の魔物に見つかる


 そして現在。


(どうしてこうなるの!)


 ほとんど私のせいではあるのだが、納得いかない。


(間違って、ちょっと巣の中に入っちゃったりとかは許してよ!)


 追いかけてくるのは種類様々な魔物たち。


 人型のもの、獣型、狼とか。


 とにかく言いたいのはーー


「こないでええええぇぇぇぇ!」


 ということだけだった。


「わ!」


 私は目の前に景色を見て、足を止める。


「崖?ほんっと、冗談やめてよ!」


 崖に向かって叫ぶ。

 茶色の石部分が剥き出しになっているような一般的な崖になっている。


「や!ちょっと待ってって!」


 迫ってくる魔物たち、先頭に立っているのは、オークだった。

 名前と見た目しか本で読み、聞いたことはあったが、強さなどは全くと言っていいほど知らない。


(せめて弱点を知っていれば)


 知っていたとしても戦闘経験がほとんど皆無なので無意味に等しいのだが……。


 ついには、先頭にいたオークが私の前に進んでくる。


「こないでぇぇぇ!」


 思わず、私は手に持っていた護身用のナイフを投げる。

 だが、思いっきり振りかぶった衝撃で、私は態勢を崩してしまった。


「あーー」


 そこで私は終わりを予見した。


(できるだけ、優しく死にたい………)


 痛みを感じませんようにと祈りながら、落ちていく。

 私は落下していた。


 そして、浮遊感がなくなるのを感じる。


(あ、痛くない……楽にしねたかな)


 そう思って、ゆっくりと目を開けるとーー


「あ、あれ?落ちてない?」


 崖の途中で私は静止していた。

 そして、じきに腕に圧力を感じる。


 誰かに握られているような、握力を感じる。


「え?あ!ありがとうございます!」


 私は腕を掴んでいるであろう人物にお礼を言う。

 そして、上を見上げる。


(あれ?子供?)


 そこには私と対して変わらない身長の男の子がいた。

 ただ、人ではなさそうだ。


 正確に言えば亜人だろう。


 獣人族


 ライカンスロープとも呼ばれるそれは、人間を超える身体能力を持つと言われている。


 だからこそ可能になる芸当なのだろう。


 毛並みは一部変色していて、灰色をベースにオレンジがかっており、目の色は水色だった。


 そして、獣寄りの見た目をしているようだ。


 獣人族にも色々と種類がいる。

 人間に近しいもの、耳だけ獣の者もいれば、完全な獣型も存在する。


 そして、この子はと言えば、その中間と言えばいいのだろうか。

 顔から何まで薄い灰色がかった毛並みで覆われていて、その顔は獣を童顔化させたそれであった。


 耳もしっかりとついていて、どこからどう見ても獣人という感じだ。


(最近の獣人って特殊なんだな……)


 人を助ける獣人なんて聞いたことがない。

 ましては子供が………。


「ん?」


 私はあることに気づく。

 何かを一点に見つめているその子の顔が。


 私はその目線を辿る。


(あ!怪我してる!)


 血がとくとくと多れている部分が目に入った。

 いつの間にか、怪我していたらしい。


「美味しそう………」


「!?」


 待って待って待って!

 今なんていったのこの子!?


(美味しそうって言ってたよね!?」


「きゃあああああぁぁぁぁ!」


 私、本日二度目の叫び声を心の底からあげる。

 それに驚いたのか、掴まれていた手が離され私は地面に落下する。


「いて!」


 でもそれだけ。

 多少痛みはあったが、怪我は全くしていない。


 私は崖の下に落ちたのをいいことに、町があるであろう方向へと全力で駆け出していくのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「というわけで、私はその危険な旅が嫌になって、冒険者を速攻やめたわけです!」


 まあ、嘘ですけど!

 現在もちょくちょく顔出してますけど!


「まあ、最後のあの子供獣人には正直少しびびっちゃいました。だからか、獣人も結構苦手になりましたね」


 まあ、嘘ですけど!(二回目)

 曲がりなりにも命を助けてくれたのだ。


 美味しそうと言われたのは怖いが、それでも多少の愛着が獣人、並んで動物に沸くのは当然のことだった。


(だから、ユーリくん?ちゃん?にも触りたかったのにぃ〜!)


 悶絶を隠しながら、私は話を終える。


「では、お嬢様。実験は終了ですね。私は明日のお嬢様の誕生日のために、少し準備をして参りますので、それでは」


 そう言って部屋を出る。


 この夜にくすぐり事件が起きたわけだが、それはまた別のお話………。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「あぁ〜!絶対勘違いされたぁ〜!」


 一人で森の中悶絶する。


「いや、しょうがないじゃん!俺の主食が“血“なんだもん!」


 なぜそうなったのかを自分もわからないが、こればっかりはしょうがないと思って欲しい。


「あぁ………」


 人見知りが激しい俺としては、いきなり叫ばれたのは精神的にくるものがあった。


 しかも助けてあげた女の子に………。

 女子に叫ばれるのは男子に叫ばれるよりもなんか辛い。


 分かる人にはわかるだろう………。


「しょうがないけどさ………あの魔物の血でも飲むか………」


 自分は獣人。

 欲には忠実に生きる者。


 御馳走が大量にいることを確認すると、俺はその魔物たちの群れに飛び込んでいくのだった。

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