第14話 新たな獣生(とある獣人視点)
今日は特に何もない1日だ。
獣人の俺としては変わったような………普段の日常と何一つ変わらないものだった。
何の変哲もないただの日常だった。
だがーー
「侵入者………名乗れ」
人間が獣人の国……獣王国に侵入してくる。
だが、そこは国境線上のこの平原に入っただけで侵入者扱いというのはなんとも申し訳なく感じる。
だが、俺もまた獣人族なので、さすがに見逃すわけにはいかない。
今代の王は人間をものすごく嫌っているのだ。
先代の王は人間に友好的な姿勢を見せていたが、今代の王はなんらかの要因で、嫌ってしまったようだ。
「あなたに名乗る名前など存在しません。殺しますよ?」
「なんとも物騒な人間だ。こちらこそ、殺してやろう」
そして、戦いは始まる。
剣と剣が交差する。
火花が散って、辺りを照らす。
辺りは夕方のオレンジ色の光に包まれていた。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「っち!」
彼女は強かった。
公爵領の人間だろうが、冒険者でもここまで強い人物はいなかった。
Aランク冒険者でも足元に及ばないだろう。
Sランクは………こいつがSか?
「っぐは!」
自分の肩に痛みが走る。
鈍い痛みは、何度も押し寄せ、肩を中心に体が熱くなっていく。
「ふん、所詮は雑魚ですね。苦しまずに殺して差し上げますね」
「で、では最後に名前くらいは教えて欲しいものだな」
もちろん、俺は生をあきらめてわけではない。
まだだ。
まだ、打開策はある。
まあ、逃げ出せる手段というだけだが。
だからこそ、余裕の態度で相手をあおる。
情報を仕入れて、少しでも次回の戦いに有利に働かせるためだ。
会うことがあるかはわからないが………。
「ふん!私は今、すごい機嫌が悪いのですよ!私の仕えていた主人が今日処刑されてしまったのです」
「ほう………」
「だから私は今八つ当たりをしているわけですが………さすがに申し訳ないので、お礼に名乗らせてもらいますね」
そうして彼女が名前を口にする。
「私の名前はミサリーと申します。短い間ですがお見知り置きを」
そうして彼女ことミサリーは走ってくる。
俺も逃げるために、そのス・キ・ル・を発動する。
「『時間旅行タイムトラベル』」
「!?」
その瞬間、俺はその場から消える。
次はうまくやる。
今度出会う時は………必ず。
そうして意識は薄れていく。
♦︎♢♦︎♢♦︎
長い長い夢を見ていた気がする。
それはどちらかというと悪夢寄りのものだったろう。
俺の意識は覚醒する。
そしてそこはーー
「平原?同じ場所?」
全く変わっていない景色。
先ほどの激戦の中でも穏やかだった草花は今も咲き誇っていた。
「どういうことだ?」
俺が先ほど使った特殊なスキルは、特殊であるがゆえにさっきが初めての使用だった。
つまりは完全に何が起きるかわからないということである。
そして次に気になったのがーー
「声高い?」
あーうーと、声を鳴らす。
それはどう考えても、大人であった頃の自分よりも若干高かった。
元々が低身長で、声も高く時々女性に間違われることもあったほどだったが、今だけははっきりと自分は“子供“であるとわかった。
「ってことは、時が戻った?」
何が起こるかわからない。
わかっていたのは名前と簡単な用途のみ。
「判断は早計だったか」
俺はとりあえず、立ち上がってみる。
身長のせいか目線が低く感じる。
それはきっと気のせいではない。
そして、その後にとても重要なことに気づく。
「………服、着てなかったっけ?」
自分の体には灰色の毛が見えるだけで、自らの体に羽織るべき服が見当たらない。
さすがにこんなところを誰かに見られるわけにもいかず、とっさに木の後ろに隠れる。
「どうしてこうなった………」
顔を赤くしながら、俺は思考する。
が、いつもより頭が回らない。
若返った影響か?
