第12話 名前を決める
「ほら!行くよ!」
「キュン!」
「そ〜れ〜!」
「キュン!」
私は手に持っていた短めな枝を遠くに向かって投げる。
その枝は庭ギリギリの方まで飛んでいく。
だが、それは地面に落下する前にキツネによってキャッチされる。
そして、そのキツネは私のもとに枝を咥えて戻ってくる。
「おぉ〜!偉い偉い!」
私はそのキツネを撫でる。
キツネは嬉しそうに、おとなしくしている。
(というか、そろそろ名前を決めてあげたほうがいいのかな?)
この子を屋敷に入れてから二週間くらいがたった。
だが、私はいまだにこの子の名前を考えていないし、思いついてもいなかった。
(大問題ってミサリーに言われたけど……)
正直にいえば、私は名前なんてなくてもいいと思う。
そこにいることに意味があるわけだ。
だったら、名前なんてなくてもいいのでは?
それが私の回答なのだが、それではダメだと言われてしまった。
(父様にも許可をもらえたわけだし、名前を考えなくては!)
だけど、私にはいいものが浮かばず、二週間が経ってしまったというのが現状である。
「誰かの意見を求めたほうがいいのかな」
一週間前もそんなことを考えた。
ミサリーに試しに聞いてみたら、『ブラウンドラゴンがいいと思います!』だそうだ。
いや、だっさ。
父様に聞いてみたら『コンコン』以下、私の母様も同じだった。
だっさ。
ちなみに、兄様二名は共に無回答でした。
うん………まあいいけどさ〜。
使用人のみんなもなかなかセンスがなかった。
そう言っている私も名前は浮かばない。
(うちの家族ってば名前のセンスがないのね………)
センスがない割にどうして、私の名前とか普通なんだろう………。
「キュン?」
キツネは不思議そうに私の顔を覗いてくる。
「やっぱり名前を必要なの?」
「キュン!」
うん!という風に言うかのように一鳴きする。
「う〜ん、誰に意見をもらうべきか……」
やはり、子供の方が想像力があるだろう。
「あ、まだいるじゃん!聞いてない人!」
まだ、聞いていない人。
まあ、ここの屋敷の人間じゃないんだけどね。
「早速行こう!」
私はキツネを連れて歩き出す。
♦︎♢♦︎♢♦︎
私は、再び屋敷を抜け出し、街の方にやってきていた。
「前来たお店はここだっけ?」
見覚えのある通りを歩いているうちにおばさんのお店らしき場所を見つける。
「失礼しまーす!」
「はいは〜い!」
中からどことなく聞き覚えのある声が返ってくる。
「どちらさ、ま………?」
「お久しぶりです!」
「ああ!ベアトリスちゃんだっけかい?久しぶりだね〜!なんかちょっと大きくなった?」
「一応四歳になりました!」
「そうかい、だからなのね!」
おばさんは相変わらずの様子でニコニコしている。
「おばさん、アレンってどこにいますか?」
「ん?アレンかい?多分だけど、広場の方で遊んでいるとおもうよ。行ってみな」
「はい!」
元気よく返事をして、私は広場とやらの場所まで向かうのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
(広場ってどこ?)
私は道に迷っていた。
広場はまだ行ったことがない場所で、マッピングの魔法にも記載されていない。
「まあ、いつかつくでしょ!」
気長に散歩する。
髪の中にキツネを忍ばせながら。
(おばさんは気付かなかったみたいね〜)
流石に街中でキツネは少し目立つ。
私の素性を知っている人からすれば絶好の機会で、また攫われかねないからね。
警戒は大事だ。
なので、キツネくんには隠れていてもらう。
(そういえば、『くん』って言ったけど、この子性別どっちなんだろ?)
確認しようとすると、すぐに逃げられる。
どことなく恥ずかしがっているような?