脳の回転も遅くなっている気がする。
「と、とりあえず、服を着ないと………」
だが、そんなもの当然どこにも見当たらない。
「せめて尻尾で………」
自分の尻尾に意識を向け、前の方を隠せないか試すが………結果は察して欲しい。
「こんなのってないよ……神様ぁ」
嘆きつつも、俺はどうするか考える。
(まずは、服を作るところからかな?お金も持ってないから買うのも無理だし)
かといって、小動物から狩るわけにもいかない。
だから、魔物から毛皮を剥ぎ取ろう……そういう考えに至る。
だったら反対側の森に行くしかない。
ここには魔物があまりいない。
いるにはいるが、どれも巣に引きこもっていて、人を襲おうとしないので気が引ける。
そう思ったが、自分の格好を見て躊躇する。
「あうぅ………」
背に腹は変えられないか………。
「どうか誰もいませんように………」
元々が成人したての子供同然だったのだ。
羞恥心くらいは大人の人一倍ある。
そんな俺なのだ。
こんな苦行は二度としないと、心に決めたのだ。
♦︎♢♦︎♢♦︎
なんとか服を作ることに成功した。
どれも原始的なものだが、ないよりはマシであろう?
それを着込み、俺は安心して今後のことを考えることができるようになる。
「まずは、ここがどこか正確に把握しなければ」
場所はわかる。
が、時代が違う可能性もあるので、必須案件だ。
「ん?」
その時、近くから音がする。
その音はどことなく慌ただしく響いていた。
「近くに人がいるのか!?」
それもたくさんの魔物を引き連れて………。
俺の記憶と場所が一致するなら、ここにくるにはがけを超えなくてはならない。
つまり、こっちに来られないのだ。
ということは、その近づいてくる人間は死ぬことになるだろう。
だがーー
「そういうのは嫌いなんだ」
人間が嫌いというのは獣人全体の意見であって、俺個人は好感がもてた。
なぜかと聞かれたらなんとも言えないが、そうなのだ。
俺は助けに向かう。
森の間を駆け抜ける。
そこには案の定崖で立ち往生している女性がいた。
せいぜい身長は俺と同じくらいだろう。
「!?」
そして、その子は足を滑らせてしまった。
俺はとっさに体を動かす。
(ギリギリだったな………)
その子の顔を覗き込む。
どことなくどこかで見たような顔だが、きっと気のせいだろう。
そしてーー
「美味しそう………」
「!?」
あ、つい口が滑ってしまった………。
「きゃあああああぁぁぁぁ!」
俺はびっくりして手を滑らせてしまった。
だが、幸いにも死ぬほどの、大怪我するほどの高さでもなかったのが功を奏し、なんとか走っていられたようだ。
俺は一度崖を登り、魔物たちとは反対側に足をつける。
口を滑らせてしまったものの、なんとか助けることはできたからいいだろう。
俺の主食は血なのだ。
先に言っておく。
獣人にも色々の種類がいるのだ。
人間の肉を好むやつ。
同族の肉を好むやつ。
そして俺みたいなやつ。
そして、俺はお腹を満たすためと、ちょっとだけ八つ当たりをするため、魔物の群れに向かう。
俺は欲望に忠実なのだ。
だが少し計算外の事態が起きる。
「あ、まって?スキル使えないんですけど!?」
これは誤算であった。
全てのスキルというわけではないが、明らかにスキルが少なくなっていたのに今気づいた。
「あれ?これ結構まず状況?」
迫りくる魔物たち。
ざっと五十近くはいるが、今の状態で勝てるかはわからない。
スキルがあれば別だったが………囲まれているこの状況で使ってもあまり意味はなかっただろうけどね。
俺のスキルは防御に特化したものが多かった。
だが、集団リンチにあえば、残念ながら、スキルはすぐに破られるだろう。
というか、それすらも使えなくなっていた。
でもーー
「どうしてこれだけ使えるのかなぁ」
『時間旅行』
多分これは生まれつきの力なんだと思う。
スキルの中で唯一これを使うことができると、なんとなく直感する。
「あっ」
背中に思いっきり何かの爪が刺さる。
(もう一度使ったほうがいいのかな?)
痛みを感じながら、冷静に思考する。
(なんだか、また逃げるみたいで嫌だけど………するしかないよな〜)
負け惜しみは負けるよりもみっともないと俺は知っているのでしない。
戦略的撤退も重要なのだ。
「『時間旅行』」
再び、使用する。
次はどんなところにつくのだろうか?
できれば、あまり変わった時代には生まれたくないな。
生きるためには、これをする必要があった。
そして、皮肉なことに、このスキルのおかげで、俺の人生は狂っていくこととなる。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「これは………ふふ。放ってはおけないわね」
誰かの声がする。
だが、俺は眠気には勝てない。
再び俺は眠りの世界へと渡っていく。
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