まあ、気のせいだと思うが………。
尻尾で覆っているのが愛らしかったのを今も鮮明に思い出せる。
そして、私は表の通りを歩く。
「もう人に聞くかぁ〜」
私は通りを歩く人に広場がどこにあるか聞く。
「ここをまっすぐ行ったところ?はい、ありがとうございます!え?一人で行けます。はい、どうも」
赤の他人と話すのはやはりちょっと苦手だ。
体が硬くなってしまった。
だからか、心配されてしまった……。
まあ、場所は聞けたからよしとしよう。
足早に私は向かっていく。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「お〜い!アレン、そっち行ったぞ〜!」
「了解!」
鬼役の友達が俺のことを追いかけてくる。
俺はその友達から逃げる。
だがーー
「あぁ〜!捕まった〜!」
また捕まってしまった。
自分はかなり足の早い方だと思ってたが、井の中の蛙だったのだろう。
友達と一緒に鬼ごっこをすると、序盤はまだいいのだ。
だが、少ししたら、体力的に限界を迎えてしまうのだ。
そこが自分の課題だろう。
(ベアトリスみたいに早くなりたい!)
その一心で、最近は朝走ってみたり、いろいろやっている。
鬼ごっこは………ただの遊びだが………。
「はぁ〜!いったん休憩しよ!」
「おう、んじゃ、いったん帰って俺飲み物取ってくるわ!」
「じゃあ、俺は食べ物!」
そう言って自分以外の友達が自らの家に帰っていく。
「はぁ〜。いっそのこと魔法が使えたらいいなぁ〜」
理想とは少し違うが、ベアトリスみたいに強くなると言う面では、かなり当てはまってるだろう。
「噴水とかも凍らせたりできたらなぁ」
そんな声を漏らす。
するとーー
「え?」
バキバキという音ともに、目の前の噴水が固まっていく。
「久しぶり!」
誰かの声が後ろからした。
地面に座っている状態から後ろを向く。
そこには自分の理想ベアトリスがそこにいた。
「ふぇ!?」
「あはは!声裏返ってる!」
思わず口を塞ぐ。
顔が赤くなるのがわかった。
「これ、凍らせて何かしたかったの?」
「え?ああ、別に」
自分の呟きを聞いていたのだろうベアトリスが噴水に向けて指をさした。
(ん?ちょっと待て!もしかしてーー)
「噴水、凍らせたのってベアトリスなの?」
「うん!そうだよ」
元気よく返事をするベアトリス。
かぶっていた帽子が落ちそうになっているのが可愛く感じられる。
「す、すげぇ………」
「そんなことないよぉ〜?簡単な氷結魔法だからさ」
「へ、へぇ」
自分の理想がさらに遠くなった気がした。
体を鍛えて強くなればいいと思っていたが、理想は魔法も使えるらしい。
つまりは、勉強もしなくてはならないのだとさ。
(まじかぁ〜)
軽く天を仰ぐ。
(勉強しとかないとな………)
理想に近づくためには嫌なことでもしなくちゃいけない。
今度父親に本をねだってみよう。
「んで、今日は何しに来たんだ?」
久しぶりということもあって、理由を尋ねてみる。
「えっとね、今日は質問をしに来たの」
「質問?」
「うん!」
ベアトリスが自分の髪の中から何かを取り出す。
「え?キツネ?」
彼女の手の上にちょこんと乗っていたのは、キツネだった。
茶色で統一され、白色の毛が所々に散りばまられていて、さらにサラサラな毛並みをしているのが特徴的だ。
「このキツネがどうしたの?」
「えっと、名前を決めて欲しいの」
「名前?まあいいけど」
「あ、ちょっと待って!その前にさっきまで何してたの?」
食い気味に聞いてくる。
「ただの鬼ごっこだけど?」
「鬼ごっこか〜!いいなぁ〜!」
羨ましいものを見るかのように俺の顔を覗き込んでくる。
(何度も覗き込まないでくれ!)
顔が赤くなってないか心配になるのだ。
「で、名前だっけ?え〜と、どうしようかな」
「は〜や〜く!は〜や〜く!」
催促をされると、なかなかに焦ってくる。
「人の名前っぽくてもいい?」
「いいけど?」
「じゃあ“ユーリ“で」
「え?なんで?」
「有理っていう言葉があるんだけど、道理が通っている、筋道がしっかりしていること。なんか縁起がいいと思って………。まあ、最近知って思い出に残っているってだけだけど」
「ふ〜ん、いいんじゃない?」
「適当かよ………」
俺はあまりの適当さに苦笑するのだった。
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